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第三章・第一幕:戻らないもの

全身で感じる冷たく、乾いた空気。

手のひらで感じる、フィルの温もり。

「二番線、電車が参ります。黄色い線までお下がりください」

ヒューという音とともに巨大な箱が減速する。

フィルによるとこれは電車というらしいが......僕が地下で見ていたものとは少し違う。

「いこう」

フィルは僕の手を引き、箱の中へ引き込む。

「ドアが閉まります。駆け込み乗車はおやめください」

シューという音とともにドアが閉まり、電車は動き出す。

体が横に傾く。こんな感覚は初めてだ。

「大丈夫?」

「うん......平気だよ」

席に座り、窓の外を眺める。

立ち並ぶ高い建物の数々、たくさんの人がいる商店街、街の中心を流れる大きな川。

どれもこれも、初めて見るものだった。

世界はまだまだ未知でいっぱいだ。

「......そういえば、今日はどこへ行くの?」

「......遠いところ」


 かなり長い時間がたった。

景色は都市ではなくなり、段々と赤や茶色が多くなってきた。

「ナディエ、いったんここで降りるよ」

「わかった......」

何だか、フィルの表情が硬い気がする。


ホームは、最初に乗った駅よりも遥かに人が少ない。

それに、何だかさびれている。

「乗り換えをしなきゃいけないからね、えっと......三番線に行けばいいのかな?」

「迷ってる?」

「......そんな頻繫に行くところじゃないし」

フィルは笑顔を浮かべる。

でも、どこか違和感を感じる。

「さ、いこう。電車が来ちゃう」


再び電車に乗る。

窓の景色は見違えるほど変わった。

灰色の世界から一気に赤や茶色が増えた。

「この辺は人が少ないからね。電車も、僕ら以外ほとんどいない......田舎だよ」

確かに、この車両には僕とフィル以外には乗っていない。

「なんだか......寂しいね」

フィルは何も言わなかった。


「ここで降りるよ」

そう言われて降りたのは、山に囲まれた、町はずれの駅。

こんなところに何の用が......。

「ちょっと待っててね」

そう言ってフィルはどこかに行ってしまった。

あたりを見回しても、特に何もない。

風に吹かれて飛んできた紅葉、地面を転がる枯葉、冷たい北風。

空気が澄んでいて......遠くまで見える。

「お待たせ、ナディエ。行こうか」

そう言って先へ進むフィルの腕の中には、花束が抱かれていた。


「こんにちは~」

しばらく歩くと、古い民家のような場所にたどり着いた。

「おう、フィルか。おかえり。その子は......」

「うん、ただいま。おじいちゃん。この子はナディエ」

「そうか。話はあとで聞く。まずは、お父さんとお母さんに挨拶してきなさい」

「うん、わかった。いこう、ナディエ」

フィルは僕の手を引き、外へ向かった。


「父さん、母さん、会いに来たよ」

「フィル......?これはただの石だよ?」

「......ナディエ、君がいた地下ではどうだったか分からないけど、人は死んだらこうやって石の下に眠るんだよ」

「えっと......、つまり......」

「僕の両親は、もういないんだよ」

「......?!」

「父さんは事故、母さんは病気。......小さい頃のことだからね、もうあんまり気にしてないよ」

「......」

「さ、お花も生けたし、戻ろうか」

「ねえ......フィル。寂しくないの?」

「......母さんが言ってたんだ。つらいことは、神様から与えられた試練だって。それを超えたら、もっと強くなれるって。だから、寂しいのも、つらいのも、全部我慢して、笑顔でいるべきだって......」

フィルは石に触れる。

「でも、でも......会いたいよ......」

「フィル......」

「いいんだ......もう」

「え?」

「もう、いいんだ。失われた命が戻ってくることはない。過去は変えられない。全部、運命という掌の上なんだよ。

そう、戻ってこない。フィルの言う通りだ。

レントも、アステル姉さんも、戻ってくることはない。

「でも、未来は変えられる......って母さんが言ってた」

フィルは振り向き、歩き出す。

「いこう、未来を創るんだ」



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