第015話 警邏
俺達は部署を出ると、南に向かって歩いていく。
この辺はまだ行政区なので住居はそこまで多くない。
「レオン、警邏のコツってあるか? さすがに歩くだけってのもな」
ギルバードが聞いてくる。
「色々あるが、意識するのは堂々と歩くことと人を見ることだな」
基礎はそれだ。
「堂々と歩くってのはわかる。人を見るのか? 犯罪者を探す感じか?」
「いや、犯罪者に限らない。そもそもぱっと見て怪しいと思う人間が犯罪者のケースの方が少ないくらいだからな。とにかく、誰であろうと歩いている人間は見る。普通はじろじろと見たら失礼になるが、軍や警察は別。誰であろうと顔を見るんだ」
最初は性格的に難しかったが、さすがに10年もやれば慣れた。
「そういうもんか……」
「わかった。それで目を逸らした人間に職務質問」
フィリスが手をポンッと叩く。
「いや、しない。何故ならほとんどの人間が目を逸らすから」
「俺も逸らすなー。別に悪いことはしてないんだが」
俺もそうだった。
まあ、警察をじろじろと見る人間ってそうはいない。
「ねえ、じゃあ、どういう人間を職務質問すればいいの?」
アリアが聞いてくる。
「異常な行動をする人間だ」
「異常……まあ、そうよね」
多分、思っている異常がちょっと違うだろうな。
「騒いだりする人間じゃなくても、たとえば、俺達を見て、急に方向を変えるとかがある。いくら警察や軍を見たからって道は変えないだろ」
「なるほど。確かにそれは怪しいわ」
アリアが頷くと、他の2人も頷いた。
「職務質問は名前や何をしているかくらいでいい。相手が女性ならアリアやフィリスが対応し、男性なら俺とギルバードが対応する。基本、俺達は男女のチームだから警邏は必ず男女チームで行う。男女で偏るとトラブルのもとだからな」
男性が女性に職務質問をすると、たまにセクハラで問題になる。
逆はたまにナンパしてくる奴とかもいるのだ。
「あ、腕章つけてるのに声をかけられたことがある」
「私は面識のないかつての同僚に怒られた。遊びでそういうのを付けてはいけませんって」
フィリスは小さいからな。
「これから仕事を分担することもあるだろうが、当面は俺がメインで警邏を担当しよう。住民とのトラブルは厳禁だし、まずは慣れることだ」
「了解よ」
「レオンならそういうトラブルがなさそうだしね」
「騎士様ってすごいんだな」
別にすごくはないな。
警邏のやり方を教えながら歩いていくと、街の雰囲気が変わり、住宅街になった。
やはり多くの人が歩いているのだが、街の隅で井戸端会議をしているおばさん達が見えるし、ぱっと見はのどかに見える。
「治安が悪化しているんだったか?」
「以前よりもね。この辺はまだ普通だけど、ずっとこの街に住んでいる私はやっぱり変わったって思うわね」
アリアはあの元宿屋の人間だしな。
「ギルバード、エルトナ村を知らないって言ってたが、王都の出身じゃないのか?」
「何度か来たことがあるってだけで出身自体は北の方の田舎町だな。ふらふらしていたから都会の王都によく来てたってだけ。レオンよりかは詳しいが、俺もここに移り住んでひと月くらいだからそこまでだ」
そんな気はしたが、やはりそうか。
「フィリスは?」
「私も出身は南の方。でも、魔法学校に通うために王都に出てきて、5年も住んでいるから詳しいよ。さすがに地元民には負けるけど」
貴族令嬢が親元を離れて、王都に出た理由が少し気になるが、さすがに聞けないな。
あ、でも、親父さんは政治家って言ってたな。
「こうして聞くと、俺達って出身も前職もバラバラだな」
「色んな角度から調査をするとかか?」
ありえるな。
「そうかもしれん。特殊捜査チームは?」
「あれは軍と警察のエリートを集めた集団だな」
なるほど……そっちがメインで俺達が遊軍かもしれん。
その後も住宅街を歩いていく。
街の人達に見られているなという感覚はするが、怪しい人間はいない。
平和な街そのものだ。
「あ、そこの通りを曲がった先に私のアパートがある」
フィリスが前方右の通りを指差した。
「良いところに住んでいるんだったか?」
確かアリアが10万越えと言っていた。
「そこまでじゃないよ。ちなみに、その近くにジェーンのアパートもある」
あー、それでフィリスは知っているのか。
近所なら目撃するし、わかるか。
「ウチを勧めたんだけどね」
「アリアの家のアパートもご飯が美味しいし、悪くないんだけど、部屋がね。寝室は別にしたい派」
さすがは貴族さんだ。
「ご飯はよく食べにくるものね」
「料理無理」
「教えてあげるってば」
「おっちょこちょいは無理しなくてもいいってば」
「お互い様でしょ」
やはり仲が良いと思うな。
その後も歩いていくのだが、少しずつ雰囲気が変わり、歩いている人も増え、賑やかになってくる。
建物も住宅は引き続き、多いのだが、店も多い。
「今、どこだ?」
足を止め、地図を見る。
「今、この辺ね」
アリアが街の南の方を指差した。
「商業街か」
「あとここからちょっと北の方に行けば、繁華街。飲食のお店も多いし、夜になればもっと賑やかになるわね」
治安は悪くなるな。
「ギルバード、ちょっといいか?」
「ん? 何だ?」
ギルバードの背中を押し、アリアとフィリスから数メートルほど距離を取る。
「……娼館みたいな色街はあるか?」
「そりゃあるぜ。繁華街の東の方だな。スラムに近い。お前さんも好きだねー」
人がせっかく小声で話をしているというのに。
「……違う。そういうところは利権やなんかで荒れやすいんだ」
「わかってるよ。でも、普通に2人にも話せよ。仕事だぞ?」
うーむ……
「レオン、ギルバードの言うとおりだ。話した方が良いぜ?」
外なのでしゃべっていなかったエルがそう言うので後ろの2人を見る。
アリアは首を傾げていたが、フィリスはにやにやとこちらを見ていた。
「男だけで何を話しているのかしら?」
「男だけで話すのはいつの時もえっちな話ってお母様が言ってた。ほら、そういうお店がいっぱいあるところがあるじゃん」
違うよ、お母様。
「あー……」
アリアがなんか納得してる。
「いや、すまん。その話で合っているんだが、仕事の話だ。治安はどうかなのかなって思ってな」
配慮だったが、誤解されるのも嫌なので普通に話そう。
「あー、確かにね。でも、私らは行かないしねー」
「行けないね。ただ、事件は起きてるよ。私は警察にいたからよく話を聞いていた。トラブルは多い」
やはりか。
しかし、警邏のルートにそこは含まれていない……
ウチの管轄ではないのかもな。
「ふーむ……」
「レオン、あまり気にしないで良いわよ。私も大人だし、仕事だもの」
「むっつりだしね」
「うっさい」
本当に気にしなくても良さそうだな。
「わかった。じゃあ、商業街を見て回ろうか。怪しい人がいたら教えてくれ」
「おっけー」
俺達はその後も警邏を続けていった。
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