第三十八話 ぐうたら三男、古代文明の労働環境に戦慄する
「仕事増える前提!?」
レイの叫びが中枢管理室へ響く。
だがアリアは無表情だった。
『世界維持業務のため必要です』
「必要じゃないが?」
『必要です』
「圧が強い」
レイは本気で嫌そうな顔をした。
世界維持。
地脈管理。
侵食対応。
全部重い。
重すぎる。
「俺、のんびり暮らしたいだけなんだけど」
『継承者権限を放棄しますか?』
「できるの?」
『推奨しません』
「絶対碌でもない条件あるやつ」
アリアは静かに頷く。
『現在の侵食状況では、中枢維持能力が低下しています』
「つまり?」
『継承拒否時、本施設停止確率上昇』
「停止したら?」
『アルデバラン王国消滅確率72%』
「またそれぇ!」
レイは頭を抱えた。
実質拒否権がない。
ブラック企業どころではない。
世界規模の押し付けである。
エミリーが苦笑する。
「レイ様、諦めましょう」
「最近みんな俺に冷たくない?」
「慣れました」
「酷い」
その時。
アルベルトがふと中央水晶へ近づいた。
「……興味深い」
「触るなよ?」
「まだ何もしていないよ」
「研究者の“まだ”は信用できない」
本気だった。
アリアもアルベルトを見た。
『研究者適性・危険』
「やっぱり危険判定なんだ」
アルベルト本人には聞こえていない。
だがレイの反応で察したらしい。
「私は何と言われているんだい?」
「危ない研究者」
「光栄だね」
「全然反省してない」
セシリアが深いため息を吐く。
「話が進みません」
「だって全部重いんだもん」
本音だった。
だが。
現実逃避しても仕方ない。
レイはアリアを見る。
「……その侵食って、具体的に何されてるんだ?」
『地脈制御権限への不正介入』
「うわぁ……」
『目的は不明』
「でも世界壊す系だろ?」
『可能性高』
レイは顔をしかめる。
以前の言葉。
“この世界を維持するか、壊すか”。
あれは脅しではない。
本当に可能なのだ。
古代文明の管理権限なら。
「管理者って怖すぎるだろ……」
『そのため適性検査が存在します』
「俺通っちゃったんだけど?」
『極めて高適性です』
「嬉しくない」
すると。
中央水晶へ映像のような光景が浮かび上がった。
王都。
地下地脈。
複雑な魔素流。
そして。
一部が黒く侵食されている。
「……これが侵食箇所か」
『肯定』
レイは目を細めた。
位置が妙だ。
王都地下だけではない。
複数箇所ある。
「地方にも広がってる?」
『侵食は地脈経由で拡散中』
「最悪じゃん」
セシリアが険しい顔になる。
「止める方法は?」
『管理権限による直接浄化』
「嫌な予感」
『継承者であれば可能です』
「俺かぁ……」
レイは遠い目をした。
完全に労働確定ルート。
するとアリアが静かに続ける。
『なお、現時点で継承者以外による対応成功率は0.02%』
「ほぼゼロでは?」
『肯定』
「知ってた」
その時だった。
ピコン――。
中央水晶が赤く点滅する。
『警告』
『王都北東区域にて侵食反応増大』
レイの表情が変わった。
「……近いな」
『地上まで侵食進行中』
「地上?」
次の瞬間。
映像が切り替わる。
王都の一角。
地下水路付近。
黒い魔素が噴き出していた。
周囲の人々が逃げ惑っている。
「うわ、もう始まってる」
セシリアが即座に剣を取る。
「現地へ向かいます!」
「俺も行く流れ?」
『管理者権限保持者の同行を推奨』
「だろうと思った!」
レイは頭を抱えた。
だが。
放置はできない。
王都被害が出れば、さらに状況は悪化する。
「……はぁ」
深いため息。
「働きたくないのに」
『労働は尊い行為です』
「古代文明と価値観合わねぇ……」




