第六十一話 ぐうたら三男、王都で活動する
新しい章を書き始めるにあたって試験的に一話ごとの文字数を増やしてみます。
自分で読み返したときに話が進まな過ぎてイラついたので
前の方がよかった。もっと文字数を増やしてなど、意見がございましたらコメントください。
王都の朝は騒がしい。
石畳を走る馬車の音。露店商の威勢のいい声。焼き立てのパンと香辛料の匂い。
王都中心部だけを見れば、この国は平和そのものに見えた。
「……見えるだけ、だけどな」
窓辺で朝の街並みを眺めながら、レイは小さく呟いた。
王都の一角にある拠点屋敷。
国王から半ば押し付けられる形で与えられた建物だが、立地も広さも悪くない。
もっとも。
その室内は散らかり放題だった。
魔道具の部品、設計図、魔石工具、途中まで作った試作品。
貴族の部屋というより研究工房に近い。
そんな中、レイだけはやけに幸せそうだった。
「……いい匂い」
「朝食ですからね」
エミリーが呆れ半分に返事をする。
テーブルへ並べられていくのは、
厚切りベーコン
野菜のスープ
卵料理
焼き立てのパン
果実水
元日本人だからか、美味い飯への執着が強い。
特に最近は、王都の食材や調味料を試すのを楽しみにしている節すらある。
「王都のパン屋、レベル高いよなぁ……」
「朝から幸せそうですね」
「食事は人生だから」
「昨日も同じこと言ってました」
レイは上機嫌でパンをちぎる。
外は香ばしく、中はふわふわだ。
「うま……」
「まだ一口ですよ?」
「一口で分かるんだよ」
そんなやり取りをしていると。
部屋の隅にいた白い少女が静かに口を開いた。
「……香辛料使用量、多い」
「お、アリア分かるようになったじゃん」
「学習済み」
銀色の長髪を揺らしながら、アリアは椅子へ座る。
以前のようなぎこちなさは多少減っていた。
王都地下封印区画事件後。
彼女は封鎖区画からいつの間にか脱出しており、そのままレイたちの拠点へ転がり込んできたのである。
最初は生活能力皆無だった。
食事を取らない。
睡眠を理解していない。
会話が最低限。
ずっと部屋の隅に立っている。
ホラーだった。
だが最近は、レイやエミリーの生活を見ながら現代語や日常習慣を覚え始めている。
「アリア、ちゃんと座って食え」
「必要性確認済み」
「食事は必要性だけでやるもんじゃないんだよ」
「……?」
「楽しむんだ」
レイは真顔で言った。
エミリーが苦笑する。
「また始まりました」
「いや大事だろ。美味い飯って生きる意味だぞ」
「そこまでですか?」
「そこまで」
アリアはしばらく考えるように黙り込む。
そして。
「……理解不能」
「だろうなぁ」
レイは笑いながらスープを口へ運んだ。
以前より少しだけ賑やかになった食卓。
悪くない朝だった。
◇
昼過ぎ。
レイは王都下層街を歩いていた。
もちろん貴族姿ではない。
黒衣と仮面を纏った“ドルーゴ・イレ”として。
隣には同じく黒衣姿のミリーエ――エミリーが並ぶ。
「工房の増設申請、また増えてます」
「増やしたの誰だよ……」
「レイ様です」
「記憶にない」
「昨日“仕事作るか”って言ってました」
「あー……」
軽いノリで言った気がする。
だがレイは知っていた。
この世界では、働けないことはそのまま死へ繋がる。
特に王都下層は酷かった。
王都復興の恩恵などほとんど流れてこない。
汚れた水。
腐った建物。
職を失った人々。
痩せた子供たち。
「……王都も大概だな」
「ゴールド地方より酷い場所もありますね」
「だから見たくなかったんだよなぁ……」
見てしまえば、放っておけなくなる。
自分の性格くらい理解していた。
◇
細い路地を抜けた先。
簡易工房区画では、今日も人々が働いていた。
レイが設置した魔道具工房。
廃材加工。
保存容器制作。
簡易魔石整備。
スラム住民でも扱えるよう簡略化した設備が並んでいる。
「あっ、ドルーゴ!」
「ほんとだ!」
子供たちが駆け寄ってくる。
最初は怯えていたくせに、今では完全に慣れていた。
「見て見て! 今日いっぱい作れた!」
小さな少女が保存瓶を抱えて見せてくる。
以前よりだいぶ綺麗な出来だ。
「ん、上手くなってる」
「えへへ」
レイは自然に頭を撫でていた。
エミリーがその様子を見て小さく笑う。
本人は認めないが、こういう時のレイは本当に優しい。
「ドルーゴー! 炉が止まった!」
「またかよ……」
工房へ向かう。
簡易炉の魔素循環が詰まっていた。
「魔石粉入れすぎ。循環詰まってる」
「難しいんだって!」
「だから前教えただろ」
「忘れた!」
「威張るな」
結局レイが修理する。
周囲の大人たちは苦笑していた。
「旦那、面倒見良すぎだろ」
「効率悪いの嫌いなだけ」
「はいはい」
誰も信じない。
そんな空気だった。
◇
夕方。
仕事帰りの空気が漂い始めた頃。
レイは路地裏で揉め事を見つけた。
数人の男が痩せた少年を囲んでいる。
「金払えっつってんだろ!」
「し、知らねぇよ……!」
チンピラ崩れ。
王都下層では珍しくもない。
レイは静かに歩み寄った。
「あぁ?」
男が振り返った次の瞬間。
身体が壁へ叩きつけられていた。
「がっ――!?」
残りも一瞬で地面へ転がる。
レイは最近、加減が雑だった。
「次、子供に手ぇ出したら腕飛ばす」
静かな声。
男たちは青ざめて逃げていく。
少年がぽかんとレイを見上げた。
「……あんた、ドルーゴ?」
「まあ一応」
「ほんとにいたんだ」
「なんだそれ」
「みんな言ってた。黒い英雄がいるって」
レイは露骨に嫌そうな顔をした。
「英雄とかやめろ。面倒」
「変なの」
「よく言われる」
夕焼けに染まる王都下層。
汚れた街並みの中で、それでも少しずつ笑顔が増えている。
レイは空を見上げ、小さく息を吐いた。
「……まあ」
完全に見捨てるよりは。
こっちの方が後味はいい。
そんなことを思ってしまう辺り、結局自分は損な性格なのだろう。
ずっと思ってたけど、後書きに話ごとの説明とか書いた方がいいのかなぁ??




