第010話 初日終了
地図は王都全体が描かれた大まかなものだ。
「まず、ここがあなたが来た西駅ね」
アリアが左の方を指差す。
「これが線路か?」
駅から線が伸びており、中央を通って、街の東に繋がっている。
「ええ。街の中を列車が通っているのよ。大きく分けて、西が行政区、南が住居区、東が商業区や繁華街、北はお城や教会があるわね。もちろん、お店も家もどこにでもあるけど」
なるほど。
確かに繁華街から遠いな。
「治安部はこの辺か?」
歩いてきた感覚でおおよそのところを指差す。
「ええ。この辺に行政関係が集まっているの。あ、でも、軍の本部は北ね。お城の近く」
「なるほど」
ヴァルテンブルクも城の近くに軍部がある。
それはここも変わらないらしい。
「それとこれは伝えておかなければならないわね。住居区と繁華街のさらに東のここ」
アリアが街の南東の方を指差した。
「ここは?」
「スラムがある」
スラムか……
「確かに俺達の仕事的に関係ありそうだな」
スラムは貧困で苦しむ人達がいるのだが、犯罪者が隠れる場所でもある。
「ええ。子供の頃から絶対に近づくなって言われている場所だけど、そういうわけにもいかなさそうなのよね」
「そうだな。ただ、単独で行くことは避ける。これは絶対だ」
特にアリアとまだ見ぬフィリスはそう。
女性が行く場所ではないのだ。
「助かるわね。あ、魔導書を売っている本屋を丸してあげる」
「頼む」
アリアが地図に丸を描いていく。
それを見てるのだが、かなりある。
さすがは魔導国家だ。
「図書館とかないのか?」
魔導書は高いのだ。
節約できるならしたい。
「あるけど、魔導書は無理ね。そういうのは魔法専門の学校の図書館にあるけど、部外者は入れないもの。あ、私が持ってるのを貸してあげようか? そっちも見せてくれるって言うし、私のも貸すわよ」
「ありがとう」
本当に良い子だ。
「いえいえ。お互い様よ。でも、ヴァルテンブルクの騎士様が魔法に興味があるって珍しいわね。やっぱり魔法対策? なんか知んないけど、魔法を斬ってたし」
正直に言えば、何故魔法を斬れるのかは俺も知らない。
「本当に子供の頃から好きだったんだよ。魔法を見てみたいと思ったし、実際に見たら使ってみたいと思った。結局は剣術ができたから騎士の道に進んだが、できたら魔法使いになりたかったな。せっかく魔導国家と呼ばれるアルケインに来たし、魔法剣士になろうと思っている」
かっこいいし。
「へー……が、頑張って」
アリアが目を逸らした。
「無理なのか?」
「そ、そんなことないわよ。努力は必ず実るものってどっかの本に書いてあったし」
でも、目を合わせてくれないな。
さっきまでにこやかだった顔も引きつってるし。
「正直に答えてくれ。実はエルにもルーファスにも無理って言われた」
ルーファスは何も言ってないが。
「いやー……無理かなぁ? ちょっと厳しいかもー……」
無理っぽい。
「理由を聞かせてくれ。魔力がないとか?」
魔力を消費して、魔法を使うのは知っている。
「いや、魔力はあるわよ。ただねー……」
「教えてくれ」
「んーっとね、広義の意味ではほとんどの人が大なり小なり魔力を持ってるから魔法使いなのよ」
じゃあ、俺、魔法使いか?
