第020話 森へ
村を離れ、森に向かって歩いていく。
「お前、マジでかっこいいな」
ギルバードがそう言って肩を組んできた。
「村の人を安心させるためにオーバーに話したな」
騎士が胸を叩くのは心臓を捧げるという儀式のような行為であり、滅多にやらない。
でも、こういう時にサービスとは言わないが、人々を安心させるためにやったりする。
これに関しては評判が良いし、褒められたことではないが、騎士が女を口説く時にもやると聞いたことがある。
「さすがはウチのリーダー」
「もう完全に騎士様とお供3人よね」
女子2人もうんうんと頷いている。
「ハードルを上げたのは確かだな。村の人の期待に応えるためにも仕事はやらないといけない。3人は魔物と戦ったことはあるよな?」
「当然だな」
「私もやった」
「魔法使いは魔法の練習相手が魔物なのよ」
経験は問題なさそうだ。
ただ……
「森であることは?」
「俺は問題ねーよ」
「森? 何かあるの?」
「視界が狭まるんじゃないかしら?」
練習と聞いて、そうじゃないかと思った。
「アリアの言うように視界が狭まることが脅威だ。特に遠距離攻撃を中心とした魔法使いはそうだな。草むらから急に襲ってくることもあるし、木なんかの遮蔽物のせいで当たらないということもある。それも踏まえたうえでの経験はどうだ?」
「ない」
「私もちょっと自信がないわね……」
やっぱりか。
「2人の魔法を見てないが、威力よりもスピードや小回りが利く魔法はあるか? それと低威力の魔法もあるか?」
「私はアイスニードルかな? 秒で出せる。威力をもっと落とすならインパクトっていう衝撃魔法がある。アリアは?」
フィリスがアリアを見る。
「私はファイヤーボールなら速く出せる。低威力ならエアハンマーね」
どれも殺傷能力は低い魔法だ。
もちろん、当たりどころが悪ければ即死だが。
「今回のような森もそうだが、俺達の職業柄、市街地や建物の中での戦闘も十分に考えられる。そういうところで迅速に敵を撃退するため、また、他の住民や建物の被害を出さないためにそういう魔法が求められることも覚えておいてくれ。犯人を殺さずに捕まえなければならないこともあるし、何よりも、『犯人を捕まえたけど、住民に被害が出ました』は結果として最悪だ」
住民を守ることが第一なのだ。
だからこその治安部だと思う。
「威力を上げることしか頭になかった」
「ちょっと練習しましょうか。レオンの言うことはもっともだわ」
俺も魔法が好きだし、使いたいと思っているから2人の気持ちはわかる。
誰だって威力が高くて派手な魔法に憧れる。
「頼む。魔法の使えない俺にとっては2人の魔法が頼りになる」
ここは魔導国家なのだ。
当然、魔法で魔法に対処することも必要になる。
「わかった」
「任せておいて!」
2人が強く頷いた。
「ギルバードはどうなんだ?」
「俺は2人みたいな魔法使いじゃない。魔法も使えるが、得物はこれだよ」
ギルバードはそう言った瞬間、手の中に槍が現れた。
空間魔法だ。
「やはり槍か……」
「んー? わかるのか?」
「握手した時の手の感触で得物はわかる。アリアやフィリスは柔らかい手だったが、ギルバードは固い手だった。確実に武器を使う人間の手だ。そして、固くなっている位置でどういう武器かもわかる」
そう言うと、3人が自分の手のひらを見る。
「ぷにぷに」
フィリスがアリアの手のひらをつついた。
「フィリスもね」
アリアがフィリスの頬をつつく。
ちょっと微笑ましいやり取りだ。
自然と笑みがこぼれてしまう。
「そういうのも見るんだな」
「観察が大事だ。軍人が商人とかに化けるケースもあるが、すぐにわかるぞ」
手だけではなく、筋肉の付き方や歩き方でもわかる。
まあ、密偵は逆にそういうのを消すんだが。
「ふーん……確かにお前の手は固いな」
ギルバードが俺の手を取った。
「そいつは毎朝、何百回も素振りをしているぞ」
エルが教える。
「それはすげーな」
「今朝もしてたわね。筋肉がすごかったわ。鋼よ、鋼」
アリアがうんうんと頷いた。
「アリア、好きそう」
「もう! やめてよー!」
またもや女子2人がじゃれ合う。
このチームは本当に明るいと思う。
緊張感も大事だが、こういうのも良いなって思える。
そのまま歩いていくと、森にやってきた。
正面には道が見え、人の手が入っているように見える。
「猟師や木こりが入っているみたいだな」
「だろうな。それで魔物退治なんだが、誰がやる?」
ギルバードが聞いてくる。
「まずは皆で順番にやろう。俺達はチームだし、お互いの実力は知っておいた方が良い」
特にアリアとフィリスが気になる。
魔法に興味があるというのもあるが、どれだけ動けるかで今後の俺とギルバードの立ち位置と動き方が変わるのだ。
「それもそうだな。じゃあ、まずは俺がやろう」
ギルバードが前に出た。
「頼む。俺が後ろに回るからアリアとフィリスは俺とギルバードの間にいてくれ。何かあっても必ず対処する」
「助かるわね」
「レオン、かっこよく言ってみて」
かっこよくと言われてもな……
「この剣に誓おう。必ず守り抜く」
そう言って、剣を抜き、顔の前に掲げる。
「「おー……!」」
どう反応していいかわからん。
「遊んでないで行くぞー」
まったくだ。
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