第七十五話 ぐうたら三男、地下牢を見つける
地下へ続く石階段は長かった。
じめりと湿った空気。
薄暗い壁。
鼻をつく薬品臭。
そして奥へ進むほど濃くなる侵食混じりの魔素。
「……最悪」
レイは顔をしかめた。
慣れてしまっている自分も嫌だった。
エミリーが小声で言う。
「かなり深いですね」
「屋敷の規模以上だな」
明らかに地下施設が拡張されている。
しかも古い。
最近作られた構造ではない。
「古代遺構利用してるなこれ」
「可能性高いです」
エミリーも周囲を警戒していた。
壁面の一部には古代術式らしき痕跡も見える。
現代人では解析不能。
だがレイには読める。
「……封鎖区画転用型か」
「分かるんですか?」
「にほんごだからな」
「その感覚未だに意味分からないんですよね……」
エミリーが呆れる。
だがレイの顔は険しかった。
古代文明施設。
侵食。
人身売買。
嫌な組み合わせすぎる。
◇
その時。
奥から声が聞こえた。
「次の搬送は明日だ」
「商品数が足りません」
「スラム側から追加確保しろ」
男たちの会話。
レイの目が細くなる。
「クソが」
静かな声音だった。
怒っている時ほどレイは静かになる。
エミリーも気配を消す。
通路の先。
武装した男が二人。
見張りだ。
「どうします?」
「静かに」
レイは軽く指を鳴らす。
古代魔語術式展開。
「――『睡眠』」
淡い光。
次の瞬間。
男たちは声もなく崩れ落ちた。
エミリーが小さく息を吐く。
「毎回思いますけど、それ便利すぎません?」
「快適潜入用」
「絶対用途違います」
◇
さらに奥。
鉄扉が並ぶ空間へ出た。
そして。
「……っ」
エミリーが息を呑む。
檻。
地下牢。
子供たち。
怯えた目。
痩せ細った身体。
レイの表情から感情が消えた。
「お兄ちゃん……?」
小さな声。
リコだった。
スラム街で働いていた少女。
檻の奥で震えている。
「ドルーゴ……?」
「ああ」
レイは静かに頷く。
「迎えに来た」
その瞬間。
リコの目から涙が溢れた。
◇
地下牢には十数人の子供がいた。
皆、衰弱している。
だが生きていた。
レイは内心ほっとする。
「ミリーエ」
「はい」
「保護優先」
「分かってます」
エミリーはすぐ動いた。
簡易治療。
水。
栄養補助。
子供たちを落ち着かせていく。
有能だった。
一方レイは檻を調べる。
「……また古代術式か」
封印構造。
魔素認証型。
しかも侵食反応付き。
無理に壊せば内部へ侵食魔素が流れる仕組み。
「趣味悪ぃ……」
レイは眉をひそめる。
普通の魔導士なら解除不可能だろう。
だが。
「――『構造分解』」
古代魔語術式が発動する。
淡い光。
魔素構造が解析され、連鎖分解されていく。
ガコン。
静かに檻が開いた。
子供たちが目を見開く。
「すご……」
「ドルーゴ様すげぇ……」
「だから静かに」
レイは人差し指を立てた。
「今から逃げるぞ」
◇
だが。
その瞬間だった。
ブゥン――……
低い振動音。
空気が変わる。
「……ドルーゴ様」
「分かってる」
地下奥。
巨大な魔素反応。
侵食混じり。
しかもかなり濃い。
「研究施設まであるのかよ……」
レイは頭を押さえた。
地下牢だけでは終わらない。
もっと奥に“何か”がある。
そして。
嫌な予感がする。
かなり。
◇
アリアならこう言うだろう。
『高確率で侵食研究施設』
教授なら。
『非常に興味深いね』
セシリアなら。
『絶対碌でもないでしょう!?』
そこまで想像して。
レイは盛大に溜息を吐いた。
「……帰りたい」
「でも行きますよね?」
エミリーが静かに聞く。
レイは嫌そうな顔をした。
「子供置いて帰れるほど薄情じゃない」
だから困る。
面倒事へ自分から突っ込んでいる自覚はあるのだ。
「とりあえず子供たち避難させる」
「はい」
「その後」
レイの視線が地下奥へ向く。
「元凶ぶっ壊す」




