第007話 魔斬のレオン ★
感覚が研ぎ澄まされ、敵の一挙手一投足、さらには息遣いまでを冷静に観察する。
クラークの構えは悪くない。
やっている人間のものだし、弱くもない。
少し意識が前寄りなので受けではなく、自分から仕掛けるタイプだ。
一方で防御が甘く、こちらから打ち込める隙は十分にある。
ただ、向こうには魔法がある。
部長は禁じたが、そんなものを信じるのは二流だ。
どんな手段、どんな攻撃にも対処し、確実に仕留めなければならない。
「ふう……」
クラークが一息つき、じわりとすり足で近づいた。
距離としては10センチもない。
その後もすり足で近づいてきたが、こちらはまったく動かず、正眼のままで構え続けた。
向こうの殺気がどんどんと上がっていく。
それに反比例するかのようにこちらはどんどん冷静に、どんどん冷たくなる。
もう敵の筋肉の動きどころか、血の流れまで見える感じだ。
すると、クラークの右足が熱くなった。
「せいやー!」
クラークが踏み込み、斬りかかってきた。
当然、見えているので軽く受ける。
「くっ!」
力もスピードも想像通り。
驚くことはない。
「チッ!」
クラークは距離を取り、再び、構えた。
やはり攻撃寄りのタイプであり、防御は甘い。
次は確実に仕留められるだろう。
「どうした!? 来ないのか!?」
クラークが聞いてくる。
「行っていいのか?」
自分でも冷たい声だなと思うほどの声質で聞くと、クラークがわずかに後ずさった。
「来いっ!」
クラークはその怯えを隠すように前に出る。
ただ、前に出たものの、もう攻撃寄りの構えではなく、防御姿勢だ。
正直、さっきまでの攻撃姿勢の方が良かった。
自分の性格、慣れ、スタイルに反したことをしているので、もはやさっきの面影もないほどに隙だらけだった。
理由は簡単で、完全に呑まれてしまっているのだ。
その証拠にクラークはたいして動いてもいないのに汗まみれになっている。
――仕留められる。
そう思ったので前に出る。
「クソがっ!」
俺が前に出た瞬間、強烈な殺気を感じた。
「――クラーク!」
部長が叫ぶ。
それもそのはずであり、俺目掛けて、1メートルを超える火の玉が飛んできているのだ。
クラークの魔法だ。
俺が前に出たカウンターのタイミングで放った良い魔法の使い方である。
しかし、その手は読んでいたので剣を振る。
すると、火の玉が真っ二つに割れ、驚愕しているクラークと目が合った。
「魔法は見事。しかし、その次も用意しておくものだぞ」
隙だらけのクラークに向かって、剣を振る。
確実に仕留められるタイミングだった。
「――レオンッ!」
エルの叫び声と同時に剣をピタッと止める。
ちょうどクラークの額まで5ミリのところだ。
「そ、そこまでっ!」
部長の声と共にクラークが剣を落とし、尻もちをついた。
それを見て、剣を降ろすと、一礼する。
「おー! レオン、強いじゃないの! すごいわねー!」
シーンと辺りを静寂が包む中、アリアがこちらにやってきて、背中をバンバンと叩いてくる。
アリアの能天気な声で冷たくなった意識が戻ってきた。
◆◇◆
「モーガン議員、いかがですかな? あれが魔斬のレオンです」
私達は向かいのビルの最上階からレオンとクラークの試合を見ていた。
「ふむ……すばらしいな。その一言しか言いようがない」
「クラークは魔法と剣に長けた軍でも有望のエリートでした。弱くはありません」
その優秀さを買い、治安部に引っ張ってきたのだ。
「見ればわかる。しかし、子供と大人にしか見えなかったな。完全に臆しておったではないか」
それほどまでに実力差があるということだ。
「いくらクラークでもレオン相手では仕方がないでしょう。1人で1000人を斬ると言われた男です」
「天才レオンか……昔、魔法を斬るだの、鉄を斬るだの、噂になっておった騎士だな。ふっ、事実ではないか。本当に魔法を斬ったぞ。見たことがない。どうやったのだ?」
モーガン議員が興奮している。
気持ちはわかる。
私も魔法を斬るなんて初めて見た。
しかも、レオンは木剣だ。
「わかりません。しかし、私がどうしても引き抜きたいと言った理由がわかるでしょう?」
「十分にわかった。しかし、あれほどの男が何故、くすぶっておったのだ?」
「剣以外は不器用な男ですし、孤児ゆえに後ろ盾もありません」
実際に会っても、出世できそうにないなという印象だった。
「ふむ。妬まれ、出世争いからも外されたか」
「はい。衰えるまで飼い殺し。あとは放逐です」
ヴァルテンブルク王国最強の騎士団と言えども、結局は力より政治だ。
「あれで衰えておるのか?」
「わかりません。私には測れませんので」
羊がどうやって、虎の力を測るのか。
「私にも無理だな……良かろう。確かに魔法ではないああいう力もこの国には必要だ。ルーファス、お前に一任する」
「はい」
レオンは実直でわかりやすい男だ。
裏切ることもないし、安心して仕事を任せられる。
「しかし、魔法対策チームはあれで良いのか?」
モーガン議員がアリアを見る。
周りがドン引きし、畏怖の目でレオンを見ているというのにただ一人、楽しそうに騒いでいる。
「アリアはレオンのことを考え、人柄重視で選出しました。他2名もそっちを意識しております。プライドが高い者だとぶつかったり、妬んだりし、前職と同じようなことになる可能性もあるので」
そうでなければ、新人に毛の生えた人間は選ばない。
治安部は国家政策なのだ。
「ふむ……確かにそっちが良いか。上手くいくかもしれんしな」
レオンはどうかな……
「そういう意図もあります。引き留めるのにはそれが一番ですので」
実際、レオンがすぐに頷いたのも一人だったからだ。
「わかった。まあ、よくしてやれ。期待している」
「はい」
一礼すると、モーガン議員が部屋から出ていった。
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