第六十八話 ぐうたら三男、実験施設を見つける
地下へ続く階段は長かった。
石造りの壁。
湿った空気。
鼻につく薬品臭。
そして。
微かに混じる、嫌な臭い。
レイは顔をしかめた。
「……侵食か」
「可能性高」
アリアが短く答える。
地下へ降りるほど空気が重くなっていく。
肌へまとわりつくような魔素。
明らかに正常ではない。
エミリーも警戒を強めていた。
「レイ様、かなり危険では?」
「だなぁ……」
レイは気怠そうに返す。
だが目は笑っていない。
こういう空気は嫌というほど知っていた。
封鎖遺跡アストラ。
王都地下封印区画。
どちらも同じだった。
――まともじゃない研究施設。
◇
階段を降り切った先。
三人は足を止めた。
「……うわぁ」
レイが本気で嫌そうな声を漏らす。
そこに広がっていたのは地下研究区画だった。
大型の培養槽。
魔石駆動装置。
壁一面へ刻まれた術式。
無数の研究資料。
そして。
檻。
中には子供たちがいた。
「っ……!」
エミリーの顔色が変わる。
眠らされているのか動かない。
だが生きてはいる。
レイは静かに息を吐いた。
「……最低だな」
低い声。
怒っている。
本気で。
アリアは施設内部を見渡していた。
「古代文明技術模倣確認」
「やっぱりか」
「ただし再現率低。危険」
レイも同意する。
術式構造が雑だった。
理解できていないまま無理矢理使っている。
しかも。
「侵食混ざってるな、これ」
培養槽の内部。
黒ずんだ魔素が脈動していた。
見覚えがある。
侵食魔素。
王都地下事件で見たものと酷似していた。
「マジで繋がってんのかよ……」
レイは頭を押さえる。
本当に勘弁してほしい。
◇
その時だった。
「誰だ」
低い声。
奥の通路から数人の男が現れる。
白衣姿。
研究者だ。
だが目がまともではない。
どこか焦点が合っていなかった。
「侵入者か……?」
「警備は何をしている……」
男たちはレイたちを見る。
そして。
黒衣と仮面を見た瞬間、顔色を変えた。
「ドルーゴ……!?」
「なぜここに……!」
有名になりすぎていた。
レイは嫌そうな顔をする。
「ほんと噂広がるの早いな王都」
「そこ感心するところじゃありません」
エミリーが呆れる。
研究者の一人が慌てて術式を起動した。
複数魔方陣展開。
雷撃魔法。
火炎魔法。
同時発動。
「死ねッ!!」
「はいはい危ない危ない」
レイは片手を上げる。
空中へ古代魔語が刻まれる。
「――『停止』」
瞬間。
発動しかけていた魔法が空中で凍りついた。
「なっ!?」
「魔法が……!」
術式そのものを上位命令で停止。
強制的な魔素支配。
研究者たちの顔から血の気が引く。
「な、なんだその術式は……!」
「企業秘密」
「きぎょうひみつ……?」
「気にするな」
もういつもの流れだった。
◇
研究者の一人が後退る。
「お、お前……継承者側か……!?」
レイの目が細くなる。
「……誰から聞いた」
「仮面の御方だ……!」
空気が変わった。
地下研究区画へ静寂が落ちる。
レイの声音が低くなる。
「やっぱり繋がってるんだな」
研究者は怯えながら叫ぶ。
「あのお方は正しい! 侵食による再構築こそ世界を進化させる!!」
「あーはいはい」
レイは心底面倒そうに返した。
「そういう思想語りいいから」
「貴様ァ!!」
研究者が叫ぶ。
だがレイは冷めた目だった。
「子供攫って実験してる時点で論外なんだよ」
その声に温度はない。
「理屈並べれば何やってもいいと思ってる研究者は嫌いだ」
アルベルト教授が聞いたら泣きそうな台詞だった。
まあ、あの人は子供実験とか絶対やらないので別枠である。
◇
「侵入者排除!!」
研究者たちが一斉に魔道具を起動する。
培養槽が開いた。
中から現れたのは。
「……うわ」
レイが露骨に嫌そうな顔をする。
異形だった。
魔物。
いや、人型に近い。
だが身体が侵食魔素で黒く変質している。
複数の魔石が埋め込まれ、無理矢理強化されていた。
「人工侵食個体……!」
エミリーが息を呑む。
アリアの瞳が淡く発光する。
「危険度上昇確認」
「でしょうね!」
異形が咆哮する。
地下施設が震えた。
レイは深く溜息を吐く。
「……ほんとさぁ」
面倒そうに黒衣の袖をまくった。
「なんで毎回こんなの出てくるかなぁ……」




