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クラウディア・ヴァルトブルグ侯爵代理は30分後に婚約したい。  作者: 砂糖はろ
クラウディア・ヴァルトブルグ侯爵代理は30分後に婚約したい。
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22 そして侯爵代理は、

「悪い提案ではないはずだ。次期国王の妃になれるのだから」


 国王はクラウディアの戸惑いを見切っているようだった。


「なぜ第二妃になることを提案したのかというと、互いに利点がいくつかあるからだ。一つ目。農民からの絶大な支持を集められることだろう。君のためなら喜んで働く連中もいるだろう。農業中心の我が王国にとっては、大きいことだ」


 しかしクラウディア自身は自分が農民から人気であると思ったことはない。普通に接しているだけのつもりだ。確かにヴァルトブルグ領の農民は他の領と比べると生活水準が高めなのかもしれないが。


「二つ目。君の計画している学校や診療所などの建設計画を国規模で行うことができる。これによって国民全体の生活水準が上がることだろう。ヴァルトブルグだけでなく、他の地域にまで、だ」


 国王はやはりクラウディアのことを良く知っているようだった。学校や診療所、孤児院などの計画を知っている。もちろん書類では提出しているが、きちんと目を通してくれているらしい。

 クラウディアが領民のことを一番に考えていることを国王は分かっているからこのような提案をしているのだろう。もし第ニ妃という地位になることができれば、予算も桁違いに違いない。その予算を使って、好きに政策を行うことを許すという意味なのだ。


「三つ目。君に顕示欲があるかは知らないが、王妃という地位は貴族令嬢なら誰でも望むことだ。子を産めば、自分の子が次の国王になる可能性もある。また、君がまだエドワードを好いているのなら、好都合だろう。どうだ?」


 ぶちん。

 クラウディアの中で何かが切れる音がする。とはいえ冷静でいなくてはならない。たとえ何かが切れたとしても、相手は国王だ。


「国王陛下の折角のご提案ですが、もちろんお断りいたします。理由はたくさんあります」


 クラウディアは、もちろん、を強調して言った。あくまでも冷静に、とは思いながらも頭は沸騰しそうで、国王への怒りやら失望やらが渦巻いている。


「一つ目。農民の私への人気はあるかもしれません。しかし、貴族からの人気は全くありません。「金狂いのクラウディア」と揶揄されているくらいなので。むしろ貴族からは猛反発を喰らうことでしょう」


 令嬢のいる貴族の家庭からすれば、クラウディアなんぞを妃にするなんてありえない話だろう。貴族からの支持が得られぬのなら、国の存亡に関わる。


「二つ目。私のちっぽけな計画など、聡明な陛下によればすぐに叶うことだと思います。陛下は今までも孤児院の救済計画や、貧民に仕事を分け与えるなどの政策を行なっていらっしゃいます。第二妃になった私でなくても、できる仕事だと思います」


 クラウディアの計画は貴族としては珍しいものかもしれないが、それでも誰にでもできることだ。クラウディアでなくてもいいとなれば、クラウディアが妃になる必要なんてない。


「三つ目。愛し合っているエドワード王子殿下とアイリス様の間に入るなんてことは私にはできません」


 以前孤児院でアイリスと話した時を思い出す。アイリスはエドワードのためにあれほど努力をしてみせたのだ。そのアイリスの王子への愛を思い返せば、クラウディアは第二妃なんて名目で間に入ることは到底できるはずはないと断言できる。


「四つ目。私自身の意思として、妃になりたくはありません。エドワード王子殿下に対しては……」


 クラウディアは続きを言おうとしたものの、一瞬止まる。「以前好きだった」と言おうとしたものの、ふと違和感を感じたのだ。「好き」はテオに対する気持ちのようなものだったはずだ。しかし、思い返してもエドワードに対してそういう気持ちを持って接していたとは思えない。ただ、家族になりたい、大切にされたい、その一心で行動していた。


「……エドワード王子殿下と家族になりたいと思っていたこともありました。王室の仲の良さをヴェーラー公爵から伺い、私も家族が欲しいと思いました……。エドワード王子と結婚すれば、私も王室の中に入り、良い家族ができるのだと思っていました」


