第三十九話 ぐうたら三男、王都の地下水路へ向かう
「労働は尊い行為です」
「古代文明と価値観合わねぇ……」
レイは心底嫌そうに呟いた。
だが。
状況は待ってくれない。
『王都北東区域、侵食拡大中』
中央水晶へ映る黒い魔素。
地下水路から地上へ漏れ出している。
「急ぎましょう」
セシリアが真剣な顔で言う。
「被害が出始めています」
「ですよねぇ……」
レイは深くため息を吐いた。
本当に帰りたい。
だが放置できない。
アリアが静かに告げる。
『中枢転移機能を使用します』
「転移?」
次の瞬間。
足元へ巨大術式が展開された。
青白い古代魔語。
「うわまた勝手に!」
『緊急対応を優先』
「強行すぎる!」
光が溢れる。
視界が白く染まり――。
◇
次の瞬間。
「……くっさ」
レイは顔をしかめた。
地下水路だった。
湿った石壁。
濁った水。
王都地下独特の臭気。
「転移成功ですか」
セシリアが周囲を警戒する。
エミリーは軽く鼻を押さえていた。
「王都の地下ってこんな感じなんですね……」
「まあ下水だし」
だが。
問題は別にあった。
通路奥。
黒い魔素が漂っている。
しかも。
「……人いるな」
逃げ遅れたのか。
数人の作業員が倒れていた。
「侵食魔素中毒か」
レイはすぐ駆け寄る。
まだ生きている。
だが体内魔素が乱れていた。
「レイ様!」
「エミリー、浄化補助」
「はい!」
セシリアが周囲警戒へ回る。
レイは右手をかざした。
『安定』
『循環補正』
青白い術式が作業員たちを包む。
黒い魔素が徐々に抜けていく。
「……すごい」
エミリーが小さく呟く。
通常なら専門魔術師が複数必要な処置。
それをレイは数秒で終わらせた。
「よし」
作業員たちの呼吸が安定する。
だが。
レイは険しい顔のままだった。
「侵食速度が速い」
「危険なのですか?」
セシリアが聞く。
「かなり」
黒幕側の侵食が強くなっている。
しかも。
地下水路を経由している。
「地脈流れ利用してるなこれ」
効率的すぎる。
完全に理解者のやり方だった。
すると。
奥の闇から低い音が響く。
ズ……ズズ……。
「来るぞ」
レイの声と同時。
黒い影が現れた。
人型。
だが歪んでいる。
皮膚は黒く侵食され、目だけが赤い。
「侵食個体……!」
セシリアが前へ出る。
魔法陣展開。
高速詠唱。
『雷槍』
蒼白い雷撃が地下水路を走り抜けた。
轟ッ!!
侵食個体の一体が弾け飛ぶ。
「うわ威力高っ」
「宮廷魔導士ですから」
セシリアは冷静だった。
だが敵は多い。
次々と闇から現れる。
「うわ増えた」
『侵食端末群を確認』
球体の声が脳内へ響く。
『低脅威個体×17』
「17!?」
セシリアが驚く。
「低脅威でこれですか!?」
『管理者基準です』
「基準がおかしい!」
だが敵は待ってくれない。
侵食個体群が一斉に襲いかかる。
ズドォッ!!
セシリアが追加魔法を展開する。
『火炎散弾』
複数魔法陣が浮かび、大量の火球が侵食個体群を撃ち抜いた。
爆炎。
熱風。
地下水路が赤く染まる。
「レイ様!」
「はいはい」
レイは面倒そうに右手を上げた。
『固定』
瞬間。
侵食個体群の動きが止まる。
「えっ」
セシリアが固まった。
十数体。
まとめて空間固定。
「強すぎません!?」
「俺もそう思う」
完全に管理権限チートだった。
レイ自身が引いている。
だが。
次の瞬間。
侵食個体の一体が笑った。
ニタァ……。
「……あ?」
レイの顔が険しくなる。
その個体の口が動いた。
『見つけた』
日本語。
レイだけが理解する。
そして。
『継承者』
地下水路の奥から。
巨大な黒い魔力反応が近づいてきた。




