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29話:もうすぐセツナ様ともお別れになる……(アリシア視点)

 シフォンケーキのお店で楽しくケーキを食べていった後。


 それから私達は少しだけ街の中を散歩していき、エルフェミナ家の屋敷へと戻ってきた。今はちょうど私の部屋に帰ってきた所だ。


「お疲れさまでした、アリシアさん。外に出かけて疲れとか出ていませんか? 身体は大丈夫ですかね?」

「全然大丈夫ですよ。とても楽しいひと時を過ごす事が出来ました。今日は本当にありがとうございます、セツナ様」

「はは、そうですか。それなら良かったです。そしてアリシアさんは街中でかなり元気に歩けていましたね。倒れたりふらついたりする事もほぼ無くしっかりと歩けていて安心しましたよ」

「ふふ、それこそセツナ様のエスコートのおかげですよ。今日は私のために沢山エスコートして下さって本当にありがとうございました」


 私はセツナ様に頭を下げながら感謝の気持ちを伝えていった。


 本当は街中に出かける時、少しだけ不安に思ったんだけど……でもセツナ様が私の事をしっかりと一日エスコートしてくれたおかげで、私は不安に思う事はなくなり、とても楽しい気持ちで街中を歩く事が出来たんだ。


「あ、それとシルスさんも今日は一日ありがとうございました」

「いえいえ。私はただの付き添いでしたからほぼ何もしてませんよ。むしろお嬢様のエスコートを全て引き受けて下さって本当にありがとうございました。セツナ様の完璧なエスコートのおかげで、私はお嬢様の命令通り黒子役に徹する事が出来て良かったです。お嬢様の命令を破ったら怖いですからね」

「ちょ、ちょっと、シルス。何を言ってるのよ……!」


 シルスは笑いながらそんな事を言ってきたので、私はジト目でシルスの事を見ながらそう言った。


「ふふ。冗談ですよ。何はともあれ今日は一日ありがとうございました、セツナ様」

「はい。こちらこそ外出に付き合って頂いてありがとうございました。それじゃあそろそろ俺は自分の部屋に戻りますね」

「はい、わかりました。それでは今日も一日お疲れさまでした。また明日もよろしくお願いしますね。セツナ様」

「はい。明日もよろしくお願いします。それでは失礼します」


―― ……バタンッ


 そう言ってセツナ様は私の部屋から出ていった。こうして私の部屋にはシルスと二人きりになった。


「ふふ、今日は本当に楽しいひと時だったわね。セツナ様には感謝してもしきれないわ……」

「そうですね。今日のお嬢様はずっとニコニコとされていてとても楽しそうでしたね。とても楽しそうな雰囲気が私の方にもしっかりと伝わってきましたよ」

「えっ? そ、そんなに顔に出ていたの? それはちょっと恥ずかしいわね……」

「恥ずかしい? それはどうしてですか?」

「だ、だってその……何だか子供っぽく見えるでしょ? セツナ様よりも私の方が年上なのだから、もう少し年上としての威厳を出しておきたかったというか、なんというか……」


 シルスにそんな指摘をされて、私は少しだけ顔を赤くしながらそう呟いていった。


「ふふ、そんなの気にしないで良いじゃないですか。確かにお嬢様の方がセラス様よりも年上ですけど、でも私からしたらお二人ともまだまだ子供ですからね。子供は子供らしく楽しく笑っているのが一番ですよ。それにセツナ様だってムっとした表情をしてる女性なんかよりも、常にニコニコと楽しそうに笑っている女性の方が好きだと思いますよー?」

「ふぇっ!? あ、も、もうっ……! シ、シルスはすぐそういう事を言うんだから……」

「ふふ。申し訳ありません。それにしてもセツナ様とは今日初めてお話をさせて貰いましたが、想像以上にお優しい殿方なんですね。お嬢様や従者達がセツナ様の事を良く言っている理由がわかりましたよ。今日もお嬢様のために街の中をしっかりとエスコートして下さりましたし、紳士的な殿方なんですね」

