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ぐうたら三男は古代魔語で悠々自適生活を目指す  作者: シロネル
1章

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第八話 ぐうたら三男、ブチ切れる

翌日。


 探索者ギルドは騒然としていた。


「第四層の人型変異種をレイ様が倒したらしい!」


「やっぱあの人おかしいって!」


「宮廷魔術師より強くないか!?」


 そんな声が飛び交う。


 一方。


 当の本人は領主館でだらけていた。


「……ねむ」


「だから言ったじゃないですか」


 エミリーが呆れながら紅茶を置く。


「でも派手にやりすぎましたね」


「しょうがないだろ。救助優先だったし」


「まあ今さらですけど」


 もはやギルド関係者は理解していた。


 レイ・ゴールドは、表面上ぐうたらを装っているだけで。


 本来は規格外の実力者なのだと。


 ただし。


 それが“ドルーゴ・イレ”と完全一致するとは、誰も口にしない。


 本人が隠したがっているからである。


 「まあギルド側は“気づかないフリ”継続でしょうけど」


「優しい世界だなぁ……」


「レイ様が作ったんですよ」


 事実だった。


 街のインフラ改善。

 孤児支援。

 防犯魔道具配布。

 治療支援。


 もはやラグナベルク住民の生活は、レイ製魔道具なしでは成立しないレベルになっている。


 なのでみんな察していても黙っている。


 英雄を困らせたくないからだ。


 なお本人は気づいていない。


「……それより」


 エミリーの声が少し真面目になる。


「例の術式、どうでした?」


「あー」


 レイの顔から笑みが消える。


「最悪」


「そこまでですか」


「古代魔語を断片解析して無理矢理使ってる」


 しかも内容が危険すぎた。


 魔素による人体強化。


 オーブ改造。


 変異固定。


 全部、人道無視。


「研究者タイプですね」


「しかも頭いい」


 レイは深くため息をついた。


「中途半端に日本語理解してるのが一番危険なんだよな……」


「ニホンゴ?」


「あ、いや古代魔語」


 危ない危ない。


 エミリーは少しだけジト目になった。


 レイは時々、妙な言葉を漏らす。


 だが今さら突っ込まない。


「で、どうします?」


「潰す」


 即答だった。


「今回は完全にアウト」


 いつもの面倒くさがりな空気がない。


 本気だ。


「……珍しいですね」


「俺だって怒る時は怒る」


 レイは立ち上がった。


 その瞬間。


 コンコン、と扉が叩かれる。


「レイ様。お客様です」


 執事の声だった。


「ん?」


「王都より、宮廷魔術師の方が」


 部屋の空気が止まる。


 エミリーが目を細めた。


「……タイミング悪いですね」


「めちゃくちゃ悪い」


 レイは露骨に嫌そうな顔をした。


 宮廷魔術師。


 王国最高峰の魔術師集団。


 そして大抵、面倒事を持ってくる。


「断れない?」


「無理かと」


「帰りたい」


「ここ自宅です」


 数分後。


 応接室。


 レイは完全にやる気のない顔でソファへ座っていた。


 向かい側には、一人の女性。


 長い黒髪。


 知的な雰囲気。


 金縁眼鏡。


 年齢は二十代半ばほど。


「初めまして、レイ・ゴールド様」


 優雅に一礼する。


「私は宮廷魔術師団所属、セシリア・レインと申します」


「どうも」


 レイは適当に返した。


 するとセシリアが微笑む。


「噂通りですね」


「何が?」


「やる気のなさそうな方です」


「褒め言葉かな?」


「ええ」


 妙に楽しそうだった。


 だが次の瞬間。


 彼女の目が鋭くなる。


「では単刀直入に」


 静かな声。


「“ドルーゴ・イレ”について、お話を伺えますか?」


 沈黙。


 レイは真顔になる。


 エミリーは無言で紅茶を置いた。


 そして。


「存じません」


 レイは堂々と言い切った。


 エミリーが吹き出した。


「ぶっ」


 セシリアも一瞬固まり。


 その後、肩を震わせ始める。


「……ふふっ」


「何か?」


「いえ」


 宮廷魔術師は笑みを深めた。


「想像以上に面白い方だな、と」


 その目は。


 明らかに“気づいている側”の目だった。

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