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ぐうたら三男は古代魔語で悠々自適生活を目指す  作者: シロネル
1章

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第七話 怒れるぐうたら三男

人型変異種は苦しそうに呻いていた。


 全身を覆う黒紫の魔素。


 膨れ上がった肉体。


 だが、その瞳だけは僅かに人間の理性を残している。


「……ぁ、あ……」


 周囲には倒れた探索者たち。


 血の臭い。


 濃密な魔素。


 地獄のような光景だった。


 エミリーが小さく呟く。


「まだ、生きてる……?」


「いや」


 レイは静かに首を振った。


「もう限界だ」


 肉体そのものが魔素に侵食されている。


 オーブも暴走寸前。


 助からない。


 それでも。


 その魔物は人間だった。


「……ころ、して……くれ」


 レイは数秒だけ黙った。


 そして。


「わかった」


 静かに前へ出る。


 人型変異種が咆哮した。


 理性が崩れ始めている。


 暴走まで時間はない。


 レイは右手を掲げた。


『切断』


 空気が走る。


 次の瞬間。


 ズバァンッ!!


 人型変異種の巨大な腕が宙を舞った。


 断面は滑らかだった。


 魔物が絶叫する。


 だがレイは止まらない。


『停止』


 ドンッ!!


 巨体が固定される。


 レイはその胸部へ手を当てた。


 そこには黒く濁った巨大オーブ。


 内部には複雑な術式が絡みついている。


「……胸糞悪いな」


 術式構造を読み取った瞬間、レイの顔から感情が消えた。


 人体を核にした強制変異術式。


 しかも複数人で構築した痕跡がある。


 研究目的。


 あるいは兵器化。


「レイ様」


「ああ」


 レイは小さく頷く。


 そして。


『解除』


 古代魔語が発動した。


 バキバキバキッ!!


 オーブ内部の術式が崩壊する。


 同時に、暴走しかけていた魔素が静かに霧散していった。


 魔物の身体から力が抜ける。


「……ぁ……」


 最後に。


 その男は微笑した。


「……ありがとう……」


 そして崩れ落ちる。


 静寂。


 エミリーはそっと目を伏せた。


 レイはしばらく動かなかった。


 いつもの軽薄な空気が消えている。


 空気そのものが冷たい。


「……レイ様」


「エミリー」


 低い声だった。


「これ、王国内だけじゃない」


「え?」


「術式構造が古すぎる。しかも一部、古代魔語を模倣してる」


 エミリーの顔色が変わる。


「それって……」


「古代遺跡を漁ってる連中がいる」


 しかもかなり大規模だ。


 中途半端に古代魔語を解析し、危険な方向へ応用している。


「下手すると戦争起きるな」


 レイは本気で嫌そうな顔をした。


「面倒事の規模がデカすぎる……」


「そこなんですね」


「国家規模の問題とか働きたくなくなるだろ」


「今さらですか?」


 エミリーは呆れたように笑う。


 だが。


 少し安心した。


 いつものレイに戻ったからだ。


 その時。


「た、助かった……」


 倒れていた探索者の一人が声を上げた。


 まだ若い男だった。


「アンタたち、一体……」


「通りすがり」


 レイは即答した。


「いや絶対違――」


「通りすがり」


「圧が強い」


 エミリーが苦笑する。


「救援信号を撃ちます。ギルドが来るまで持ちこたえてください」


「す、すまない……」


 エミリーが魔導信号弾を放つ。


 赤い光が洞窟天井へ弾けた。


 その間。


 レイは壊れた術式残骸を回収していた。


「……やっぱ日本語混じってんな」


「解読できるんですか?」


「少しだけ」


 実際は全部読める。


 だが内容が酷かった。


 “肉体強化”

 “魔素定着”

 “強制進化”


 完全に危険思想である。


「ほんとロクな使い方しねぇな……」


「レイ様?」


「いや独り言」


 その時だった。


 レイの視線が鋭くなる。


「……誰かいる」


「え?」


 通路奥。


 一瞬だけ気配が動いた。


 魔素反応。


 かなり強い。


「見られてたか」


「追います?」


「いや」


 レイは首を振った。


「今はこっち優先」


 助けるべき人間がいる。


 情報も必要。


 無理に追えば逃げられる可能性も高い。


「……でも魔素のパターンは覚えた」


 レイの目が細まる。


 その瞳には。


 珍しく明確な敵意が宿っていた。


「俺の平和なぐうたら生活を邪魔する奴は」


 静かな声。


「徹底的に潰す」


 エミリーは小さく笑う。


「はいはい、正義の味方」


「違う」


「では?」


 レイは真顔で答えた。


「快適生活防衛者」


「最低なネーミングですね」


 だが。


 そんな彼だからこそ。


 人を救えるのだと、エミリーは知っていた。

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