第003話 特等室
駅にやってくると、ベンチに腰かける。
昼飯をどうしようかなーと、ぼーっと考えていると、後ろに気配を感じた。
「その薄気味悪い気配をやめたらどうだ?」
「ふふっ、よく言われます」
答えが返ってくると、ルーファスが俺の前に回ってくる。
「本当に密偵か?」
「密偵の類と言ったではありませんか」
厳密には密偵ではない、か。
「嫁さんや娘にその感じか?」
子供、泣くぞ。
「まさか。それよりも答えは出ましたか?」
「ああ……せっかくの申し出だし、受けようと思う」
「それはありがたいです。我が国はあなたを歓迎します」
地味にその言葉を言われるのは初めてな気がする。
「どうも」
「どうです? 夕方と言いましたが、便はありますし、もう出ませんか? それとも見送りとか?」
「いや、そんな親しい人はいない。いたらもっと悩んでいただろうな」
悲しいことに。
「では、こちらに」
立ち上がると、ルーファスと共に駅の構内に入る。
切符はルーファスが買ってくれたのでホームに向かった。
そして、止まっていた列車に乗り込むと、個室の前でルーファスが立ち止まる。
「個室か?」
こいつと同部屋か……まあ、別にいいけど。
「はい。どうぞお使いください」
そう言われたので中に入る。
窓際には装飾が施されたテーブルがあり、隅には大きめなベッドもある。
さらにはワインセラーまでもある特等室だった。
「ここか? 豪華すぎだろ」
「経費ですよ、経費。お気になさらずに」
マジか。
列車には何度も乗ったことがあるが、こんな個室は初めてだ。
「ベッドが1つしかないんだが?」
「もちろんですよ。私は別です」
「2人で使うのかと思った」
「それはさすがに勘弁願いたいですね」
ベッドが1つだしな。
俺も嫌。
「いいのか?」
「経費ですので。ご自由にお使いください。到着は明日の朝です。それではごゆるりと……」
ルーファスが一礼し、扉を閉めた。
「マジか。すげーな」
「VIPだろ。ワインもあるぜ。飲め、飲め」
「金を取られるんじゃないか?」
「知らねーよ。経費だろ」
部屋を見回しながらテーブルにつくと、ガタンと揺れ、列車が動き始めた。
「ヴァルテンブルクともお別れか」
この国はヴァルテンブルク王国というのだ。
「別にいいだろ」
「まあな」
テーブルに置かれていた冊子を手に取り、見てみる。
すると、ルームサービスのようで食事なんかのメニューが書いてあった。
「昼だし、何か食うか?」
「そのつもりだが……値段が書いてないぞ?」
「無料なんだろ」
本当に?
「うーむ……」
「どちらにせよ、経費だろ」
まあ……
「じゃあ、豚肉のソテーかな……」
「もっと大きくいこうぜ。自分のために生きるんだろ」
よ、よし……!
「牛にしよう」
魔道具の呼び出しボタンを押すと、駅員が来たので牛のステーキセットを頼む。
すると、いくらかかるかも言わず、料金を取られることもなかった。
そして、数十分後にステーキとパンとサラダのセットが来たので食べ始める。
「美味っ……」
柔らかいし、安い肉じゃない。
さすがは特等室だ。
「もう願いが叶ったな」
美味いものを食べたい、か。
「あとで請求されたら笑うな」
「ないと思うが、そんくらいは出せる貯金はあるだろ」
一人身だし、趣味が魔導書を集めるくらいだからな。
「夜もステーキにしよ」
「食え、食え」
ばくばくと食べていると、ノックの音が聞こえてくる。
「はい?」
『レオンさん、ルーファスです。よろしいでしょうか?』
「どうぞ」
許可を出すと、ルーファスが部屋に入ってくる。
「おや? 食事中でしたか。これは失礼」
「いや……あの、値段が書いてないんだが、いくらか知っているか?」
「ははは。特等室はすべて料金に含まれていますよ。道中は暇でしょうし、好きなだけ飲み食いしてください」
本当に無料……いや、特等室の料金っていくらだよ。
「ありがとう。なんかすでに話を受けて良かったって思ってる」
単純ですまん。
「いえいえ。ぜひとも楽しんでください。少し、話をしてもよろしいでしょうか?」
「こっちは構わない」
「では……」
ルーファスが席につく。
「何か食べるか?」
「私はあとでいただきますよ。ちょっと新しい職場の方の説明をしようと思いましてね」
新しい職場……
「あ、聞いてなかったな。てっきり同じような騎士関係の仕事だと思っていた」
これで書類整理とか文官の仕事だったらきついぞ。
「まあ、そんな感じですね。実は治安維持に関係する新たなる部署が設立されたんです。レオンさんにはそこに加わってほしいのです」
ほっ。
治安維持だ。
「新設部署か」
「ええ。その中の魔法対策チームです」
魔法対策?