 クラウディアは、最初にエドワード王子に執着し始めたことを思い出していた。

 ヴェーラー公爵と初めて王宮へ参上したときに、王子と王、王妃の姿を遠目から見たのだ。柔らかく笑い合う姿に、クラウディアは理想の家族像を見た気がしていた。クラウディアが貴族として憧れるヴェーラー公爵もクラウディアには優しかったが、どうも次男のルイスとは馬が合わず衝突をしていた。しかしこの王族達は慈愛で溢れている、とクラウディアは実感したのだ。その時から、クラウディアは王子と家族になりたいと思った。何がなんでも、王子と王族と仲の良い家族になりたかったのだ。

 王子への気持ちは「好き」の気持ちではない。ただの執着、執念だ。


「しかし、今は違います。私の婚約者と、私は結婚したいです。家族を作りたいです。ですから陛下のご提案を謹んで辞退させていただきます」


 クラウディアの真摯な表情に、王はため息をつく。


「………………そうか。ヴァルトブルグ侯爵代理。誠に残念だが、君の気持ちはわかった。第二妃という側室制度自体、名は存在はするものの、廃れた習慣だ。私とて、無理にそれを押し付けるつもりはない。エドワードも反対するだろう」


 長い沈黙の後、国王の口の端を上げながら言った。しかし、クラウディアには本当に残念に思っているようには見えなかった。おそらく試しに言ってみただけなのだろう。クラウディアの反応を見るがために。


「有能な君をよその国にやるかと思うと……もっと私の目が行き届いていればよかったと過去を後悔するばかりだな。もっと早く君を知っていれば、こんなことにはならなかっただろう」

「よその国に、やると言われましても……私の居場所はこの王国にしかありません」


 もしかして、クラウディアが第二妃を断ったことで、国外追放をするつもりなのだろうか、とクラウディアはゾッとする。しかし、国王はクラウディアの言葉に反応することはなかった。


「では君への二つ目の提案だが、それは貴族院で全員の前で提案することとしよう。来たまえ」


 国王は玉座から立ち上がると、スタスタと後ろの扉へと向かって歩く。その後ろを宰相のバル公爵が続く。クラウディアは慌てて階段を登り、国王の後をついていった。



 国王の後に続いて行ったクラウディアは部屋にたどり着く。その部屋の中には、後ろにいたバル公爵を除く四大公爵家、そしていくつかの侯爵家の当主が揃って席についていた。そして国王が入って来たのを見て、立ち上がる。

 国王は何事もないように奥の席へと腰掛け、貴族院の貴族たちに「座って良い」と声をかけた。特に石も用意されていないクラウディアは、どこへ行っていいのかわからず、とりあえず壁の近くに立つことにした。


「諸君、待たせてすまなかったな。只今より貴族院を開始する」


 国王は貴族院のメンバーに向かって声をかけた。貴族の当主たちは、なぜこの小娘がいるのだと不審な目で見てくるようだった。あのベルク公爵だけは、クラウディアを見てほくそ笑んだ、ように見えた。ヴェーラー公爵もそこに座っていたが、心配そうにクラウディアを目をやった。目があったクラウディアは大丈夫だと思います、と心の中で伝えるものの、それは伝わりきれていなさそうだった。


「それでは、一つ目の議題の、今年の予算計画についてですが……」と書記官らしき男が言おうとした時、国王がそれを止めた。


「いや、待ってくれ。議題に入る前に、決定事項がある。クラウディア・ヴァルトブルグ侯爵代理についてだ」


 クラウディアは自分に話題が上がったことに、表情は変えずとも動揺する。先程自分に提案があると言っておきながら、ここでは決定事項であると言い切ったということは、もう変えられないということだ。


 もし、先程の第二妃の話をされたらどうしよう……

 クラウディアは手前に重ねた手のひらに力を入れる。



「クラウディア・ヴァルトブルグ侯爵代理の爵位を剥奪する」



「なっ……」

 

 それを聞いて立ち上がろうとしたのは、ヴェーラー公爵だった。

 クラウディアも唖然とするばかりだ。先程、謀反に対する疑いは晴れたと思ったのに、爵位の剥奪とは如何なることなのか。


 もしかして、第二妃を断ったことで爵位を剥奪することを決定してしまったのだろうか……?でも、もし剥奪されたとしても、第二妃になることだけは断固拒否するわ。言ってやるの、国王陛下にだって、剥奪されるのならば容赦せず言ってやる。


