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ぐうたら三男は古代魔語で悠々自適生活を目指す  作者: シロネル
3章

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第六十六話 ぐうたら三男、子供たちを帰らせる

 地下室の空気は重かった。


 薄暗い石壁。


 鉄臭さ。


 並ぶ檻。


 子供たちは無言でそれを見つめている。


 カインの後ろにいた小柄な少女など、すでに涙目だった。


 レイは小さく頭を掻いた。


 最悪だ。


 こういうものは見せたくなかった。


 スラムの子供は早く大人になる。


 嫌でも現実を知る。


 だが、それでも。


 知るタイミングというものはある。


「……とりあえず」


 レイは男たちを見下ろした。


「お前ら、少し寝てろ」


「ひっ――」


 男たちが怯えた瞬間。


 レイは軽く指を鳴らした。


 空中へ魔方陣が展開される。


 淡く輝く古代魔語。


「――『睡眠』」


「っ……!?」


 男たちが次々に崩れ落ちた。


 気絶。


 静寂。


 カインたちが目を丸くする。


「すげぇ……」


「便利だろ」


「今の何?」


「企業秘密」


「きぎょうひみつ?」


「気にするな」


 いつもの雑な誤魔化しだった。


 エミリーは慣れた様子で男たちを縛り始める。


「レイ様、どうします?」


「とりあえず衛兵に流す」


「また匿名通報ですか」


「表立つの面倒だし」


 ドルーゴとして暴れるのはいい。


 だが貴族社会へ正式に関わるのは別だ。


 後処理が増える。


 本当に増える。


 レイは真顔だった。


     ◇


 その後、子供たちを地下室から出した。


 外の空気を吸った瞬間、皆少し安心した顔になる。


 日は傾き始めていた。


 夕焼けがスラム街の石畳を赤く染めている。


 路地から漂う煮込み料理の匂い。


 子供の笑い声。


 怒鳴り声。


 雑多な生活音。


 王都の華やかさとは無縁だ。


 それでも、ここにはここで人の暮らしがある。


 レイはそれを嫌いじゃなかった。


「ドルーゴ」


 カインが服の裾を掴む。


「……ああいうの、またあるのか?」


 レイは少し黙った。


「ある」


 隠しても仕方ない。


「悪い奴はどこにでもいる」


「……そっか」


「でも」


 レイはカインの頭を軽く叩いた。


「だからってお前らが諦める必要はない」


「え?」


「そういうのを潰すために、大人が働くんだよ」


 カインは目を瞬かせる。


 レイは少し視線を逸らした。


「……まあ、俺は本来ぐうたらしたい側なんだけど」


「全然見えねぇ」


「心外だな」


 エミリーが呆れた顔をする。


「毎回面倒事に突っ込んでいく人の発言じゃありませんね」


「勝手に来るんだよ面倒事が」


「レイ様が放っておけないだけでしょう?」


「……否定しづらい」


 レイは溜息を吐いた。


     ◇


 帰り道。


 アリアは静かに周囲を見ていた。


 露店。


 古びた建物。


 走り回る子供。


 煙の上がる屋台。


 その視線は、どこか不思議そうだった。


「どうした?」


「観察」


「何を?」


「人間社会」


 相変わらず端的だ。


 レイは苦笑する。


「面白いか?」


「非効率」


「まあ否定できん」


「だが」


 アリアは少し間を置いた。


「悪くない」


 レイは少し目を丸くした。


 以前なら言わなかった言葉だ。


 エミリーも小さく笑う。


「アリアさん、最近少し柔らかくなりましたよね」


「変化確認」


「自覚あるんだ」


「原因推定。レイ、エミリー、スラム街住民」


「なんでそこで俺入るんだよ」


「最大要因」


「不名誉な気がする」


 アリアは首を傾げた。


 本気で分かっていない顔だった。


     ◇


 拠点へ戻る頃には、空は暗くなっていた。


 レイはソファへ倒れ込む。


「疲れた……」


「お疲れ様です」


 エミリーが慣れた様子でお茶を置く。


 アリアは窓際で王都の夜景を眺めていた。


 しばらく静かな時間が流れる。


 だが。


「レイ様」


「ん?」


「これ」


 エミリーが地下で回収した書類を机へ並べた。


 貴族名。


 取引記録。


 輸送経路。


 そして。


「この紋章、見覚えありませんか?」


 レイは視線を向ける。


 瞬間。


 顔つきが変わった。


「……は?」


 そこに描かれていたのは。


 王都地下封印区画事件で見たものと酷似した紋章だった。


 侵食研究施設。


 仮面の男。


 古代研究機構。


 嫌な記憶が蘇る。


 レイは心底嫌そうな顔をした。


「なんで繋がるかなぁ……」


「関連性高」


 アリアが即答する。


「まだ逃げてるだけじゃなかったのかよ、あの仮面野郎……」


 レイはソファへ沈み込む。


 本当に勘弁してほしい。


 平穏なぐうたら生活はどこへ行ったのか。


 だが。


 脳裏に浮かぶのは、地下室の檻だった。


 そしてカインたちの顔。


「……仕方ないか」


 小さく呟く。


 エミリーが苦笑した。


「結局やるんですね」


「放置すると絶対面倒大きくなる」


「もう十分大きい気がしますけど」


「聞こえない」


 レイは現実逃避するようにお茶を飲む。


 だが、その目はもう完全に諦めていた。


 この件は、最後まで追うしかないのだと。

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