第026話 決起会兼歓迎会
シャワーを浴び、部屋に戻ると、服を着る。
「ふう……行くか」
剣を腰に着け、エルを持つと、部屋を出た。
そして、階段を下りると、受付でアリアを待つ。
「あんた、ヴァルテンブルクの騎士様だったんだろ? 家族は?」
受付で暇そうなハンナが声をかけてきた。
「いない。孤児なんだ」
「彼女とかは?」
「いないな。親しい人がいなかったから即決でこの国に来ることにしたんだ」
親しい本と来た。
「へー……何歳だい?」
「30歳だ」
「まだ若いじゃないか」
そうか?
「そんなに若いとは思わないが、まだ剣は振れる。この国で頑張っていこうと思う」
「良いことだね。結婚とかしないのかい?」
「その予定はないな」
あったこともない。
「ウチの子はどう? 器量も良いし、ちょっと抜けているところがあるけど、尽くしてくれると思うよ」
まさか母親が勧めてくるとはな。
「まだ来たばかりだ。仕事に慣れたい」
「否定はしないんだぜ?」
「まったくね……ん?」
ハンナがきょろきょろと辺りを見回す。
「あ、この本だ。しゃべる本なんだよ」
ハンナに本を見せる。
「エルって言うんだぜー」
「へー……しゃべる本なんか初めて見たよ」
驚かない人は初めてだな。
「そりゃそうだ。がはは」
がははと笑う本。
「お待たせー。ん? 何の話をしているの?」
アリアがやってきた。
「エルを紹介したところだよ」
「あ、なるほどね。それよりもレオン、髪が濡れてるわよ」
そう言われたので触れてみると、ちょっと湿っていた。
「タオルで拭いたんだがな」
「あ、ウチの国には温風が出る魔道具があるのよ。それで髪を乾かすの」
ドライヤーか。
「持ってないな」
「アリア、休みの日にでもそういう店に連れて行ってやりな」
ハンナが勧める。
ちょっとニヤニヤしてるが。
「そうねー……行く?」
アリアが小首を傾げながら聞いてくる。
そういう話をしていたこともあり、可愛く見えた。
「ああ。できたら案内して欲しい。俺が知らない魔道具も多そうだ。それに魔導書を見たいな」
「おっけー。じゃあ、今度の休みに案内してあげるわ。今日はこれね」
アリアがそう言って、俺の頭を指差す。
頭に違和感を覚えたので触れてみると、さっきまでの湿り気がなくなっていた。
「魔法か?」
「そうそう。簡単なやつよ」
便利だ。
俺も覚えたいが、これは外に出す魔法っぽいから無理かもな。
「お前ら、そろそろ行った方が良くないか? ギルバードとフィリスが待ってるぜ?」
「あ、そうだった。いってきます」
「いってくる」
「楽しんでおいて」
ハンナに見送られ、アパートを出る。
そして、路地を歩いていくと、大通りに出た角でギルバードとフィリスが待っていた。
「お待たせー」
「いや、俺達も今来たところだ」
「ホント、10秒前くらい」
2人が首を振る。
「そう? じゃあ、行きましょうか」
俺達は西の駅の方に歩いていく。
「フィリス、今日の店って何の店だ?」
ギルバードが聞く。
「ジャンルはない。色々ある。ただ、静かな雰囲気だし、美味しいよ?」
騎士団の飲み会で使うがやがやとした大衆店ではなさそうだ。
「女性客しかいないとかないよな? 俺達が浮くぞ」
それはちょっと……
「大丈夫だって。それに半個室みたいなところだから周囲から目立たない。エルも普通に話せる」
それは良いな。
「フィリスは気遣いができるな。この男共にはできない気遣いだ。良い嫁さんになるぜ」
「どうもー」
駅近くまで来ると、フィリスが左の通りに入ったので続く。
そして、すぐ手前の店の前で立ち止まった。
「ここ?」
「そう。ここ。警察時代に同僚と女子会をした」
「へー、良いところじゃない」
店は白を基調とした清潔感のある外観だ。
というか、窓から中が見えるが、やはり綺麗だった。
「男女で来るところじゃないか?」
ギルバードが首を傾げる。
なお、俺もちょっと思った。
半個室らしいし。
「男女じゃん」
「まあ、お前がいいならいいけどな……」
「いい。大衆店よりこっち。というわけで入ろう」
女子2人が先に店に入ったので俺達も続く。
すると、可愛い感じのウェイトレスがやってきた。
「いらっしゃいませー。4名様ですか?」
「うん。テーブル席で」
「こちらへどうぞー」
店員に案内され、歩いていく。
内装もかなり清潔感ある感じで花なんかも飾られていた。
それに静かで確かに落ち着いた雰囲気だ。
俺達は店員に案内され、テーブル席につく。
テーブル席とはいえ、フィリスが言っていたように半個室のようなところであり、壁で区切られているので隣は見えない。
さらには店員が去っていった時に暖簾を下ろしたので俺達だけの空間のように感じた。
そんな中で俺とギルバードが並び、アリアとフィリスと向かい合って座っている感じなので合コンっぽいなと思った。
まあ、合コンをしたことがないんだけど。
「何飲む? 私はワインをもらうけど」
メニューを見ているアリアが聞いてくる。
この2日でわかったのだが、仕切るタイプの子だ。
「私も最初の一杯だけは付き合う」
「俺もワインでいいや。エールを飲む店じゃなさそう」
「俺もワインが良い」
この店はワインだと思う。
「じゃあ、ボトルを頼みましょう。何食べる?」
アリアがメニューを見せてくる。
メニューはかなり豊富なようで色々ある。
「ん? 魚介もあるのか? 王都の近くに海はないだろ」
「確かに遠いけど、列車で運搬できるし、冷凍技術もあるからね。お肉と比べるとちょっと高いけど、普通に食べられるし、ウチでもたまに出てくるわよ」
そうなんだ。
ヴァルテンブルクではほぼ出なかったからな。
「俺はこの焼き貝が良い」
せっかくだし、魚介を食べたい。
「良いわね。ギルバードとフィリスは?」
「俺は適当に摘まめるものでいい」
「とりあえず、サラダと唐揚げ。あとは適当に」
「おっけー。頼むわね」
アリアが店員を呼び、注文をする。
すると、すぐにワインがやってきた。
「よし、ここは貴族令嬢の私が皆に注いであげよう。名誉なことだから感謝するように……レオン、片膝はつかなくて良いからね」
さすがにもう冗談だというのはわかっている。
「店の雰囲気にそぐわないことはしない」
「じゃあ、リーダーから」
フィリスがグラスにワインを注いでくれる。
次にギルバード、さらにはアリアと注いでいくと、フィリスの分はギルバードが注いだ。
「乾杯は副リーダー」
「誰?」
「貴族令嬢か?」
わからんな。
というか、勝手に副リーダーを決めても良いものなのだろうか?
「サラダを取り分けてくれる系女子のアリア」
「取り分けるけども……じゃあ、副リーダーの私が……今日からこの4人で魔法対策チームとして活動します。前職はバラバラだし、タイプも違う4人だけど、仲良く、皆で協力して職務に当たりましょう。それとレオンははるばるヴァルテンブルクからよく来てくれました。強さもだし、経験のあるあなたが来てくれたのは非常に頼もしいことです。歓迎します。至らないところもあると思いますが、よろしくお願いします。では、乾杯」
「「「乾杯」」」
真面目だなと思いながら皆とグラスを合わせると、ワインを一口飲んだ。
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