13話:アリシアが呪術をかけられた可能性
俺はそれからすぐに呪術についてスクルドに尋ねていった。
「そ、それでスクルドさん。呪術っていうのは具体的にどんなモノなの? 魔法の一種なの?」
「そうだよ。呪術ってのはかなりマイナーな魔法の一つで、極東の僻地に住んでる呪術師ってのが長い修練の末に習得する事が出来る魔法だよ。かなりマイナーな魔法だから一般的には知られてない魔法なんだ。俺も偶然極東に旅をした事があるから呪術師を知ってるってだけで、普通の人達は呪術師なんてヤツらがいるのは知らないだろうな。そんで呪術ってのは対象の相手に“呪い”を与える恐ろしい魔法だ」
「そ、そんな……そんな危険な魔法がこの世界にはあるんだね……」
「いや魔法が危険かどうかは使い方次第によるさ。そもそも呪術は極東の僻地に生息している狂暴なモンスターを倒すために呪術師が生み出した魔法だって聞いたからな。だから本来呪術というのはモンスターを倒すために使われる魔法のはずなんだよ」
「なるほど。本来はモンスターを討伐するために使われる魔法か……って、ちょっと待ってよ? 呪術師って人達がこの呪術魔法を使うんだよね? そ、それって不特定のモノをランダムに呪うって訳じゃないよね? 指定したモノを呪うって事だよね? そ、それじゃあつまりさ……」
「あぁ、そうだな。だから“お前の依頼人”は明確な悪意を持って呪われたって事になるな。おそらく恨みとか敵意を持ってたヤツが呪術師に依頼して“お前の依頼人”を呪って貰ったんだろうな」
「そ、そんな……」
スクルドからそんな話を聞かされて俺は絶句した。あんな優しいアリシアに対して、誰か悪意を持った人間がいただなんて……そんなの全く信じられない。
しかもアリシアが病気に伏したのは今から三年前……つまりアリシアが15歳だった頃だ。そんな年齢の子供を殺したい程恨んだりとか敵意を持つなんて本当にあり得るのだろうか?
「でも……なるほどね。だから診察を受けても全然病名がわからなかった訳だし、病気ではなく呪いだったからヒーラーの回復魔法が受け付けなかったって事なんだね」
「あぁ、そういう事だな。さっきも言ったけど呪術なんて普通の人間は知らねぇはずだしな。だから呪いを解呪する専門魔法を覚えてるヤツなんて稀だよ。それなのにセツナは本当に凄いな。呪いを解呪出来る魔法を覚えてるなんてさ。一体どうやってそんな希少な解呪魔法を覚えたんだ?」
「え? あ、あぁ、うん。まぁね。色々と頑張って覚えてきたんだ。と、という事で俺、ちょっとこの話を伝えに依頼人の所に行ってくるよ! それじゃあ、またね。スクルドさん!」
「おう。わかった。そんじゃあな」
そう言って俺はスクルドと別れていき、急いでギルバートがいるエルフェミナ家の屋敷に向かった。
◇◇◇◇
それからしばらくして。
「……という事らしいです」
「なるほど。呪術か……」
エルフェミナ家の屋敷に到着した俺は執務室に入れて貰いギルバートと話をしている所だった。
「そんな希少な魔法が存在するなんて知らなかった。でもなるほどね。道理でこんなにも長い間誰にもアリシアの病気の原因がわからなかった訳だ。そもそも病気じゃなかったなんてね……」
「はい。それでギルバート様。一つ聞きたい事があるんですけど……アリシアさんが誰かに嫌われてたりとか悪意を持たれたりしていた可能性ってあったりしますか?」
「いや。私にはそんな心当たりは一切ないよ。セツナ殿もわかってくれると思うけど、アリシアは誰よりも心優しい娘だからね。だから誰かに嫌われたり悪意を持たれたりする可能性は流石に無いと思うんだけど……」
「はい。俺もそれはギルバート様と同意見です。でもそうなると、もう一つの可能性がありますよね……」
「……そうだね。私に対して……か」
「……はい、その可能性がありますよね……」
俺はギルバートの目を見ながらそう言った。アリシアが嫌われてたり悪意を持たれたりしてないとすれば、そしたら父親であるギルバートに対する悪意が考えられる。
「……そうだね。私はエルフェミナ公爵家の当主だ。仕事上で時に厳しい判断をしてきた事は今までに何度もある。だから誰かに嫌われたりしてる可能性は十分にあるが……」
ギルバートは辛そうな表情をしながらそう伝えてきた。まさか自分のせいで娘が傷つけられたなんて可能性が出てきたら誰だってショックを受けるはずだ。
だから俺はショックを受けているギルバートに向かってすぐにこう言った。
「もちろんあくまでも可能性の一つです。そもそもギルバート様もアリシアさんと同じで凄く優しい御方ですから、そんな娘さんの命を狙ってやろうと思う程に悪意を持たれてるなんて俺は思いません」
「セツナ殿……」
「でもアリシアさんに対して呪いを依頼した人間がいる事も事実です。その犯人をどうにかして見つけなきゃですよね。そうしないとアリシアさんがまた辛い目に遭う可能性が出てきちゃいますし……」
「そうだね。アリシアを傷つけようとした犯人捜しについてはこれから私や執事長たちの方で対応を考えてみるよ。ありがとうセツナ殿。こんなにも参考になる情報を持ってきてくれて。そして私に対して優しい言葉を投げかけてくれて本当にありがとう。本当に貴殿は誰よりも心優しい少年だね」
ギルバートはそう言って俺に笑みを浮かべてきてくれた。
「いえいえ。俺はギルバート様に対して思った事を率直に言っただけですよ。それじゃあ呪術を依頼した犯人捜しの方はギルバート様達にお任せしますね。俺はこれからもアリシアさんのリハビリのお手伝いに専念しますので」
「うん。わかった。アリシアの事を今後ともよろしく頼むよ、セツナ殿」
「はい、任せてください! それじゃあ今日の用件はこれで全部ですので、そろそろ俺は宿屋に帰りますね」
「うん。わかった……って、あ、ちょっと待ってくれないかな」
「はい? どうしました?」
そろそろ帰ろうと思って執務室から出ていこうとしたその瞬間、ギルバートは俺を呼び止めてきた。
「セツナ殿は今は王都の宿屋で生活しているのかい? それだと宿泊費とか結構かかってるんじゃないかな? ここまで長く王都に滞在する予定では無かったはずだから、所持金が足りなくなったりしてないかい?」
「いや、俺が利用してるのは小さな安宿だからそんなに費用はかかってないですよ。まぁベッドはかなり狭くて寝心地は全然良くないのはちょっと辛いですけど」
「ふむふむ、なるほどね。 そういう事ならば、セツナ殿は我々エルフェミナ家に対してこんなにも良くしてくれてるから……だからどうかな? 良かったら王都の滞在中はこのエルフェミナ家の屋敷に泊っていかないかい?」
「……えっ!? こ、この御屋敷にですか??」
ギルバートはそんな提案を俺にしてきてくれた。一般人の俺が公爵家の屋敷に泊らせて貰うなんて……こ、これってかなり特例な提案なんじゃないのか?




