第009話 新居
アリアが中に入ったので続く。
すると、すぐに受付があり、金髪のおばさんが座っていた。
「おかえり。ん? その人は? 同僚?」
おばさんが俺を見て、首を傾げる。
「そうそう。ウチのチームのリーダーのレオン」
「レオン・ヘルフェリヒです」
一礼する。
「丁寧な人だね……」
「ヴァルテンブルクで騎士をやっていた人なんだって。すんごく強い!」
「騎士ねー……」
おばさんがじろじろと見てくる。
やはり敵国の騎士はマズいだろうか?
「あ、レオン、お母さん」
アリアがおばさんを指差す。
どことなく似ているし、やはりそうか。
「ハンナだよ。それでどうしたんだい? 部屋デート?」
「違う、違う。レオンは今日、王都に来たばっかりで部屋を探しているんだって。それでウチを紹介。部屋、空いてるじゃないの」
んー……
「アリア、俺が探してるのはアパートだぞ。宿屋じゃない」
「ウチがそのアパートなの。昔は宿屋だったけど、良いホテルなんかにお客さんを取られたから改築して、アパートにしたのよ」
そういうことか。
宿屋っぽいと思ったが、元宿屋か。
「少し部屋を見せてもらっていいだろうか?」
「どうぞ。アリア、案内してあげな」
「うん。レオン、こっち」
アリアが2階に上がったのでついていく。
「2階か」
「ええ。1階の奥がウチら家族のスペース。左側に部屋があったでしょ。あそこは食堂。朝、昼、夜に営業してる。別料金で3万ロットかかるけど、朝昼晩の食事も用意できるわよ。別に部屋で食べても良い」
へー……
元宿屋を生かしているんだな。
俺達が2階に上がると、左右に4つずつの扉がある廊下に出た。
「今空いてるのは右手前とその隣。内装は一緒」
じゃあ、どっちでもいいな。
「手前を見せてくれ」
「どうぞ」
アリアが扉を開け、中に入ったので俺も続く。
部屋は何もなかったが、10畳くらいある。日当たりも良さそうだし、奥にはキッチンスペースもある。
トイレと風呂も確認したが、悪くなさそうだった。
「8万ロットか……」
「あ、食事つきプラン前提なんだ」
「料理を作ったことがない。孤児院と寮だったからな」
どっちも食堂があり、料理は出た。
孤児院は量が少なくてひもじかったが。
ちなみに、前世もない。
カップラーメンにお湯を入れるだけ。
「どうする? 他を探して、もうちょっと吟味しても良いと思うけど」
「うるさくないんだよな?」
「普通ね。この辺は行政区で、繁華街じゃないから。まあ、それが宿屋が流行らなかった理由なんだけど」
ちょっとわかる。
しかし、俺としては職場から近いのが良いな。
「エル、ここに決めても良いと思うんだが、どうだ?」
「良いんじゃね? 問題なさそうだし、食事付きっていうのが良いと思う。外食で栄養が偏るか、無理に料理をして、火事になるのが不安だ」
栄養はともかく、火事はさすがにないと信じたい。
でもまあ、エルは賛成か。
「アリア、ここにしようと思う」
そう言って、財布から8万ロットを出し、アリアに渡す。
「どうもー。こっちでいい? 隣も空いてるけど」
「こっちでいい」
どっちでもいいし。
「じゃあ、ここね。朝食は6時から9時、昼食は11時から14時。夕食は17時から20時までだから。時間外は別途料金ね。あと食べなくても料金は固定。あ、それと仕事の日はお弁当も作れるわ」
サービスが良いな。
「弁当は頼みたい」
「了解。お母さんに伝えておく。あ、それとだけど、休みの日や夜は部屋で食べることが多くなると思う。お客さんが多いから」
それはそうか。
「わかった。すまんが、どこか剣を振れるところがないだろうか? 朝、素振りをするのが日課なんだ」
「あー、騎士様だもんね。中庭を使っていいわよ。受付の横に通路があったでしょ? あれが私らの住居に繋がる通路なんだけど、そこの途中で中庭に出られるわ」
受付の右側にはあったな。
左側がここに上がる階段。
「助かる」
「いーえ。あ、買い物とか行く? 案内できるけど」
「いや、家具なんかは持ってきてる」
「ん? え? もしかして、魔法のカバン持ち?」
アリアが肩にかけているカバンを見る。
「ああ。高かったけど、買ったんだ」
「へー……あなた、結構、給料をもらってたのね。さすがは騎士様」
他に使うのは魔導書くらいだったからな。
「こういうのが好きなんだよ」
「ふーん……じゃあ、大丈夫そうね。何かあったら下にいるお母さんに言って」
「ありがとう」
「ごゆっくりー」
アリアが手を上げ、部屋から出ていった。
「良い子だな」
「上手くやれそうな同僚で良かったじゃねーか」
まったくな。
「ああ。よし、やるか」
魔法のカバンからベッドや本棚、テーブルといった大物を取り出した。
力には自信があるし、楽々配置すると、大量の魔導書を取り出し、本棚に入れていく。
すると、ノックの音が聞こえてきた。
『レオンー? いるー? 入っていい?』
アリアの声だ。
「大丈夫だ」
そう答えると、扉が開き、アリアが入ってきた。
アリアの手には巻かれた紙がある。
「おっ、良い感じになってるわね。というか、すごい本の量じゃないの。あなた、読書家なの?」
アリアが部屋を見回しながら聞いてくる。
壁はほぼ本棚で埋まっており、それが入る本が床に置かれているのだ。
「魔導書だ。趣味なんだよ」
「へ、へー……これ、全部?」
「九割九分な」
一応、小説もある。
「すごいわね……本職の私より持ってるじゃないの」
「10年以上かけて、集めたんだ」
「ヴァルテンブルクでしょ? あっちはそんなにないと思うけど……ん? これ、大魔女グレースの魔導書じゃないの。めっちゃレアよ?」
アリアが本棚から一冊の本を取った。
「王都の古本屋や地方に行った時に買ったりだな。国境沿いには結構あるんだ。あとは知り合いの行商人に頼んだりもした」
「本当に好きなのね……おっ、大魔導士アーサーの本まである。お宝を持ってるわねー」
「一番のレアはそこで飛んでる本だな」
そう言うと、アリアがエルを見る。
「まあね……しかし、すごいわ。見たことない本も多い」
「読みたかったら読んでいいぞ」
「いいの?」
「別に読むくらいならな」
減るもんじゃないし。
「どうもー」
「代わりといったらなんだが、本屋の場所を教えてくれよ」
「あ、そうそう、その話。地図を持ってきたわよ」
アリアが巻かれた紙をテーブルに置く。
「助かる」
「ちょっと説明するわ」
アリアがそう言うので手を止め、席についた。
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