第013話 仕事
少しすると、2人がお茶を持ってきてくれる。
「はい。ごめんね」
フィリスが謝罪しながらお茶をデスクに置いた。
「いや、大丈夫」
「うん」
フィリスが戻っていくと、全員が席についた状態になり、お茶を一口飲む。
「そういやさ、これもジェーンに聞いたんだが、しゃべる本がいるってマジか? ジェーンも他の人に聞いたらしくて、半信半疑だったけど」
「俺か?」
デスクにいたエルがパタパタと飛び上がった。
それを見たギルバードとフィリスが固まる。
「え? 何? しゃべる本って何? 飛んでるけど?」
話を聞いていないであろうフィリスがアリアとギルバードを困惑しながら交互に見る。
「そういう魔導書だってさ」
「本当にしゃべるんだな……」
「世の中は広いってこった。魔導国家の魔法使い共、お前達が知っている魔法はまだ1パーセントにも達していないんだぜ?」
へー……そうなんだ。
「おい、チビ令嬢。あんな魔導書を見たことあるか?」
「ない。ヒモ男は?」
2人共、中々、ひどいあだ名だな。
「俺もない。えーっと、会話ができるのか?」
「できるし、意思もあるぞ。すごいだろ? 頭が高いぞ」
「へ、へー……」
「ごめんって……ってか、頭が高いも何も飛んでるじゃん」
エルの方が上にいるな。
「そいつはエルだ。昔、古本屋で買った魔導書なんだが、家に帰ったらしゃべりだした」
びっくりした。
でも、魔法のある世界だし、そういう魔導書もあるのかって思っただけだった。
「逆にヴァルテンブルクにあるのか……」
「意外だね」
「レオンはウチのアパートに住むことになったんだけど、めちゃくちゃ魔導書を持ってたわよ。しかも、レアなのもあった。大魔女グレースの魔導書とか」
アリアが説明する。
「すごっ。何十万ロットはするやつ」
え? そんなに高いのか?
「古本屋で5万くらいだったが……」
「安っ! 偽物では?」
それはわからない。
「大魔女グレースを知らないからな……」
何とも言えない。
「わからねーぞ。ヴァルテンブルクは魔法を好まない国だし、ウチや他所から流れたレアな魔導書が古本屋で眠っている可能性は十分にある」
それな気がする。
だって、俺以外に買っている人間を見たことがないし、実際に古本屋の人にそう言われたことがある。
ヴァルテンブルクの古本屋はお宝の価値がわかってなかったか。
「へー……買いに行こうかな?」
「あ、俺がほぼ買い占めてる。地方とか行く時も買うし」
出張の時はまず古本屋に行く。
「魔導書オタクだ。騎士なのに変わった趣味だね」
「魔法が好きなんだ」
「へー……案外、ウチに来た方が良かったのかもね」
それはすでに思っていたりする。
「まあ、俺達4人とこの1冊で仕事をしていくわけだな。で? 仕事は?」
ギルバードが俺を見てくる。
「今日から始動らしいが……部長に話を聞きに行ってくるか」
「あ、揃ったら連絡しろって言われてた。ちょい待ち」
フィリスがそう言って立ち上がると、扉の横にある電話のもとに向かう。
そして、受話器を取ると、耳に当てた。
「魔道具か?」
「ああ。便利なもんだぜ。ちょっと前までは近距離だけど、もうかなりの距離でも通じるようになったんだってよ」
魔道具の急速な進化か……
こういう一見、便利なものって軍用に開発されたっていうのが多い。
そして、それが犯罪者に流れる。
「あ、部長? 揃ったよ? 来て…………お茶を飲んでるから無理。そっちが来て」
フィリスがそう言って、受話器を元に戻すと、席に戻った。
「来いって言われたかー?」
ギルバードが笑いながら聞く。
「4階は無理」
それでいいのか?
いや、貴族だしな……わからん。
そのまま待っていると、ノックの音と共に扉が開かれ、部長が入ってきたのですぐに立ち上がる。
すると、他の3人も続いた。
「おはようございます」
一礼すると、やはり他の3人も続く。
「ああ、おはよう。自己紹介は済んだか?」
「ええ」
皆と顔を見合わせ、頷く。
「よろしい。これよりこの4名で魔法対策チームとして始動してもらう。手探りな面もあるが、随時、改善していくつもりだ。何か要望があれば遠慮なく言ってくれ」
「じゃあ、聞くけど、4人って少なくない? 他のチームは10人くらいいるじゃん」
フィリスが聞く。
電話の時もだが、部下とは思えない言動だ。
まあ、貴族だしな……
「それはわかっている。しかし、お前達には他のチームとは異なる仕事をしてもらうつもりだ。もちろん、協力することもある」
ふーむ……
「魔法対策だっけ? 何するの?」
「それも随時だな。始動したばかりだし、焦るな。まずは今日の仕事を頼む。レオン」
呼ばれたので部長のもとに向かう。
すると、何もないところから1枚の紙を取り出し、渡してきた。
どうやら部長も空間魔法を使えるようだ。
「これは?」
「今日の任務内容だ」
ふむ……
「午前中に街の警邏。午後からはエルトナ村の魔物討伐ですか……」
エルトナ村ってどこだ?
「何それ? 警邏はまだ警察の仕事だからわからないでもないけど、魔物退治って……民間のハンターにでもやらせたら良いじゃん」
フィリスが文句を言う。
ちなみに、ハンターとは魔物を退治する民間の組織であり、傭兵のようなものだ。
「魔物退治も軍の仕事の範疇だ。わかっていると思うが、我らは警察と軍の権限を持っている。当然、仕事も両方を兼ねることになる」
治安部は『警察と軍で管轄が違うから対処できない』という問題を解決するために作った組織だな。
警察が軍の管轄に入るには申請がいる。
逆もしかりだ。
そういうのをなくし、スピード感を出そうというのが狙いだろう。
「まあ、わかるけど……」
「書類仕事の方が良かったか?」
「アリアが可哀想」
「フィリスもやりなさいっての」
昨日からギルバードとフィリスのデスクは綺麗だが、アリアのデスクは書類が山積みになっている。
「書類仕事もやってくれ。とにかく、今日は外での仕事になる。これは来たばかりのレオンに街や周辺地域を知ってもらうための意図もある」
実際、エルトナ村を知らないしな。
「配慮に感謝します」
一礼する。
「うむ……なんかお前と話していると、こっちも背筋が伸びるな」
良いことだと思うが……
「すみません。こういう人間なもので」
「良いことだと思う。じゃあ、頼んだぞ。今日で終わらなかったら引き続き、明日もだ。では、頑張ってくれ」
部長がそう言って部屋から出ていったので姿勢を正し、一礼する。
他の3人も俺に続くように頭を下げたのだが、エルまで表紙を傾けたのはちょっと面白かった。
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