 ヴェーラー公爵が何かを言おうとしたのを、国王は手で制止した。まだ続きがあるという意味だろう。



「そして、クラウディア・ヴァルトブルグに侯爵位を叙爵し、クラウディア・ヴァルトブルグ侯爵とする」


 

 ヴェーラー公爵は目を丸くして、国王を見ていた。そして、壁際で立っていたクラウディアも思わず声をあげそうになるものの、慌てて口を手で押さえる。


 クラウディア・ヴァルトブルグ侯爵代理ではない。クラウディア・ヴァルトブルグ侯爵となったのだ。


「これは決定事項であるが、意見は聞こう」


 国王が言うと、手を挙げたのは、背が低く、小太りで髭を生やした貴族だった。ルイーザの父、ベルク公爵だ。ルイーザにとって幸せなことに、ルイーザは完璧に母親似で、父親から受け継いだのは青い目だけだ。


「ベルク公爵、発言を許そう」

「王族以外の女性が叙爵されるのは初であります。それもまだ18の娘にです。今までヴェーラー公爵に頼ってきただけの小娘には、侯爵の爵位はあまりにも大きすぎるのではないのかと」


 おそらく、クラウディアが謀反を企んでいると国王へ忠言したのはベルク公爵であろうとクラウディアは踏んでいた。謀反の疑いがあると国王へ言ったのにも関わらず、なぜクラウディアが叙爵されたのか、納得がいかないようだった。

 ヴェーラー公爵は冷たい表情で、ベルク公爵を見つめている。国王は鼻でフッと笑った。


「ふむ、初の試みであることは事実だ。クラウディア・ヴァルトブルグがまだ成人したばかりということでも、なかなかないことだろう。ただ、クラウディア・ヴァルトブルグにはそれだけの実績がある」


 実績という言葉を聞いて、国王はクラウディアのしてきたことを結局どのくらい知っているのだろう、と思う。貴族からクラウディアは評価されたことはない。好意的にしてくれるのはモール伯爵など生前父と親交が深かった貴族だが、その数だって少ないくらいだ。たとえヴェーラー公爵が褒めたところで、身内を褒めたようにしか聞こえないだろう。


「一番大きな功績は、税収を前ヴァルトブルグ侯爵と比較すると、2倍ほどに引き上げた点だな。前ヴァルトブルグ侯爵も十分すぎるほど税を納めていたが、クラウディア・ヴァルトブルグに関していえば、昨年分は二倍に引き上げている。ヴェーラー公爵やその他の者とも確認をしたが、これはクラウディア・ヴァルトブルグが1人で行ったことであり、ヴェーラー公爵は決裁だけ行ったということだ」


「なんと……」

「そんな」

 周りの侯爵たちが小さな声で驚愕の声をあげる。 

 税収を二倍にするなんてことは不可能に近い。それをわかっている貴族院の貴族たちはざわめいた。

 先程国王にクラウディアが言った通り、これは運が良かっただけだ。暴風の被害に遭った小麦の量が少なかった、そして小麦の価格が高騰した、というだけでクラウディアの成果と言われても、手放しでは喜べないのだが、他の貴族を黙らせるにはちょうどいい話だった。


「君の娘のルイーザが、これほどのことができるのならば、ルイーザにも公爵位を授けてもいいだろうが、どうかね?」


 国王はベルク公爵に笑顔を向ける。その笑顔からは圧力を感じ、向けられていないクラウディアでさえも背筋を伸ばしたくなるほどだった。


「……陛下の意のままに」


 ベルク公爵が何も言えなくなったのを見て、他の貴族たちも何も言葉を発することはできなかった。クラウディアは気まずい気持ちで立つしかない。


「クラウディア・ヴァルトブルグ侯爵。これから貴族院の会議のため、君は外しなさい」


 国王の提案は終わったらしい。国王は今日見せたことのない優しげな表情をクラウディアに見せる。


「はい」


 外へ出て、扉が閉まるのを確認したクラウディアは今までの緊張を解きほぐすように盛大なため息をつく。たかが少しの距離を移動しただけなのに、吸っている空気の味さえも違うように感じられた。

読んでいただきありがとうございました。おそらく残り2話になります。

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