第四十二話 ぐうたら三男、地下水路を片付ける
ズバァッ!!
侵食核が両断される。
一瞬。
地下水路全体が静止した。
そして次の瞬間。
黒い巨人の身体へ亀裂が走る。
『――ッ!?』
ノイズ混じりの悲鳴。
黒い魔素が制御を失い、暴走するように噴き出した。
「うわ漏れてる漏れてる」
レイは嫌そうに後退する。
『侵食核崩壊を確認』
『侵食端末維持不能』
球体の声が脳内へ響く。
黒い巨人はよろめいた。
巨大な身体が崩れ始める。
『継承者……』
「なんだよ」
『まだ終わっていない』
「だろうなぁ」
レイは本気で嫌そうな顔をした。
どうせ続きがある。
もうわかっている。
黒い巨人の顔が歪に笑う。
『管理者権限は一つではない』
「知りたくなかった情報」
『次は――』
その瞬間。
巨人の身体が崩壊した。
ドォォォッ!!
黒い魔素が爆散する。
「っ!」
レイは即座に右手を振った。
『遮断』
青白い障壁が展開。
暴走魔素を地下水路内へ封じ込める。
だが。
量が多い。
「めんどくせぇ……」
レイは頭を掻いた。
侵食核は破壊した。
だが残留侵食が残っている。
放置するとまた広がる。
『浄化処理を推奨』
「やると思ったよ」
レイは盛大にため息を吐いた。
働きたくない。
本当に。
だが。
王都地下で侵食爆弾放置はさすがにまずい。
「はぁ……」
右手紋様が発光する。
空中へ大量の古代魔語術式。
『浄化』
『循環正常化』
『侵食除去』
地下水路全体が淡く光り始めた。
黒い魔素が徐々に分解されていく。
濁っていた水流も透明度を取り戻す。
「うわ、ほんと便利だなこれ……」
自分で使っていて若干引く。
管理権限、万能すぎる。
その時。
奥通路からセシリアたちが戻ってきた。
「レイ様!」
「生存者は無事確保しました!」
エミリーの後ろには数人の避難民。
アルベルトも一緒だ。
「そっちは?」
「終わった」
レイが黒い残骸を指差す。
セシリアが目を見開いた。
「もう倒したんですか!?」
「まあ」
「“まあ”で済ませる規模じゃないだろう……」
アルベルトが苦笑する。
地下水路にはまだ浄化光が残っている。
侵食反応も急速に低下していた。
セシリアが周囲を確認する。
「侵食が消えていく……?」
「核壊したからな」
「本当に何者なんですか、レイ殿は……」
「ぐうたら貴族三男です」
「説得力がありません」
知ってた。
その時。
避難民の一人が震えながら口を開いた。
「あ、あの……助けていただいて……」
「ん?」
「黒い化け物が突然現れて……」
かなり怯えている。
無理もない。
王都地下で侵食魔物遭遇など悪夢だ。
レイは軽く手を振った。
「もう大丈夫」
そして。
古代魔語を小さく呟く。
『安定』
淡い光が避難民たちを包んだ。
精神安定術式。
恐怖と混乱を少し和らげる。
「……っ」
セシリアが横目で見る。
「また無詠唱……」
「詠唱してる」
「それですか?」
「そう」
周囲にはやはり意味不明音にしか聞こえない。
だが効果だけは異常だった。
アルベルトが静かに呟く。
「古代魔語は体系そのものが違うのか……」
レイは聞こえないフリをした。
その時。
脳内へ球体の声が響く。
『侵食危機レベル低下』
『継承者の功績を記録』
「いらない」
『管理者権限接続率51%』
「増えてるぅ!?」
レイは頭を抱えた。
「なんで働くほど増えるんだよ!」
『高評価処理です』
「いらねぇ!!」
セシリアたちはもう慣れてきたのか、誰も止めなかった。




