第004話 アルケインへ
ルーファスが出ていき、昼食を終えると、お茶を飲む。
「エル、どう思った?」
「まあ、前の職場とやることは変わらねーんじゃねーの? 問題ないだろ」
騎士団も治安維持活動はするからな。
「リーダーだってよ」
「ヘッドハンティングでハイクラス転職だ。ついにお前の実力が認められたわけだな」
ふーむ……そう聞くと、良い気持ち。
「上手くやれるだろうか?」
向こうは魔法使い。
こっちは魔法の才能が皆無っぽい無骨な剣士だ。
住んでいるところが違いそう。
「大丈夫、大丈夫。気にするな。そんなことを気にしても仕方がないだろ」
「俺、人付き合いが得意じゃないんだよな」
「問題ねーよ。お前は真面目だし、トラブルを起こす……起こすかもしれんが、大丈夫だ」
歯切れ悪っ。
「考えても仕方がないか」
「そうそう。それよりもワインでも飲めよ。無料だぞ」
「昼間だぞ」
無料という言葉は惹かれるが。
「どうせ今日はここから動かないんだから別にいいだろ。せっかくなんだぞ」
「それもそうか」
ワインセラーに行き、1本のワインを取ると、グラスにちょっとだけ注いだ。
そして、雰囲気でくるくると回し、匂いを嗅いでみる。
「ぶどうの良い香りだ」
きっと高いんだろう。
「賭けても良いぜ。ぜってーわかってねー」
「1000ロットの安物のワインしか飲んだことがないな」
「いいから飲め」
その後、ワインを飲みながら過ごし、夜も牛肉のステーキとワインを楽しんだ。
やることもないのでさっさとベッドに入ったのが、俺のベッドよりも良いやつだったのがちょっと悔しかった。
翌日、朝起きると、日課の素振りをする。
「室内でやるなよなー」
「外に出られないんだから仕方がないだろ」
「それはそうだけど……それよりももうアルケインか?」
外には穀倉地帯が見えている。
「時間的にはそうだろう。あとちょっとだ」
素振りを終えると、汗を拭き、朝食を食べる。
朝食後、外を見ながら待っていると、トンネルに入った。
すると、ノックの音が聞こえてくる。
『レオンさん、起きてますか? 入っていいですか?』
ルーファスだ。
「ああ」
許可を出すと、扉が開き、ルーファスが部屋に入ってきた。
「おはようございます」
「おはよう。もう着くのか?」
「トンネルを抜けたら目的地の王都です」
当然だが、アルケインの王都に行くのは初めてだ。
「着いたらどうすればいい?」
「迎えに来るように伝えてありますので、その者に案内してもらってください」
伝える……電話か何かか?
「ルーファスは?」
「私はちょっと報告なんかをしないといけないんですよ」
そうか……勧誘に行ったら即日で乗ったしな。
「わかった。案内人についていけばいいわけだ」
「ええ。王都のことや詳しい仕事のこともその者に聞いてください。駅を出たらすぐにいると思います。あ、そうそう。これを……」
ルーファスが一枚の紙を渡してきた。
「これは?」
住所、か?
「私の住所です。何かあったら訪ねてきてください。あ、昼はダメですよ。仕事です」
「それは俺もだな」
「そうですね。おや? 着いたようですね」
トンネルを抜け、明るくなったのだ。
後ろを振り向き、窓の外を見ると、さっきまでの自然豊かな穀倉地帯から都会の街並みに変わっていた。
「アルケインの王都は発展しているな」
列車がモノレールのように高いところを進んでいるので街並みがよく見える。
俺がいたヴァルテンブルクの王都は昔ながらの重厚な街並みだった。
一言で言えば、中世な感じ。
一方でこのアルケインの王都は5階建てのビルも見え、近代に近い。
「魔道具の発展は街を……国を大きく変えました。ただ、人がそれについていってないというのが現状です」
ふむ……
「治安は?」
「良いところと悪いとこがはっきりしています」
だいたいわかった。
「そうか……」
「さて、降りましょうか」
列車が止まったのでカバンとエルを持ち、部屋を出る。
そして、列車から降り、ちょっと行ったところで立ち止まった。
「人も多いんだな」
「王都ですので。それではレオンさん、私はここで。そこの階段を下りたら担当の者がいます」
ルーファスが正面の下り階段を指差す。
「わかった。ルーファス、いまだに不安が大きいが、誘ってくれてありがとう。なんとか頑張ってみる」
「ええ。お願いします。困ったら遠慮なく、訪ねてきてください。夕食くらいは出しますよ」
良い人なんだろうが、どうもうさんくさいんだよな。
多分、にこやかなのに目が一切、笑ってないからだろう。
「ああ。そうさせてもらう」
「それでは……」
ルーファスは一礼すると、右の通路の方を歩いていった。
「1人になると急に不安になるな……」
異国で独りぼっちだ。
「そのうち慣れるだろ」
それもそうか。
ルーファスが見えなくなったので階段を下り、改札を抜けた。
すると、すぐ出口だったので外に出る。
「ほう……」
駅前ということもあるだろうが、多くの人が歩いているし、賑やかだ。
それに雰囲気がヴァルテンブルクとはまったく違うし、所々に魔法使いらしき杖を持った人間もいた。
魔法使いが少ないヴァルテンブルクではまず見ない光景だ。
立ち止まって、ワクワクと不安が入り混じった感情で辺りを見ていると、一人の若い女性が近づいてくる。
女性は長い金髪であり、身長が160センチあるかないかくらいだ。
綺麗な顔立ちをしているし、スタイルも良い。
そして、白いローブに杖を持っているので多分、魔法使いだろう。
「おはよう。もしかして、あなたがレオンさん?」
女性が聞いてくる。
「ああ。レオン・ヘルフェリヒだ」
「ヘルフェリヒ……その言いにくい感じは確かにヴァルテンブルクだわ」
慣れればそんなことないんだがな。
「そちらは?」
「失礼。アリア・ノーランドよ。あなたと同じ新設された魔法対策チームの人間」
同僚だったか。
「よろしく」
「ふーん……」
手を出したのだが、アリアはじろじろと俺を見てくる。
「どうした?」
手を出したままで気まずいんだが。
「ヴァルテンブルクから強い剣士が来るって聞いてるんだけど、本当? そんなに強そうには見えないわね」
「足は引っ張らないから安心してくれ」
「ふーん……まあ、見た目で判断は良くないわね。とりあえず、よろしく」
アリアがようやく手を握ってくれた。
柔らかい女性の手で剣なんか握ったこともない手だ。
身体つきや歩き方を見ても戦士ではない。
「魔法使いか?」
「見たまんまね……あなたは剣士でしょ? なんか本を持ってるけど……」
アリアが抱えている本を見る。
「あ、これは……」
「よう、ねーちゃん。俺はエルってんだ」
紹介する前にエルが飛び、挨拶をした。
すると、アリアがぽかんとエルを見る。
「手品かしら?」
アリアが目をこすった。
「魔法使いが手品とか言うなや。世の中にはこういう魔導書もあるんだよ」
もしかして、レアなんだろうか?
ヴァルテンブルクにはこんな本は他になかったのだが、魔導国家のアルケインには普通にあるかと思っていた。
「へ、へー……あ、腹話術だ! きっとそう! もう! 騙されないわよ!」
「こいつ、見た目よりバカだな」
うーん……何とも言えない。
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