第五十八話 ぐうたら三男、休みたいのに休ませてもらえない
「……もう働きたくない」
レイは地面へ倒れ込んだまま呟いた。
王城地下出口跡地。
そこには巨大な陥没穴ができていた。
完全崩落である。
もし脱出が少し遅れていたら。
普通に生き埋めだった。
「助かった……のか?」
近衛騎士の一人が呆然と呟く。
セシリアも土煙の向こうを見つめながら息を吐いた。
「……間一髪でしたね」
「ほんとにな……」
教授が珍しく疲れた顔をしている。
エミリーは周囲の負傷者確認へ走り回っていた。
「こちらへ! 怪我人を優先してください!」
混乱はまだ続いている。
だが。
侵食反応は消えた。
少なくとも。
あの地下施設は完全に崩壊したのだ。
レイは仰向けのまま空を見る。
夜空。
静か。
平和。
「帰りたい……」
「どこへですか?」
セシリアが横から冷静に聞いてきた。
「実家」
「王都から逃げる気ですね?」
「否定できない」
本音だった。
すると。
騎士たちの一部がこちらを見ていることに気づく。
いや。
一部ではない。
全員見ていた。
「……なんでみんなこっち見てんの」
レイが嫌そうな顔をする。
近衛騎士の一人が恐る恐る口を開いた。
「あの……」
「はい」
「先ほどの術式は……」
「知らん」
「いやでも」
「知らん」
即答だった。
完全に押し切る構えである。
セシリアが頭を押さえた。
「無理がありますよ、それは……」
「説明したくないんだよ」
むしろレイ本人が一番説明を求めたい。
管理領域。
空間固定。
領域上書き。
最近やっていることが人外すぎる。
その時。
王城側から新たな騎士隊が駆けつけてきた。
「セシリア様!」
「ご無事でしたか!」
「地下から大規模魔力反応が――」
そこで全員止まる。
崩壊跡。
負傷者。
疲弊した近衛騎士。
そして地面へ転がっているレイ。
「……何があったんです?」
当然の疑問だった。
セシリアは少し黙る。
それから。
「報告書を書くのが嫌になる程度には大変でした」
遠い目で言った。
レイは深く頷く。
「それな」
完全同意だった。
教授も疲れた顔で呟く。
「絶対長くなる……」
エミリーが苦笑する。
「王城側が大騒ぎになりますね」
「嫌だぁ……」
レイは本気で呻いた。
絶対事情聴取される。
絶対面倒。
絶対休めない。
すると。
セシリアが静かにこちらを見る。
「……レイ殿」
「なに」
「国王陛下への緊急報告があります」
「うん」
「当然、あなたも同行です」
「逃げていい?」
「駄目です」
即答だった。
レイはその場で目を閉じた。
終わった。
色んな意味で終わった。
その時。
アリアの声が頭の中へ響く。
『お疲れ様です、レイ』
「他人事だなぁ……」
『生存率は高かったため問題ありません』
「問題大有りなんだよ」
だが。
アリアは少しだけ間を置いて言った。
『ですが』
「?」
『……無事でよかったです』
レイは少しだけ目を丸くした。
それから。
「……そっか」
小さく笑う。
だが次の瞬間。
セシリアが容赦なく言った。
「では行きますよ」
「休憩は!?」
「ありません」
「ブラック職場だぁ!!」




