第三十四話 ぐうたら三男、管理者権限を雑に使う
黒い魔素が爆発的に広がる。
ドォォォン!!
第零管理区画全体が揺れた。
「っ!」
セシリアが即座に防御魔術を展開する。
エミリーも補助障壁を重ねた。
だが。
「うわ、めちゃくちゃ侵食してくるなこれ」
レイは嫌そうに眉をひそめる。
黒い魔素が床や壁面へ触れた瞬間、古代術式を侵食し始めていた。
アストラ遺跡で見た現象と同じ。
いや。
もっと深刻だ。
『警告』
『管理区画侵食率上昇』
『防衛権限使用を推奨』
「だから勝手に管理者扱いするなって」
『接続率31%』
「増えてる!?」
レイは頭を抱えた。
だがその瞬間。
脳内へ情報が流れ込む。
区画防壁。
迎撃術式。
魔素循環制御。
全部、“使い方を理解できてしまった”。
「うわぁ……」
嫌な顔になる。
「レイ様!?」
「使えるの最悪なんだけど!」
意味不明な叫びだった。
だが次の瞬間。
黒い人影が突っ込んでくる。
ズンッ!!
「速っ!?」
セシリアが剣を振るう。
銀閃。
だが。
人影は黒い霧となって回避した。
「物理変質!?」
「面倒なタイプです!」
直後。
黒い魔素槍が大量生成される。
「うわ絶対痛いやつ」
レイは右手を振った。
『防壁』
瞬間。
空間そのものが発光した。
巨大な光壁。
魔素槍群が全て弾かれる。
ドドドドドッ!!
研究院最高峰クラスの防御術式。
それが無詠唱同然で展開された。
セシリアが絶句する。
「なっ……」
アルベルトの目は完全に輝いていた。
「素晴らしい」
「研究モード入るな」
レイは頭を押さえる。
勝手に術式が理解できる。
完全に管理者権限の影響だ。
「最悪だ……便利すぎる……」
『効率的運用を推奨』
「黙れサポートAI」
『管理補助個体である』
「認めたな!?」
その間にも。
黒い人影が侵食を続ける。
壁面術式が次々と黒く染まっていく。
『侵食率42%』
「結構ヤバくない?」
『やや問題あり』
「その言い方やめろ」
レイは深くため息を吐いた。
そして。
「……一回止めるか」
右手を掲げる。
空間中へ日本語術式が展開された。
当然、周囲には読めない。
だが。
術式規模だけで異常とわかる。
『区画限定』
『侵食停止』
ゴォォォォ――。
巨大空間全体が共鳴した。
次の瞬間。
黒い侵食が止まる。
「……は?」
セシリアが目を見開く。
アルベルトも息を呑んだ。
黒い魔素。
侵食現象。
それが。
空間ごと固定されている。
「なんだそれ……」
レイ自身も引いていた。
「いや強すぎだろ」
『管理権限による正常処理である』
「古代文明怖ぇ」
すると。
黒い人影が不安定に揺れた。
まるで焦っているように。
「……ん?」
レイは目を細める。
その動き。
ただの魔物じゃない。
向こう側に“誰か”がいる。
「お前、どこから繋いでる?」
黒い人影がビクリと止まった。
「図星か」
その瞬間。
人影の顔面が歪む。
ノイズ混じりの声。
だが。
日本語だった。
『――邪魔を、するな』
レイの表情が消えた。
「……やっぱりか」
セシリアたちは意味がわからない。
だが。
レイだけは理解した。
この黒幕。
間違いなく。
自分と同じ、“日本語理解者”だった。




