第025話 俺は悪くないと思う
俺とギルバードも報告書を書き終えると、エルも交えてフィリスの方を手伝う。
どうもフィリスはまとめるのが苦手なようだ。
「こ、こんなものかな?」
「良いと思うわ」
俺も問題ないと思う。
「しゃーねーから今度からは俺がついてやるよ」
「ありがとう、エル……」
本に教えてもらうのか……いや、言葉にすると間違いではないな。
「そろそろ終業時間だ。片付けをしようか」
ギルバードがそう言って、腕を伸ばす。
「あ、報告書はどうするんだ?」
「帰りに受付に提出することになっている」
それでいいのか。
「わかった。じゃあ、片付けをするか」
俺達は手分けをして、掃除や洗い物をしていく。
すると、ちょうど終わったタイミングでチャイムが鳴った。
「これで終わりね。さて、帰りましょうか」
終業なのでチーム室を出ると、廊下を歩く。
すると、やはり特殊捜査チームから騒がしい声が聞こえてきた。
「ここは残業か」
「いっつもだな」
「忙しいみたいなのよ」
大変だと思うが、俺達もそうなるのかもな。
俺達は階段を下り、受付のジェーンのもとに向かう。
「お疲れ。報告書を提出したい」
「お疲れ様です。では、受け取りますね」
俺達は順番に報告書をジェーンに渡した。
「ねえ、ジェーン。特殊捜査チームで何かあった?」
アリアが聞く。
「事件のようよ。それも殺人事件。南の住宅街にあるお店が襲われたんだって。それで特殊捜査チームが捜査に当たっている」
殺人か……警察ではなく、治安部ということは普通の事件ではないかもしれない。
「怖いわねー」
「アリアちゃんはともかく、フィリスは気を付けなさいよ。あなたは一人暮らしなんだから」
「大丈夫。戸締りはしっかりしているし、防犯の魔道具もある」
そういうのもあるんだな。
「ジェーンも気を付けてね。一人暮らしでしょ」
いや?
「そうね……」
ジェーンがちょっと目を逸らした。
「あ、そうだ。ジェーン、私達、これからチームの決起会兼レオンの歓迎会に行くけど、来る?」
フィリスが誘う。
「あー、そうなんだ。私はまだ仕事があるし、4人で行ってきてよ」
ジェーンはそう言うと、ちらっとギルバードを見た。
その際にギルバードが軽く頷く。
このやり取りを見て、フィリスが誘った理由がわかった。
ギルバードは今日、晩ご飯はいらないよってことだ。
「そっか。じゃあ、また今度ね。お疲れ」
「お疲れ様」
俺達は部署を出ると、顔を見合わせる。
「一回帰ってシャワーよね?」
アリアの言葉に皆が頷いた。
「どっかで集合するか?」
「大通りのアリアの家へ続く通りの角でいいでしょ」
「位置的にはそこね。じゃあ、そこで集合。あ、フィリス、ちゃんとギルバードと来なさいよね。事件があったみたいだし」
確かに危ないな。
まだ犯人は捕まっていないだろうし。
「そうする。ギルバード、お願い」
「ああ。じゃあ、あとでな」
ギルバードとフィリスが南の通りに向かったので俺とアリアは西に向かう。
「レオン、仕事はどうだった?」
アリアが聞いてくる。
「騎士団でやっていた仕事と大きくは変わらないし、やっていけそうだ。それにさっきも言ったが、チームメンバーに恵まれたな。上手くやれそうな要因はそっちが大きい」
「そんなに? そりゃギルバードもフィリスもふざけることも多いけど、根は真面目だけどさ」
そんな感じはした。
ギルバードは軽そうだし、フィリスは冗談をよく言う。
ただ、仕事は真面目だった。
「明るくて良いと思う。アリアもだが、皆、明るく雰囲気が良い。それに自然に受け入れてくれた。それが一番ありがたかった」
「あのさー……聞いたら良くないかもしれないけど、前の職場ってそんなに悪かったの?」
「騎士職は良くも悪くも男社会で厳しいからな。それに歳を取っていくと、だんだんと居場所がなくなる感じがするんだ」
実際、なかったと思う。
「へー……まあ、上手くやれそうなら良かったじゃない。私もそう思うし、頼りにしてるわよ、リーダー」
アリアが笑顔で背中をバンバンと叩いてくる。
「ああ。頑張るよ」
俺達は待ち合わせ場所となるところから右に曲がり、路地に入る。
そして、アパートまで戻ってきたので中に入った。
「ただいま」
アリアが受付にいるハンナに声をかける。
「おかえり。レオンもおかえり」
「ただいま」
なんか良いなって思った。
「お母さん、今日はチームの決起会とレオンの歓迎会をするから夕食はいらない」
「そう? 南の方で殺人事件があったって聞くから気を付けなよ」
もう住民も知っているのか。
「大丈夫。騎士様に送ってもらうから」
まあ、帰るところが同じなのだからそうなるな。
「そりゃ安心だ。レオン、頼んだよ」
「任せておけ。誓いは絶対だ」
「ホント、かっこいいわ。男は筋肉だって思ってたけど、こういう凛々しい感じも良いね」
旦那さん、ごつかったな。
「この人もすごいわよ。鍛えているだけあるわ」
「へー……頼もしいね。まあ、頑張んな。あ、弁当箱を出して」
ハンナがそう言うのでそれぞれ弁当箱を出し、カウンターに置いた。
「美味かった。作ったのは旦那さんか?」
「ああ。ウチの人だね。経営はからきしだけど料理が得意なんだ」
逆に経営はハンナが得意なんだろう。
「朝食も夕食も美味かったし、良いところを借りられたと思っている。これからも頼む」
「伝えておくよ。ウチの人も喜ぶ」
今度、ちゃんと挨拶をしておきたいな。
「じゃあ、レオン、シャワーを浴びたらここに集合ね」
「そうだな。じゃあ」
アリアが右の通路から奥に行ったので俺は階段を上がり、部屋に入る。
そして、カバンとエルをテーブルに置くと、ベッドに腰かけ、一息ついた。
「お疲れさん」
エルが飛んでくる。
「ああ。たいしたことなかったと思ったが、意外に疲れてるな」
「初日だし、初めてのことが多かったからな」
緊張もあっただろうし、これまでとは違い、リーダーだ。
3人を見ていたし、そっちの疲れもあったのだろう。
「そうだな。でも、充実してた。なんというか、好きな3人だ」
皆、すっと懐に入ってきた。
変に気を遣わなくていい感じが嬉しい。
「そりゃ良かった。飲み会だろ? 飲みすぎるなよ?」
「アリアを送らねばならん。泥酔はしない」
殺人事件が起きているわけだし、守る人間が泥酔などありえない。
「そうかい。じゃあ、シャワーを浴びて、清潔にしな。それがエチケットだ」
「……そっちじゃないぞ?」
「何も言ってねーよ、むっつり。あれだけ動いて汗をかいているんだからちゃんとしろってこった」
……エルがものすごく呆れている。
どうやら完全に俺の早とちりのようだ。
でも、言い訳をしたい。
車内でそういう話を振ってきたのが悪いと思う。
「入るか」
騎士は言い訳をしないんだと思いながら風呂場に向かうと、シャワーを浴びた。
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