第五十一話 ぐうたら三男、合体は反則だと思う
「うわ合体し始めた!?」
侵食個体群が蠢く。
黒い肉塊のように溶け合い。
融合し。
巨大化していく。
騎士たちの顔が青ざめた。
「な、なんだあれ……!」
「魔物同士が融合している!?」
「そんな現象聞いたことないぞ!」
レイも同意だった。
「俺も聞きたくなかった」
本当に。
侵食、便利すぎる。
巨大眼球が低く唸る。
『侵食同期完了』
『対管理者制圧形態へ移行』
「名称からして嫌だな!?」
黒い巨体が完成する。
十メートル級。
四腕。
外殻。
中央には巨大核。
しかも。
身体中へ古代術式が走っていた。
「うわ完全にボスじゃん……」
レイは遠い目をした。
なんで王城地下でこんなイベント戦をやらされているのか。
心底帰りたい。
すると。
巨大侵食体が動いた。
速い。
巨体とは思えない速度で突進する。
「散開!!」
セシリアが叫ぶ。
次の瞬間。
巨大侵食体の腕が振り下ろされた。
轟ォォン!!
地下広間が崩れる。
「うおっ!?」
レイは転移術式で回避。
近衛騎士たちも飛び退く。
だが。
一人間に合わない。
「しまっ――」
「危なっ!」
レイは即座に右手を振る。
『位置交換』
騎士の身体が瞬間移動。
代わりにレイが前へ出る。
「レイ殿!?」
セシリアが叫ぶ。
巨大侵食体の拳が迫る。
「ぐっ」
レイは正面へ術式展開。
『衝撃偏向』
拳が逸れる。
だが。
重い。
「力馬鹿かよ……!」
床が砕ける。
地下広間がさらに崩壊した。
『高出力確認』
仮面の男が静かに分析する。
「実況やめろ!」
その時。
巨大侵食体の核が発光した。
黒い波動。
「また来る!」
レイが叫ぶ。
だが。
今度は範囲が広い。
地下広間全域。
「防ぎきれません!」
セシリアが顔を強張らせる。
アルベルトも歯を食いしばる。
「範囲が大きすぎる……!」
レイは舌打ちした。
避けるのは無理。
なら。
「はぁぁ……」
右手紋様が強く輝く。
青白い古代術式。
多重展開。
『領域上書き』
瞬間。
地下広間の景色が変わった。
青白い光の空間。
侵食領域が押し返される。
「「「!?」」」
騎士たちが絶句した。
巨大侵食体の動きが鈍る。
黒い魔素が剥がれ落ちる。
仮面の男が初めて僅かに反応した。
『……管理領域』
「出したくなかったぁ……」
レイは本気で嫌そうだった。
なんかもう。
完全に管理者側みたいである。
「レイ殿、それは……」
「聞かないで」
セシリアが何か言いかけるが、レイは即座に遮った。
今は説明している暇がない。
巨大侵食体が暴れ始める。
『侵食抵抗確認』
「うわまだ動くの!?」
管理領域内なのに。
完全停止しない。
巨大眼球がゆっくり瞬く。
『適応開始』
「学習すんなぁ!!」
本当に厄介だった。
すると頭の中へアリアの声が響く。
『レイ、対象が領域適応を始めています』
「やっぱりか……」
『現在のままでは押し切られます』
「だよなぁ」
レイは巨大侵食体を見る。
中心核。
あれを破壊しない限り終わらない。
だが。
核周囲には複数防壁。
さらに仮面の男が権限干渉している。
「面倒構成すぎる……」
その時。
セシリアが横へ並んだ。
「レイ殿」
「ん?」
「核を狙えばいいのですね?」
レイは少し目を丸くした。
「……できる?」
「誰に言っているんですか」
セシリアの周囲へ巨大魔法陣が展開される。
幾重もの雷光。
王国宮廷魔導士筆頭。
本気の術式だった。
アルベルトも頷く。
「ならば私は術式干渉を抑える」
「教授までやる気だ」
「ここで王都を壊されると困るからね」
エミリーは避難完了確認後、レイの隣へ戻る。
「レイ様」
「なに」
「派手にやってください」
「雑要求きた」
「いつも通りです」
レイは盛大にため息を吐いた。
だが。
少し笑う。
「……了解」
そして。
右手を巨大侵食体へ向けた。
『管理領域、出力上昇』
青白い光が地下広間を埋め尽くす。
次の瞬間。
巨大侵食体が咆哮した。




