第三十二話 ぐうたら三男、管理者にされたくない
「……帰っていい?」
レイの悲痛な願いは、当然のように却下された。
「ダメですね」
セシリアが即答する。
「知ってた」
第零管理区画。
青白い光に照らされた古代通路を、四人は進んでいた。
先導するのは銀色の球体。
レイの脳内へだけ直接話しかけてくる迷惑仕様である。
『継承処理準備中』
「その単語やめろ」
『拒否理由を要求』
「働きたくない」
『理解不能』
「だろうな!」
レイが突然ツッコミを入れるため、周囲から見ると完全に独り言である。
エミリーは慣れている。
セシリアは半分慣れ始めていた。
アルベルトだけが面白そうに観察していた。
「実に興味深いね」
「研究対象を見る目やめて」
「否定はしない」
「うわぁ……」
レイは本気で嫌そうだった。
通路を進むほど、古代文明の異常さが見えてくる。
壁面へ刻まれた術式。
自動稼働する魔導機構。
未だ動き続ける浮遊装置。
「何百年どころじゃないよなこれ」
「千年以上前の文明とされています」
セシリアが答える。
「現在の魔術体系の原型とも」
「絶対技術ツリーおかしい」
レイは呆れていた。
現代の魔術は、古代文明の残骸利用に近い。
だがここは違う。
根本理論から完成されている。
『当然である』
「急に会話入ってくるな」
『当時は標準技術』
「文明レベルどうなってんだよ」
その時。
前方空間が開けた。
「……うわ」
巨大空間。
円形ホール。
中央には巨大な水晶柱。
そこから無数の光が空間中へ伸びている。
まるで都市中枢。
「これ全部、術式回線か?」
『肯定』
レイは絶句した。
王都全域。
いや、もっと広い。
地下全体へ繋がっている。
「……まさか」
『アルデバラン王都地下基盤制御中枢』
「王都インフラじゃねぇか!!」
レイが叫んだ。
セシリアたちが驚く。
「何かわかったんですか!?」
「ものすごく嫌なことが!」
アルベルトが真剣な顔になる。
「説明できるかい?」
レイは迷った。
だが隠しても仕方ない。
「たぶんこれ、王都の魔導インフラ管理施設だ」
空気が変わる。
「……なんだって?」
「結界、魔導灯、地下魔素循環、たぶん全部ここ通してる」
セシリアの顔色が変わった。
「それが暴走したら……」
「王都機能死ぬ」
正確にはもっと酷い。
だがレイはそこまでは言わなかった。
アルベルトが水晶柱を見上げる。
「古代文明が王都地下にここまで干渉していたとは……」
『訂正』
球体が脳内へ響く。
『王都が後から上に建造された』
「逆かよ」
つまり。
この施設の上に、現在の王都が作られた。
研究院も王城も全部。
「怖すぎるだろ」
その時。
水晶柱の一部が赤く点滅した。
ピコン、ピコン――。
『異常領域確認』
『外部侵食進行中』
レイの表情が変わる。
「……侵食?」
『管理権限不正接続』
空気が凍った。
アルベルトが低く呟く。
「誰かがこの施設へ干渉している?」
『継続中』
「黒幕か」
レイは目を細めた。
アストラ遺跡。
変異事件。
中央研究院。
全部ここへ繋がっていた。
『継承者へ要請』
「嫌な予感」
『中枢防衛権限を委譲する』
「嫌です」
『拒否不可』
「横暴!」
その瞬間。
水晶柱から強烈な光が放たれた。
「っ!?」
レイの右手紋様が発光する。
古代魔語術式が空中へ展開。
そして。
空間中へ大量の日本語が浮かび上がった。
当然、読めるのはレイだけ。
『管理者権限接続開始』
「待て待て待て!」
『接続率12%』
「聞けぇ!!」
レイの悲鳴が、第零管理区画へ響き渡った。




