第三十一話 ぐうたら三男、第零管理区画へ入る
「名前からして危険なんだが?」
レイの率直な感想に、誰も反論できなかった。
第零管理区画。
どう考えても重要施設である。
しかも古代文明製。
嫌な予感しかしない。
「……本当に行くんですね」
セシリアがぽつりと呟く。
「今さら戻れない流れになった」
「自覚はあるんですね」
「非常に不本意だが」
地下区画奥。
開いた巨大通路の先には、青白い光が続いていた。
壁面全体へ刻まれた古代魔語。
床には魔素回路。
天井には見たこともない浮遊装置。
「うわぁ……」
レイは思わず声を漏らした。
「技術レベルおかしくない?」
「やはり何かわかるのかい?」
アルベルトが興味深そうに聞く。
「なんとなく」
「便利な言葉だね」
全然信じていない顔だった。
エミリーが周囲を見回す。
「アストラ遺跡より保存状態が良いですね」
「たぶんここ、生きてる」
「生きてる?」
セシリアが眉をひそめる。
レイは壁面へ触れた。
魔素循環。
術式維持。
自動修復。
全部動いている。
「自己保全機能が動作中だな」
研究員たちなら卒倒するレベルの遺跡だった。
アルベルトの目が完全に研究者のそれになる。
「素晴らしい……」
「目が危ない」
「興奮しているだけだよ」
「研究者のそれ信用できない」
すると。
通路奥から淡い光が近づいてきた。
フワフワ浮いている。
「……ん?」
銀色の球体だった。
手のひらサイズ。
中央に青い光。
まるで小型ドローン。
「おお」
レイが少しテンション上がる。
「SFっぽい」
「えすえふ?」
「こっちの話」
球体はレイの前で停止した。
すると。
レイの脳内へ直接、日本語の音声が響く。
『認証確認』
「うわ脳内直接!?」
「レイ様?」
突然反応したレイにエミリーが驚く。
『継承者個体を確認』
「個体って言うな」
『同行個体を確認』
「雑な括りだな!?」
周囲には意味が伝わっていない。
聞こえているのは機械的な魔素音だけだ。
「……レイ様、何かわかるんですか?」
「なんか喋ってる」
「理解できるんですね」
「したくなかった」
すると球体がセシリアの前へ移動する。
青い光が彼女を走査した。
「……?」
セシリア本人は首を傾げるだけだ。
だがレイの脳内には続けて声が響く。
『戦闘適性・高』
「なんかセシリアが高評価されてる」
「はい?」
次にエミリー。
『補助適性・極高』
「エミリーも高評価」
「なぜわかるんです?」
「俺にだけ説明入る」
最後にアルベルト。
『研究者適性・危険』
「危険判定された」
レイが即座に吹き出した。
アルベルト本人は何も聞こえていないが、なんとなく察したらしい。
「私、何か言われたのかい?」
「研究者として危ないらしい」
「ははは!」
「なんか納得した」
セシリアが呆れた顔になる。
そして。
球体は最後にレイの前へ戻る。
一瞬、沈黙。
妙な間。
『……判定不能』
「嫌な予感しかしない」
『前例未確認』
「やめろ」
『管理権限反応異常』
「やめろって」
レイは頭を抱えた。
周囲は意味がわからず困惑している。
「レイ様、何を言われてるんです?」
「聞かない方がいい」
本気だった。
すると球体は続ける。
『最優先保護対象へ指定』
「なんで!?」
レイが素で叫ぶ。
セシリアたちが驚く。
「今度は何です!?」
「俺が聞きたい!」
球体は淡々としていた。
『現在、第零管理区画中枢にて異常発生中』
「だろうな」
『継承処理を開始する』
「だからその継承ってなんだよ」
球体は一瞬沈黙し。
そして。
『古代文明管理者権限の移譲である』
レイは無表情になった。
「……帰っていい?」
誰も「いい」とは言わなかった。




