14話:アリシアの妹と出会う
ギルバートはそんな提案をしてきてくれた。俺はちょっとだけ面を食らいつつも、こう尋ね返していった。
「えっと、俺はごく普通の一般人ですよ? そんな俺がエルフェミナ家の御屋敷に泊っても良いんですか?」
「もちろんだよ。セツナ殿さえ良ければだけどね」
「それはもちろん、御屋敷に泊めて頂けるなんて凄く有難いですよ。金銭的にもベッドの寝心地的にも助かりますし。でもこの御屋敷にはアリシアさんっていう年頃の女性がいるじゃないですか。そんな御屋敷に男の俺が泊るってあまり良くないんじゃないかなーって思ったりするんですけど……」
「なるほど、その意見は至極真っ当だね。まぁアリシアならきっと大丈夫だと言うと思うけど、それじゃあ一旦アリシアにセツナ殿がこの屋敷に泊っても良いかを尋ねてみてくれないかな? それでアリシアが了承したら、セツナ殿はこの屋敷に幾らでも泊ってくれて構わないよ」
「はい、わかりました。それじゃあアリシアさんに今から尋ねに行ってきます!」
「うん。よろしく頼んだよ。それと私はこの後は仕事で外に出ないといけないんだ。だからアリシアの了承が得られたら屋敷にいる従者にその旨を伝えてくれないかな? そうしたら来賓用の部屋を用意してくれるはずだよ」
「はい、わかりました。色々と親切にありがとうございます。それじゃあ早速アリシアさんの部屋を尋ねてみます。ギルバート様もお仕事頑張ってください!」
「うん。ありがとう」
という事で俺はギルバートに別れの挨拶をしていき、すぐにアリシアの部屋に向かった。
◇◇◇◇
それから程なくして。
アリシアの部屋の前に到着した。するとその時……。
「? 何だか賑やかな声が部屋の中から聞こえる。メイドさんと話してるのかな?」
アリシアの部屋の中から楽しそうな声が聞こえた。相手は若い女性の声だ。屋敷で働いているメイドさんかな?
とりあえず俺はそんな事を思いながらも、早速部屋のドアを軽くノックしていった。
―― コンコンッ
『ふふ、そうなのね……って、はい? どなたですか?』
「俺です。セツナです」
『まぁ、セツナ様ですか! 鍵は開いてますので入って下さい!』
「ありがとうございます。それじゃあ……」
―― ガチャッ
「失礼します。こんにちはアリシアさん」
「はい、こんにちは。今日のリハビリはもう終わったのに、また屋敷にいらしてくれたんですね。またセツナ様とお会いできて嬉しいです」
「はい、俺も嬉しいです。それで、えぇっと……アリシアさんのお隣にいるその女性は誰なんですかね?」
俺はアリシアに挨拶をしていってからすぐにアリシアの隣に座っている若い女の子が誰なのか尋ねていった。
最初は若いメイドさんかなっていう予想だったんだけど、でも目の前の女の子はメイド服を着ていない。凄く高価そうなワンピースドレスを着ている。だからもしかしたらアリシアと同じで貴族の子なのかもしれない。
ちなみにその女の子はパッと見た感じはアリシアよりも年下に見えた。髪色はアリシアと同じく金髪だけど、ショートヘアにしていてちょっとだけボーイッシュな雰囲気も感じる。
うーん、一体この女の子は誰なんだろう……?
「あぁ、セツナ様は初めてですよね。改めて紹介させて頂きます。この子は私の妹のエステルです。年齢は16歳なのでセツナ様と同じ年齢です」
「初めまして。エルフェミナ家の次女であるエステルです。姉から色々と話は聞いています。どうぞお見知りおきを」
「え……って、あぁ! そういえばアリシアさんには妹さんがいるって言ってましたね。ご丁寧にありがとうございます。俺はセツナです。よろしくお願いします!」
という事でなんと目の前の女の子はアリシアの妹のエステルという子だった。
そういえば以前にアリシアから妹がいるという話を聞いたっけ。なるほど。この子がアリシアの妹さんなんだな。見た目はボーイッシュな姿をしているけど、確かに雰囲気とか佇まいはアリシアに似てる気がするなぁ。
「? どうかされましたか? 私の顔をジロジロと見て……何か顔に付いてますか?」
「え? あ、い、いえ、何でもありません! お姉さんと雰囲気が似てるなーって思って、それでついジロジロと見ちゃいました……す、すいません!」
「あぁ、そういう事ですか。ふふ、大好きなアリシア姉様と雰囲気が似てると仰って頂けるなんて嬉しいです。それと私、セツナ様とお会いしたいと思っていたので、こうやってお会いする事が出来てとても嬉しいです。今回はアリシア姉様を難病から救って下さって本当に……本当にありがとうございました」
そう言ってエステルは礼儀正しく深々とお辞儀をしてきた。その仕草だけでもとても気品溢れる感じがした。流石は貴族様だ。
「いえいえ、俺はヒーラーとして当然の事をしたまでですよ。でも俺はここ最近は毎日エルフェミナ家を訪れているんですけど、エステル様と出会ったのは今日が……」