「えぇ、本当にそうなのよ。セツナ様は凄く優しい殿方なの。初めて出会った時から今日に至るまでずっと変わらず……ふふ、とても優しい方なのよ」


 私はシルスの言葉に頷いていった。本当にセツナ様はとても優しい殿方だった。


 セツナ様は今日は一日私のために街中のしっかりとエスコートをしてくれた。それに私の思い出の店でもあるシフォンケーキ屋さんの場所も事前に調べておいてくれた。


 それとシフォンケーキのお店の中で、ふとお母さまの事を思い出して悲しくなってきた時……セツナ様は私の気持ちを察して悲しませないように明るい話を沢山振っていってくれた。


 こんなにも私のために色々としてくれるなんて……セツナ様は誰よりも優しくて素敵な殿方だと、私はそう思っていった。


「えぇ、本当に優しい殿方でしたね。それにセツナ様からもお嬢様の事をとても大切にしてくれてる雰囲気がとても伝わってきましたよ。あんなにもお嬢様の事を大切に思って下さってるなんて、従者の私もとても嬉しい気持ちになりましたよ」

「え? セ、セツナ様が私の事を……? そ、そうなのかしら……? ふふ、もし本当にそうなら嬉しいわ……」

「えぇ、本当ですよ。ですからちゃんといつかは……お嬢様の本心はちゃんとお伝えした方が良いですよ?」

「……えっ? な、なにを言ってるのよ、シルス……?」

「ふふ、別にとぼけなくて良いですよ。私はお嬢様にお仕えして十年以上も経つんですから、お嬢様の気持ちくらいわかりますよ」

「えっ? あ、うっ……」

「ふふ、顔を赤くしてるお嬢様も可愛いらしいですね。でも心に思ってる事はちゃんと口に出さなきゃ伝わらないモノですからね。ですからお嬢様もセツナ様に言いたい事があるのならちゃんと伝えた方が良いと思いますよ。セツナ様だってこのままずっとここに居続けて下さる訳ではないんですから」

「……えっ? ……あっ! そ、そっか、そういえば……そうだったわね……」


 シルスにそう言われて私ははっとした。


(そ、そうだよね……セツナ様の故郷はこの王都ではないものね……)


 セツナ様はグランデ領にある小さな街からやって来たと言っていた。つまりセツナ様の故郷はこの王都ではないという事だ。


 だからセツナ様は私のリハビリの依頼が終わったら、きっと故郷のグランデ領に帰る事になるだろう。


 私は今までずっと楽しく過ごしていたせいで、その事実をすっかりと失念していた。セツナ様とずっと一緒に居られる訳ではないという事に……。


「……そうだよね。セツナ様は依頼が完了したら故郷のグランデ領に帰られるに決まってるわよね……」

「えぇ、そうです。ですからこのまま心残りがあるとお嬢様も辛くなると思いますよ。私としてはお嬢様が心に思ってる事はいつか必ずセツナ様にお伝えした方が良いかと思います」

「うん。そうね。わかった……セツナ様が故郷のグランデ領に帰られる前に……ちゃんといつか必ず自分の口で伝えるわ」


 私はシルスの言葉に頷きながらそう言った。セツナ様がいつグランデ領に帰る事になるかはわからない。


 まだ食事会なども残っているし、そんなすぐに帰られる訳ではないけど……でも近い内に私のリハビリ依頼が完了するのは決まっている。だからその前に……ちゃんとセツナ様にしっかりと伝えようと思う。


(それと……今までの感謝の気持ちでセツナ様には何かを贈りたいな)


 私はそんな事も思った。今までセツナ様には沢山の恩を受けてきた。この恩を返すためにも、何か形のある物を贈りたいと思った。


 だけどセツナ様にはどんな物を贈ったら喜んで貰えるのかな? セツナ様が欲しい物とかがあれば良いんだけど……。

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