「俺、魔法を使えないぞ」
魔導書をよく読んでいるから知識はちょっとあるけど。
「もちろんですよ。説明します。ご存じの通り、アルケインは魔導国家であり、魔法や魔道具が盛んです。そのせいか魔法関係での犯罪も多く、ちょっと社会問題になっているんですよ。それを解決する一つの方策として、対魔法や対魔道具の部署を新設することになりました。ほぼ軍部と警察ですね」
警察官かー。
かっこいい。
「俺が?」
「はい。あなたが」
ふーん……
「魔法を使えなくても良いのか?」
「魔法に魔法で対抗するのも良いですが、それとは別のアプローチが欲しいわけです。そう考えた時にレオンさんに白羽の矢が立ったわけです。実力もあり、対魔法使いにも優れる天才のあなたにね」
ふーむ……もう30歳でロートルに足を突っ込んでいるんだがな。
「俺ねー……」
確かに魔法使いとも何度もやりあったことはある。
「実はウチでも敵国から引き抜くのはどうかという声もありました。しかし、調べてみるとレオンさんは実力の割に評価されていませんでした。じゃあ、ウチがもらっても良いんじゃないかと……実際、そうでしたしね」
ちょうどクビになったもんな。
「まあ、仕事はするが……」
「お願いします。新設するチームにも魔法使いはいますので、何も一人でやってくれと言っているわけではありません」
「それは助かるな。まずもって、俺はアルケインを知らない」
メインの仕事は治安維持だろう。
そういうのは街を知らないといけない。
「ええ。その辺はチームで上手くやってください。レオンさんがリーダーですので」
は?
リーダー?
前世も今世も平だった俺が?
「俺が? 魔法も使えない30歳だぞ。しかも、ヴァルテンブルクの人間」
さすがになくないか?
「あなたが年長者なんです。それに他の者もほぼ新人に毛が生えたようなものです。指導してください」
指導……得意じゃないんだが。
騎士団でも剣を教えたことがあるが、後輩に抽象的すぎてわからないとよく言われた。
いや、相手は魔法使いだろうし、別に剣を教えるわけではないか。
「不安もあるが、やってみよう」
「何かあったら言ってください。新設ですし、人事を含め、検討しますので」
手探りか。
「わかった。一つ確認だが、犯罪者は斬ってもいいのか?」
何かを守るためには時にはやらないといけない。
「状況や犯罪の程度によりますが、その辺の判断はプロであるあなたにお任せします」
なら安心だ。
生け捕りほど難しいものはないからな。
魔法を使ってくる犯罪者ならなおさら。
「わかった」
「ええ。最後に私からも良いですか?」
ん?
「何だ?」
「その飛んでいる本は何ですかね?」
ルーファスがエルを見る。
「しゃべる魔導書だ」
「お前、うさんくせーな」
こら。
「…………そうですか。珍しいものをお持ちですね」
「古本屋で買ったんだ。実は子供の頃から魔法に興味があってな。趣味で魔導書なんかを集めているんだ。いつか魔法を使いたいと思っている。アルケインに行ったら俺も魔法が使えるようになるだろうか?」
「ははは」
ダメなの?
そんなに才能ない?
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