「あ、様付けは結構ですよ。アリシア姉様と同様に砕けた口調で呼んで下さって構いませんよ」
「あ、はい。ありがとうございます。それじゃあお言葉に甘えて……エステルさんとは今回が初対面だと思うんですけど、普段はこの御屋敷にはいないんですかね? もしかして今まで何処か出張とかにでも行かれてたんですか?」
「いえ、そういう訳ではありません。私は既にクルセイド伯爵家に嫁いでいますので、普段はクルセイド家の屋敷に住んでいるのです」
「え? エステルさんってもう結婚しているんですか? とても若いのにもう結婚されてるなんて意外ですね」
「いえ、貴族界にとっては皆これくらいの年齢で結婚をするものですよ。幼少の頃からお茶会や社交界のパーティを通じて沢山の方々と交流を深めていって、大体15歳前後で婚約者を定めていくんです。そしてそれから何も問題が無ければ数年以内に結婚をしていくのが通例になっていますね」
「なるほど。そういう通例なんですね。ふぅん、15歳前後で婚約か……」
そういえばアリシアからギルバートと奥さんは幼馴染同士で親公認で婚約を結んでたって聞いたっけ。
(婚約者がいるだなんて、何だか恋愛小説の世界みたいだな)
俺はエステルの話を聞きながらそんな事を思った。そしてこの異世界の貴族たちにとっては婚約者がいるのが当たり前というような感じらしい。でもそうなると当然気になる事が一つ出てくる。それはもちろん……。
「えっと、ちなみになんですけど、アリシアさんって、その……婚約者とかそういうのはいるんですか?」
もちろん俺が気になったのはアリシアの婚約者とかそういうのについてだ。アリシアとはここしばらくの間毎日会っているけど、でもアリシアの元には婚約者らしき男性は一人も看病に来た事はなかった。
(あと単純になんというか……もしアリシアさんに婚約者がいたら……うーん、ちょっとモヤモヤとするかもなー……)
俺はそんな事も思った。何でモヤモヤとするのかはわからないけど、何だかそんな気持ちになってしまった。だけどアリシアの回答は……。
「私ですか? いえ、私には婚約者は一切おりませんよ。そもそも私は今までずっと病気に伏していましたから。婚約者とか考えてる時間なんて私にはありませんでしたしね」
「あ、そうなんですね。ほっ……って、あれ?」
アリシアから婚約者がいない事を聞かされると俺はホッと安堵していったんだけど……でも何で俺は安堵したんだろう? うーん?
「? どうしましたセツナ様? 眉間に皺が寄って難しい表情をされてますけど、何か気になる事でもありましたか?」
「えっ? あ、あぁ、いや、何でもないです! 確かにアリシアさんは今までずっと病気に伏してたからそんな場合じゃなかったですよね! あの病気はとても辛かったと思いますし、そんな事を考えてる場合じゃなかったって事ですよね」
「はい。まぁそもそも私に対して婚約したいと打診する殿方はいませんからね……」
「……え? どういう事ですか?」
「単純な話ですよ。私は今までずっと恐ろしい病気に罹ってボロボロの醜い姿になっていましたからね。私が恐ろしい病気に罹ってボロボロの醜い姿になっていた事は周りの貴族様には伝わっています。そんな病気を持った醜い身体をした女の事を好きになったりとか、婚約したいなんていう物好きな殿方はいませんよ……」
「アリシア姉さま……」
「アリシアさん、そんな事はないですよ」
「え? って、あっ」
―― ぎゅっ
「アリシアさんは凄く優しくて素敵な人ですよ。だから誰もアリシアさんの事を好きにならないなんて事はないですよ。だからアリシアさんは悲観なんてしなくて絶対に大丈夫です」
「セ、セツナ様……」
「それにもしもアリシアさんに醜いとか酷い事をとか言うヤツが現れたら、俺がそんなヤツをアリシアさんの代わりにぶん殴ってやりますよ。だから辛い事があったらいつでも俺に言ってくださいね。俺がアリシアさんの分まで怒ってやりますから!」
「セツナ様……はい、ありがとうございます。セツナ様にそう言って頂けると……ふふ、何だか凄く勇気が出ます」
「はは、それなら良かったです」
落ち込んでいるアリシアの手をぎゅっと握りしめながらそう言った。するとアリシアはすぐに柔和な笑みを浮かべながらそう返事を返してきてくれた。
元気を取り戻してくれたようで何よりだ。
「……ふふ、温かい空気ですね。でも急に二人だけの空間にならないで下さいよ? 私もいるんですからね?」
「え?」
「あっ」
そしてそれからすぐにエステルはニヤニヤと笑いながら俺達に向かってそんな事を言ってきた。
妹さんのエステルに今の光景を見られてたのはちょっとだけ恥ずかしい気もしたけど、でも俺はアリシアには本心しか伝えてないから別にいいか。嘘を言った訳じゃないしさ。




