第五十六話 ぐうたら三男、出口まで八百メートルに絶望する
『地上出口まで残り八百メートルです』
「遠っ!!」
レイの叫びが崩壊する通路へ響いた。
あと少し、ではない。
普通に長い。
しかも後ろは絶賛崩落中である。
「なんでこう、毎回イベント終盤に脱出パート入るんだよ……!」
「文句を言いながらでも走ってください!」
セシリアが雷撃で瓦礫を吹き飛ばす。
轟音。
前方通路が無理やり開通した。
「うわ便利」
「誰のせいでこうなっていると?」
「半分くらい俺じゃない」
「半分は認めるんですね」
認めたくなかった。
だが実際、管理領域まで展開した辺りから被害規模が跳ね上がった気はする。
後方では騎士団が負傷者を支えながら走っていた。
「急げ!」
「崩落が来るぞ!」
ドゴォォン!!
また天井が落ちる。
通路全体が揺れた。
「うおっ!?」
レイは壁へ手をつく。
嫌な感覚。
地下全体が沈み始めている。
『地下魔素流の暴走を確認』
アリアが冷静に告げる。
『侵食領域崩壊の余波により地脈が不安定化しています』
「つまり?」
『全部崩れます』
「簡潔ゥ!」
だがわかりやすかった。
全力で逃げろということだ。
その時。
前方通路の床が砕けた。
バキィッ!!
「うわっ!?」
数人の騎士が体勢を崩す。
さらに床が陥没。
下には黒い深穴。
「落ちる!」
レイは即座に右手を振る。
『空間足場』
青白い板状術式が空中へ展開される。
騎士たちがその上へ転がり込んだ。
「た、助かった……!」
「便利すぎませんかその術式!?」
「俺もそう思う!」
本当に何でもでき始めていて怖い。
セシリアが呆れ半分の顔をした。
「レイ殿、そのうち本当に人間扱いされなくなりますよ」
「やめて怖い」
割と本気で怖かった。
その時。
後方から嫌な咆哮が響く。
ゴォォォッ!!
全員が振り返る。
「……まだいるの!?」
崩落の奥。
残留侵食魔素が集まり、小型侵食個体が形成されていた。
完全体ではない。
だが数が多い。
「最後まで嫌がらせしてくるな!?」
『残留侵食反応による擬似形成体です』
「説明助かるけど今じゃない!」
侵食個体が一斉に突進してくる。
狭い通路。
この状況で足止めされるのはまずい。
「私が止めます!」
セシリアが振り返る。
複数魔法陣展開。
『雷散射陣』
無数の雷撃が通路を埋め尽くした。
轟轟轟ッ!!
侵食個体群がまとめて吹き飛ぶ。
だが。
魔素塊が再び集まり始める。
「再生早っ!」
教授が顔をしかめた。
「核が残っている!」
「じゃあまとめて消す!」
レイは立ち止まり、右手を通路後方へ向けた。
青白い術式展開。
今度は大規模。
『領域圧縮』
空間が軋む。
次の瞬間。
通路後方が丸ごと押し潰された。
侵食個体も、残留魔素も、崩落瓦礫ごと圧縮される。
轟音。
完全封鎖。
「……え?」
騎士たちが固まった。
後方通路そのものが消えていた。
レイは若干引いていた。
「うわやりすぎた」
「今更です」
エミリーが即答した。
ひどい。
だが。
追撃は止まった。
「とにかく進みます!」
セシリアが叫ぶ。
全員が再び走り出す。
その先。
遠くに微かな光が見えた。
「あっ……出口!」
騎士の一人が声を上げる。
地上だ。
ようやく。
しかし。
『警告』
アリアの声。
嫌な予感しかしない。
『出口周辺地盤の崩落を確認』
「最後まで素直に帰らせろぉ!!」




