第005話 治安部
「アリアさん、しゃべる魔導書は珍しいのか?」
「呼び捨てで良いわよ。私もそうするし。うん、珍しいわね。私は初めて見たわ」
ふーむ……
「エル、やっぱり外では普通の本のふりをしてくれ」
「はいよ」
エルが戻ってきたので抱える。
「ねえねえ、見せて、見せて」
アリアがせがんできたのでエルを渡す。
すると、代わりに持っている杖を渡してきたので受け取った。
「へー……全然、読めないわね。何の魔導書かしら? 年代もかなり古いし……」
アリアがパラパラとめくる。
「魔法使いでも読めないのか」
「うん。見たことがない文字ね……」
「もうちょっと丁寧にめくれー」
「あ、ごめんね」
アリアは夢中になってエルを読んでいる。
ちょっとすごいなと思ったのは簡単に杖を渡してきたことである。
会って間もない人間に武器を渡すなんて、俺には絶対に無理だ。
「アリア、案内を頼みたいんだが」
「あ、そうだったわね。ごめん、ごめん」
アリアがエルを返してくれたので杖を渡す。
「新設されるチームとは聞いているんだが、建物でもあるのか?」
「ええ。その辺りを歩きながら説明しましょう。ついてきて」
アリアが歩きだしたのでついていく。
辺りをきょろきょろと見ているが、やはり雰囲気が違う。
「魔道具屋とかも多いのか?」
「多いわよ。すごいでしょ」
すごいな。
休みの日に見て回ろう。
「それで新しい部署は?」
「レオンはどこまで聞いてるの? 私も急にルーファスから連絡が来たからあまり聞いてないのよね」
急だったのはわかる。
「対魔法使い、対魔道具による犯罪が増えたからその対策の一環で新設されるチームってことくらいかな? あとは採用条件」
「それだけ? え? それだけの情報で国を越えて来たわけ?」
アリアが驚く。
「昨日、声をかけられたばかりなんだ」
「え? 即決? そんなにヴァルテンブルクが嫌だった? あ、職場で揉めていたとか?」
「クビを言い渡された直後だったんだよ」
「……ご、ごめんなさい」
謝られてもな……
「まあ、そういうわけで即決だったんだ」
ちょっとは悩んだけどな。
「そ、そう……えーっとね、王都って人口が多いじゃない? それで犯罪が多いのはその通りなのよ。新しい魔導具ができる、犯罪に使われる、その対策の魔道具ができるって感じなんだけど、対策が追いついてなくて、後手後手に回っている感じなんだって」
いたちごっこか。
「なるほどな。便利さの弊害か」
「そんなところ。それでいて、軍と警察って正確には仕事が違うのよ。それで警察と軍の両方の権限を持った組織を作ったの。それが治安部。そこの一つのチームが私達魔法対策チームなわけ。リーダーはあなた」
警察は治安維持、軍は基本的に外敵の対処だからな。
となると、俺達はその両方をやるのか。
「そういうことか。チームの人数は?」
「私とあなたとあと2人」
4人か。
「少ないな」
「新設だし、これから増えるんじゃない? すでに動いているチームもあるけど、私達はまだこれから」
ふーむ……
「なあ、アリアって何歳だ? これまでどこにいたんだ?」
「私? 20歳。一昨年までは学生で、昨年から軍の経理をやっていた」
……ルーファスが新人に毛が生えたって言ってたが、マジでほぼ新人じゃん。
「他の2人もか?」
「えーっと、1人は私の1個上で去年までは警察にいた子。もう1人が26歳で中途採用の人。あなたと同じでどっかから引っ張ってきたんだって。あ、でも、その2人は研修で出てるからいないわよ。明日から復帰だけど」
うーん……確かにそのメンツでは俺がリーダーに選ばれるな。
「まあ、わかった。仕事内容は?」
「上から指示が来るか、警邏とかかな? その辺は私も聞いてない。そのチームに配属になってまだ間もないし、そもそも始動してないもん。他のチームでお茶汲みと雑用ばっかり。あ、経理は得意。学校でも成績が良かったのよ」
不安になってきたな、おい……
「エル、どう思う?」
「なるようになる」
ポジティブだ。
「あとでいいが、街の地図とかを見せてくれないか? そういう仕事なら把握しておきたい」
「いいわよ。あ、あそこ、あそこ」
アリアが指差した先には5階建ての建物があった。
まだ新しいように見えるし、塀の上に有刺鉄線が巻いてあり、厳重に作られている。
「軍の屯所みたいだな」
「実際、似たようなものだしね。行くわよ。部長に会ってもらわないといけないから」
歩いていき、建物の敷地に入る。
その際に塀に看板があったのだが、【治安部】と書かれていた。
どうやらこの建物全体が治安部のものらしい。
正面玄関から中に入ると、正面には受付があり、長い茶髪の若い女性が座っていた。
これまた顔立ちが整っており、華があるなと思った。
「ジェーン、ただいまー」
「アリアちゃん、おかえり。その方が?」
ジェーンと呼ばれた受付嬢が俺を見る。
「ええ。レオン」
「レオン・ヘルフェリヒだ」
「受付をしているジェーン・リドリーです。よろしくお願いいたします」
ジェーンと握手をする。
やはり柔らかい手であり、戦士ではない。
「それでさ、部長は? 部長室?」
「今は2階の特殊捜査チームにいるわよ。あ、レオンさん、ここを説明しますね。表に看板があったと思いますが、ここが治安部の部署になります。1階は総務、受付、応接室なんかもあります。2階と3階があなた方現場の詰所になります。4階が部長室、5階が倉庫になっています。地下には留置所もあります」
警察っぽいな。
「私らは2階の奥ね。ちょうどいいし、行きましょう」
「ああ」
近くにある階段を上がると、2階にやってくる。
廊下があり、左右に3つずつの部屋が見えるのだが、左側一番奥に【魔法対策チーム】と書かれた室名札が見えた。
「一番奥左側が私達ね。その正面が警備チームになるわ。その手前が左から諜報チーム、鑑識チーム、さらに手前が特殊捜査チームと魔道具解析チームね。あ、私達以外はもう動いてる」
ふーん……
「そこか」
手前左にある特殊捜査チームを見る。
「そうそう。嫌味な人達が多いから気を付けてね」
もうメンツや始動していないってところから何となくわかったんだが、魔法対策チームって微妙なんじゃ……
だって、ウチだけチーム名が抽象的すぎるし……
そう思いつつも、やることはやらないとなと決め、アリアと共に特殊捜査チームの部屋に入った。
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