第五十七話 ぐうたら三男、最後まで全力疾走させられる
『出口周辺地盤の崩落を確認』
「最後まで素直に帰らせろぉ!!」
レイの悲鳴が地下通路へ響く。
だが現実は非情だった。
前方。
見えていた出口周辺が崩れ始めている。
ボロボロと天井が落下し。
地面が沈み。
辛うじて残っていた脱出路が閉じかけていた。
「急げぇぇ!!」
近衛騎士たちが叫ぶ。
全員が一斉に速度を上げた。
ドゴォォン!!
背後では通路崩壊が迫ってくる。
完全に飲み込まれる寸前だった。
「ほんと映画みたいな逃走劇やめてくれ……!」
レイは半泣きだった。
その時。
前方通路の天井が崩落する。
「塞がる!」
セシリアが即座に魔法陣展開。
『雷光破砕』
青白い雷撃が瓦礫を吹き飛ばす。
強引に道を開いた。
「通ってください!」
「助かる!」
レイたちは崩れゆく通路を駆け抜ける。
もう全員必死だった。
騎士たちは負傷者を抱え。
教授は後方崩壊を重力術式で遅延。
エミリーは隊列を崩さないよう誘導している。
そして。
レイは。
「うわまた!?」
崩落を避け。
転移し。
足場を作り。
半分くらい便利屋になっていた。
「レイ殿、右!」
「はいよ!」
『構造固定』
落下寸前の通路を無理やり固定。
全員が駆け抜ける。
完全に土木作業である。
「俺なんで王都来てからこんな働いてるの……」
「諦めてください」
エミリーが即答した。
酷い。
その時。
出口付近から冷たい夜風が吹き込んだ。
「地上だ!」
騎士の一人が叫ぶ。
視界の先。
崩れかけた出口。
そして夜空。
「見えたぁぁ……!」
レイが感動しかけた瞬間。
ミシィッ!!
「……ん?」
出口上部。
巨大な岩盤が傾く。
全員の顔色が変わった。
「まず――」
ドゴォォォォン!!
岩盤崩落。
出口直撃。
「塞がったぁぁぁ!!」
レイが絶叫した。
あと数十メートルだったのに。
本当にあと少しだったのに。
セシリアが即座に判断する。
「破壊します!」
「頼んだ!」
巨大魔法陣展開。
だが。
崩落速度が速い。
岩盤の向こう側からさらに土砂が流れ込んでいる。
「間に合いません!」
「マジか!」
教授が険しい顔をする。
「地下空洞そのものが潰れている!」
「つまり!?」
「あと数分でここも埋まる!」
「終わった!」
レイが頭を抱える。
その時。
アリアの声が響いた。
『提案があります』
「嫌な予感しかしない」
『管理領域を局所展開し、出口周辺を一時固定してください』
「いやそれ絶対めちゃくちゃ疲れるやつ!」
『はい』
「即答すんな!」
だが。
他に方法がない。
レイは盛大にため息を吐いた。
「はぁぁぁ……もう嫌だ……」
そして。
右手を出口へ向ける。
青白い紋様が強く輝いた。
『局所管理領域展開』
瞬間。
崩壊していた出口空間が停止した。
落下中の岩盤。
崩れる土砂。
全部。
空中静止。
「「「……は?」」」
騎士たちが完全に固まる。
セシリアでさえ絶句していた。
「……レイ殿」
「聞かないで」
本当に。
もう説明したくなかった。
「今のうちに走れぇぇ!!」
レイの叫びで全員が我に返る。
一斉に出口へ突っ込んだ。
そして――
最後尾のレイが地上へ飛び出した瞬間。
管理領域が解除される。
轟ォォォォォン!!
地下出口が完全崩壊した。
土煙が夜空へ舞い上がる。
静寂。
夜風。
そして。
地面へ倒れ込むレイ。
「……もう働きたくない」




