第三十六話 ぐうたら三男、中枢管理室へ辿り着く
地下へ続く階段は、異様なほど長かった。
「まだか……」
レイがうんざりした声を漏らす。
既にかなり深い。
王都地下どころではない。
もはや地脈の中心付近まで来ている感覚だった。
「空気が変わりましたね」
セシリアが周囲を警戒する。
魔素濃度が異常に高い。
普通の魔術師なら立っているだけで酔うレベルだ。
だが。
古代術式によって安定化されている。
「これ全部制御してるのか……?」
レイは壁面術式を見ながら呟く。
『肯定』
球体が脳内へ返答する。
『アルデバラン中央地脈制御補助施設』
「規模デカすぎだろ」
『標準規模である』
「古代文明怖ぇ」
アルベルトは完全に目が輝いていた。
「実に興味深い……」
「だから研究者テンションやめろって」
その時だった。
階段の先に、巨大な扉が現れる。
白銀色。
全面へ刻まれた古代魔語。
中央には、レイの右手紋様と同じ形。
『中枢管理室』
「うわラスボス部屋っぽい」
レイは露骨に嫌そうな顔をした。
『管理者認証を開始』
「勝手に始めるな」
だが扉は止まらない。
ゴォォォォ――。
巨大扉がゆっくり開いていく。
その先。
「……は?」
レイは言葉を失った。
広大な空間。
円形の白い部屋。
中央には巨大な水晶。
そして。
無数のモニターのような光板。
完全にSF空間だった。
「なんだこれ……」
「信じられない……」
セシリアも絶句する。
エミリーですら目を見開いていた。
だが。
レイの視線は別の場所へ固定されていた。
「……人?」
中央水晶の前。
誰かが座っていた。
銀色の長髪。
白い衣装。
細い身体。
まるで眠っているように動かない。
「おいおいおい」
レイは本気で引いた。
「なんで人いるんだよ」
『訂正』
球体が淡々と告げる。
『管理者補助端末』
「人型!?」
その瞬間。
座っていた少女がゆっくり目を開いた。
淡い蒼色の瞳。
機械的。
だが。
明確にレイを見た。
『……認証確認』
日本語。
脳内へ直接響く。
少女は静かに立ち上がる。
『継承者の到着を確認しました』
「うわ喋った」
エミリーたちには聞こえていない。
だがレイだけは完全に理解していた。
少女はレイへ歩み寄る。
表情は薄い。
感情がほとんど見えない。
『管理補助個体ナンバー零』
『識別名称――アリア』
「名前あったんだ」
『現在、中枢管理代行を継続中』
「一七〇〇年以上?」
『肯定』
「働きすぎでは?」
『管理者不在のため継続』
「ブラック企業だ」
『不明単語』
「だろうな」
レイは頭を抱えた。
古代文明。
管理AI。
地下施設。
もう何でもありだ。
だが。
アリアは突然、その場で深く頭を下げた。
『継承者へ要請します』
「嫌な予感」
『どうか、この世界を壊さないでください』
空気が止まった。
レイの表情が消える。
「……は?」
その言葉だけは。
冗談では済まされない響きを持っていた。




