第四十話 ぐうたら三男、地下水路の主と対面する
ズゥン……。
地下水路全体が揺れた。
濁った水面が大きく波打つ。
「……なんだ今の」
レイが眉をひそめる。
奥から来る。
巨大な魔力反応。
しかも。
侵食個体とは比較にならない。
『高脅威反応を確認』
「今度は最初から高脅威なんだな」
『学習しました』
「変な学習するな」
レイはため息を吐いた。
だが空気は重い。
セシリアも険しい顔で魔法陣を展開している。
「この魔力量……大型魔物級です」
「いや、もっと嫌な感じする」
レイにはわかった。
これはただの魔物ではない。
“意志”がある。
しかも。
こちらを認識している。
ズズズ……。
闇の奥。
黒い魔素が集まり始めた。
地下水路の壁面。
水。
空気。
全部を侵食しながら膨張していく。
「うわぁ……」
レイは露骨に嫌そうな顔をした。
「見るからにラスボス前座」
次の瞬間。
巨大な腕が闇から飛び出した。
ゴォッ!!
「っ!」
セシリアが即座に前へ出る。
『氷壁』
多重防壁展開。
巨大氷壁が地下水路を塞ぐ。
直後。
黒い腕が激突した。
轟音。
氷壁が砕け散る。
「硬っ!?」
セシリアが目を見開く。
その隙に、レイが術式を展開した。
『切断』
青白い古代魔語。
空間が一閃する。
黒い腕が途中から斬り飛ばされた。
ズシャアッ!!
黒い液体が飛び散る。
「うわ気持ち悪っ」
だが。
切断面が即座に再生を始めた。
「再生!?」
『侵食核保持個体です』
球体が説明する。
『核破壊を推奨』
「毎回説明遅いな!?」
闇の奥から、ゆっくりと本体が姿を現した。
巨大だった。
三メートルを超える黒い肉塊。
人型を無理やり維持したような異形。
身体中から黒い魔素が漏れ出している。
そして。
顔だけが妙に人間らしい。
「……うわ」
レイの顔が引きつる。
顔面だけ笑っていた。
『継承者』
また日本語。
地下水路へノイズ混じりの声が響く。
当然、周囲には意味不明だ。
だがレイにはわかる。
「お前、どこで見てる」
『もうすぐだ』
「質問に答えろ」
『お前もいずれ理解する』
「その言い回し嫌い」
黒い巨人が一歩踏み出す。
ズンッ!!
地下水路が揺れた。
周囲の侵食個体たちも活性化する。
「レイ様!」
「はいはい」
レイは前へ出た。
右手紋様が発光する。
『領域固定』
空間が震える。
地下水路全体へ古代術式が走った。
瞬間。
黒い魔素の流れが止まる。
「なっ……!?」
セシリアが絶句した。
侵食そのものが固定されている。
水路内の黒い魔素が動かない。
「管理権限便利すぎる……」
レイ自身が若干引いていた。
だが。
黒い巨人だけは止まらない。
ギギギ……。
無理やり空間固定を押し破ろうとしている。
『侵食権限干渉を確認』
「権限同士で殴り合ってる!?」
レイは顔をしかめた。
つまり。
向こうも管理権限系統。
完全に同格ではないが、かなり近い。
「ほんと何者だよお前……」
その瞬間。
黒い巨人の胸部が裂けた。
中から。
赤黒い球体が現れる。
『侵食核確認』
球体が告げる。
『破壊を推奨』
「はいはい」
レイは右手を向けた。
だが。
その時。
黒い巨人が笑う。
『壊してみろ』
「……あ?」
『王都ごと吹き飛ぶぞ』
空気が凍った。
レイの目が細くなる。
「人質ってわけか」
侵食核。
地下地脈へ接続されている。
雑に破壊すれば。
王都地下の魔素流が暴走する。
「最悪だな」
『肯定』
「お前じゃねぇ!」




