197 知りたいのに知りたくない
どうぞよろしくお願いします。
ミレーヌはぼーっとそんなことを考えながらも、屋敷の中の動線や造りをなんとなく見て覚えながら、奥の方の客間と思しき部屋まで連れて行かれた。
エリオスとイアンも一緒でほっとする。
そこで何人かのメイドを紹介され、手の縄も解いてもらえ、身支度を整えられた。
逃げたら、日数はかかるにしろ、いずれ、ケイト達に危害が及ぶ。
ミレーヌはエリオスの提案を受け入れ、このままファルク家の内情と真の黒幕とその真意を知ろうと決心していた。
おとなしく身支度を受け入れ、髪は結い上げて布飾りで包む髪型があるのだが、布飾りの中に詰め物をして整えてくれた。
着替え終わると部屋に戻ってきたエリオスがびっくりした目でミレーヌを見た。
「いやはや、同一人物とは思えないな」
鋭い目が丸くなっているのを見て、ミレーヌは笑った。
ファルク公爵が会いに来た。
ミレーヌの父、ゴードンより少し上だろうか。
一応、聖女として、貴族令嬢としての敬意は払ってくれているようだが……。
ここに『ミレーヌ』はいない、ひとりの少女を保護したのだということを何度か言われた。
ギルドが探している『ミレーヌ』だとは知らなかったということにしたいのだろう。
「……ギルドに連絡は?」
ミレーヌの言葉に一瞬躊躇して「然るべき時に我が家が保護していることを公表する。レイオス辺境伯爵家にもお知らせする」と言われる。
レンダート伯爵家には? と思うが、さすがにそこまでミレーヌも聞けなかった。
客人としてファルク公爵家で過して欲しいと言われ、渋々頷くミレーヌ。
その日の夜は久しぶりのふかふかベッドでぐっすり寝ることができた。
次の日、特に何もすることがなく、部屋でぼーと過す。
ファルク公爵と……、ケイト達を人質に取ってまでミレーヌに言うことを聞かせようとするやり方が……、どうも一致しない。
まあ、人の本質や思いなどわかるわけがない。
ジョルジュにしろ、リオルにしろ、ミレーヌには思ってもいなかった思いや行動をされて……。
カイエンだってそうだ。ミレーヌは気持ちが重くなった。
そうだ、お互い愛し合っていると、気持ちを信じて、あんなに幸せだったのに。
それはミレーヌだけの思いで、カイエンには……、コーデリアがいたのだ。
人の本当の気持ちなど、わかりっこない。
ミレーヌの沈んでいく気持ちに気がついたのかエリオスが声を掛けてきた。
「どうした、姫さん?」
ファルク公爵家としてはミレーヌという名を使いたくない。どこから漏れるかわからないからだ。
それで移動中、周囲に人がいる時はエリオスとイアンは『聖女』と呼んできたのだが、ミレーヌがその名は嫌だと言い、ふたりは『姫様』と呼び始めたのだが、途中から『姫さん』になっていた。
クルトといい、ミレーヌには様が似つかわしくないと付き合っていくうちにわかってしまうのだろう。
「いえ……、私は……、人の裏を読むのが本当にできなくて……」
「人の裏なんて考えなくていいと思うぞ。姫さんは、まあ、裏ないからな」
イアンが苦笑しながら言った。ミレーヌも苦笑する。
エリオスとイアンは顔を見合わせ、エリオスが口を開いた。
「周囲のことは気にせず。
何か事が起きたら、それに対処するというやり方で行けばいいさ。
姫さんがここにいてくれれば、姫さんの大切な人達は無事だ」
「うん、村にいるのはエリオスとイアンのパーティの仲間だもんね。ふたりは信用できるから、そっちの人も信用する……」
「心配なのは村のことじゃない?」
「……なんだろう。王都のことも……。
逃げ出したのは私なのに。その後どうなっているか……。
もう関係ないのに、気になって……。でも、知りたくない気もある……」
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