「そうなのか?」
「ええ。でも、一般的にはその魔力を外に出せる人のことを魔法使いって言う」
外に出す……
「ちょっとわかる。クラークの火みたいなものだな」
「そうそう。禁止されてたのに使ったやつ」
まあ、そこはいいだろ。
「アリアもできるんだよな?」
「もちろん」
アリアが片手を上げると、テニスボールくらいの小さな火の玉が出てきた。
「それが俺にはできない?」
「ごめんね。ある程度、修練を積んでくるとさ、この人は魔法を使えるなとか、この人は無理だなっていうのがわかってくるの。魔力の質とか、動きとかそういうの。レオンはちょっと無理かな……」
そうか……
「魔法剣は無理か……」
子供の頃からの憧れだったが、厳しいようだ。
心がもやっとし、納得とショックが入り混じった感覚がする。
昔からある感覚だ。
「私が魔法を使って、それでやるとか? エンチャントはできるし」
エンチャントか……ものに魔法を付与する魔法だ。
「悪くないか。それなら俺でもできるかもしれない」
「そうそう。それで良いわよ。というか、人はあまり持ち過ぎたらダメよ? レオンはめちゃくちゃ強いし、よくわからないけど魔法まで斬れるじゃないの。それで十分」
20歳に諭されてる……
「そんなに持ってないんだがな……いや、いい。それよりも街のことを教えてくれ。俺が知らない魔道具も多そうだ」
「良いわよー」
その後、アリアから街のことや魔道具なんかを聞いていく。
ある程度、聞くと、魔導書の収納の手伝いもしてくれ、本当に良い子だと思った。
夕方になると、アリアが部屋から出ていき、着替えなんかをタンスに入れると、1階に下りる。
「夕食かい?」
受付にいるハンナが聞いてくる。
「ああ。食堂に行けばいいのか?」
「あー、日替わりで良いかい? 今、いっぱいなんだよ」
まだ17時前だ。
人気なんだな。
「わからないから日替わりでいい」
「じゃあ、持っていくよ。何か飲むかい? 別料金だけど」
ふーむ……
「ワインをくれ。初日だし、せっかくだ」
エルの言うようにちょっと生活を変えようと思う。
「了解。1000ロットだよ」
「ああ」
ハンナに1000ロットを支払った。
「じゃあ、上で待ってな」
ハンナが立ち上がり、食堂の方に向かったので2階の部屋に戻る。
しばらくすると、ノックの音が聞こえたので扉を開けた。
すると、料理とワインを持ったハンナが部屋に入ってくる。
「お待たせ。テーブルで良いかい?」
「ああ。悪い」
「まあ、座りなよ。初日だし、注いであげるよ」
ハンナがそう言うので席につくと、ワインを注いでくれた。
「ありがとう」
「いーえ。あんた、騎士なんだろ? ウチの娘を頼むよ。どうもおっちょこちょいなところがある」
「しっかりしていると思うぞ」
あとやっぱりだけど、ハンナと似てる。
「それでもね」
親、か。
「わかった。俺はチームリーダーだし、仲間を守る義務がある。騎士として、アリアを守ることを剣に誓おう」
騎士はクビになったけど……
「騎士様は言うことが違うね。かっこよすぎるよ」
そうか?
「普通だと思うんだが……」
「ウチの娘に言ってごらん? 顔を赤くするよ」
なんか恥ずかしくなってきたな……
そんなに変なことを言っているんだろうか?
「控えるようにする」
「そうかい? あ、そうそう。夜中にワインが飲みたくなったり、何か問題が起きたら受付にある呼び鈴を鳴らしておくれ」
「わかった。良いところを借りられて助かってる」
右も左もわからない異国だが、今のところは良い出会いが多い。
「ま、頑張んな」
ハンナはそう言って、背中を叩くと、部屋から出ていった。
「似てるよな?」
「ちょっとな……」
ワインを一口飲むと、温かい料理を食べていく。
普通の鶏肉の料理だし、別に高いものでもないと思う。
ただ、ワインも料理も列車の特等室で食べたものより美味しく感じた。
「エル、頑張ろうと思う」
「良いと思うぜ。それとよ、お前は騎士のままでいな」
ん?
「さっきやめようかなと思ったんだが……」
もちろん、急には変われない。
でも、少しずつ変えようかなと思った。
「お前はもうヴァルテンブルクの騎士ではない。アルケインの魔法対策チームのリーダーだ。でも、お前の剣は騎士の剣なわけだし、それは続けろ。悪くないから」
「そうか? 今日一日で結構言われたぞ」
姿勢がどうとか、言葉がどうとか。
「安心しろ。バカにされてるわけじゃないし、良い感情の方だ。お前だって、だらだらしながら挨拶されるより、綺麗な姿勢で挨拶をされた方が気持ちいいだろ」
それはわかる。
「だから続けろと?」
「ああ。そっちが良いぜ。お前はもっと欲を出した方が良いし、変わった方が良いところは多い。でも、良いところは変えなくてもいい」
まあ、異国の人間だし、受け入れてもらうためにも好感触の方が良いか。
「わかった」
その後、夕食を食べ終えると、風呂に入り、アリアにもらった地図を見ると、就寝した。
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