第六十話 ぐうたら三男、ドルーゴとして王都を歩く
王都へ来てから数週間。
レイ・ゴールドとしての生活は、想像以上に「面倒」で満ちていた。
英雄扱い、貴族の接触、王城からの呼び出し。
そのすべてを避けるために、彼は今日も別の顔を使うことにした。
「……よし」
静かな路地裏。
レイは黒衣を羽織り、仮面を装着する。
――錬金術師ドルーゴ・イレ。
そして、その隣にもう一つ影が並ぶ。
同じく黒衣、仮面。
秘書役として動くミリーエ。
正体はエミリーだ。
「今日の品は三点です。契約書はすでに確認済み」
「助かる」
ミリーエは淡々と書類を整え、布袋を抱える。
王都でドルーゴの作品を流通させる際の仲介役。
それが彼女の役割だった。
表向きは存在しない商談。
裏の流通経路。
だがやっていることは意外と地味だ。
「今回は魔力節約型の補助灯具です」
「試作品な」
「はい。ですが評判はかなり良いですね」
「へぇ」
レイは仮面の奥で小さく息を吐いた。
王都ギルドの裏窓口へと足を運ぶと、すでに担当者が待っていた。
「ドルーゴ様、いつもありがとうございます」
緊張した様子の中年男性。
黒衣の錬金術師に対する扱いは、どこか慎重だ。
レイは短く頷く。
「渡す」
「はい!」
ミリーエが布袋を差し出す。
中身を確認した担当者は目を見開いた。
「……この精度で、この魔力効率……また改良されている……」
「問題は?」
ドルーゴが淡々と問う。
「いえ、問題どころか……むしろ過剰性能です」
「なら売れ」
「はい……!」
即答だった。
このやり取りは毎回ほとんど同じだ。
少しの確認。
少しの驚き。
そして静かな契約成立。
やがて取引が終わると、ミリーエが小さく息をつく。
「無事完了ですね」
「平和だな」
「こういうのを平和と言うのでしょうか」
「多分そう」
王都の裏路地。
誰も騒がない。
誰も戦わない。
ただ物が動き、金が動く。
それだけの時間。
レイは少しだけ肩の力を抜いた。
「やっぱこれくらいがちょうどいい」
「同感です」
ミリーエが軽く頷く。
その仮面越しの声音には、ほんの少しだけ柔らかさが混じっていた。
仕事は終わった。
あとは帰るだけ。
だが帰り道の途中、ミリーエがぽつりと言う。
「ところで、次の依頼ですが」
「え」
「軽い修理依頼が一件」
「軽い?」
「ええ、古代遺物の修復です」
「それ軽くない」
レイは即座に突っ込んだ。
ミリーエは小さく首を傾げる。
「そうでしょうか」
「そうだよ」
だが。
どこか楽しそうでもあった。
レイはため息をつきながら歩き出す。
王都は相変わらず面倒だ。
英雄も貴族も関係ない。
だが――
ドルーゴとしての時間は、少しだけ気楽だった。
「……働きたくない」
レイの日常は今日も平穏である。
本人にとってはだけ。
いったんここまでで区切りにしようと思います!
またこの続きの展開に頭を悩ませそうです。。
…働きたくない




