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ぐうたら三男は古代魔語で悠々自適生活を目指す  作者: シロネル
1章

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第三話 ぐうたら三男、迷惑な来客を対応する

第三話 ダンジョン素材と迷惑な来客


 ゴールド領の朝は早い。


 商人たちは市場へ向かい、冒険者たちはダンジョンへ潜り、職人たちは工房の炉へ火を入れる。


 そして――。


「すぅ……」


 領主館三階。


 レイ・ゴールドは惰眠を貪っていた。


 完全に朝である。


 窓から差し込む陽光が顔面へ直撃している。


 だが起きない。


「レイ様」


 コンコン、と扉が叩かれる。


「……」


「起きてください」


「……あと五時間」


「もう昼です」


 ガチャリ、と扉が開く。


 エミリーが無表情で部屋へ入ってきた。


 そしてベッドを見下ろす。


「起きます?」


「むり」


「起きないとどうなるかわかります?」


「……朝食抜き?」


「今日の朝食、ダンジョン産高級肉の香草焼きです」


 レイの目が開いた。


「起きる」


「現金ですね」


 五秒後には着替え終わっていた。


 エミリーは呆れたようにため息をつく。


「食欲で動くの、本当にどうなんですか」


「食は人生の最重要項目だからな」


「その割に野菜嫌いですよね」


「葉っぱは敵」


「子供ですか。香草はいいんだ…」


 二人は食堂へ向かう。


 その途中、廊下の窓から外を見下ろしたレイが「あ」と声を漏らした。


「帰ってきてるな」


 中庭。


 そこには荷馬車が数台停まっていた。


 積まれているのは巨大な魔物素材。


 紫色の甲殻。


 黒い牙。


 赤く脈動するオーブ。


「昨日の討伐隊ですね」


「変異種いたっぽいな」


 レイの目が細まる。


 魔素の流れが見えた。


 通常種より濃い。


 かなり質の良い素材だ。


「……欲しい」


「顔に出てます」


「ちょっと行ってくる」


「朝食は?」


「あとで!」


 レイは勢いよく走り出した。


 エミリーは頭を抱える。


「本当に素材絡むと行動力ありますよね……」


 ◇


「おお、レイ坊ちゃん!」


 中庭へ出ると、筋骨隆々の男が豪快に笑った。


 探索者ギルド所属のベテラン、グランである。


 顔に大きな傷を持つ大男だ。


「久しぶりだな、グラン」


「昨日帰ったばっかだ! 見ろよこの戦利品!」


 グランが誇らしげに巨大な甲殻を叩く。


「第四層で出た変異種だ。鋼鉄蟲スティールイーター


「へぇ」


 レイは近づく。


 甲殻へ触れた瞬間、魔素の流れが頭へ入ってきた。


 高密度。


 耐熱性能良好。


 魔力伝導率も高い。


「……これ、加工すれば魔導断熱材になるな」


「は?」


「いや独り言」


 グランが苦笑する。


「坊ちゃん、本当に変わってるよな」


「そうか?」


「普通、素材見て“うまそう”か“高そう”しか出てこねぇ」


「俺は実用品派だから」


「貴族なのに?」


「貴族だから快適性を求めるんだよ」


 その時だった。


「――おやおや」


 背後から、嫌味ったらしい声が響く。


 振り返ると、豪奢な服を着た男が立っていた。


 油ぎった笑み。


 太った腹。


 宝石だらけの指。


 地方貴族、ベルモンド男爵である。


「これはこれは、ゴールド家の三男殿」


「……どうも」


 レイは露骨に嫌そうな顔をした。


 ベルモンドは成金気質で有名だった。


 そして、ドルーゴ・イレの魔道具を異様に欲しがっている人物でもある。


「先日発表された“冷却保存庫”! 実に素晴らしい!」


「へぇ」


「ぜひ我が家でも導入したいのですがねぇ……どうにも入手経路がなく」


 ベルモンドがニタァと笑う。


「噂では、ゴールド家とドルーゴ殿は深い繋がりがあるとか?」


「ないな」


「ほう?」


「まったく知らない」


「そうですかそうですか」


 全然信じていない顔だった。


 周囲のギルド職員たちも微妙に視線を逸らしている。


 レイだけが気づいていない。


「ところでレイ殿」


「なんだ?」


「最近、夜の街で“黒衣の怪人”が悪党退治をしているとか」


「へぇ」


「しかも古代魔語を使うそうですよ?」


「物騒だな」


「ええ実に」


 探るような目。


 だがレイは平然としていた。


 なにせ本人は完璧に隠密行動しているつもりだからである。


「……まあいいでしょう」


 ベルモンドは肩をすくめた。


「もしドルーゴ殿と知り合いなら、ぜひお話したいものです」


「伝えとく」


「お知り合いなんですね?」


「あ」


 しまった、という顔になる。


 周囲が一斉に吹き出した。


「ぶふっ」


「くくく……」


 グランなど腹を抱えて笑っている。


 レイは真顔で咳払いした。


「……今のは言葉の綾だ」


「はいはい」


 全然誤魔化せていなかった。


 そんな中。


 エミリーが静かに現れる。


「レイ様」


「お、エミリー」


「朝食、冷めます」


「やば」


「あと」


 エミリーは微笑んだ。


「ベルモンド男爵。“例の件”ですが、ギルド側も色々調べておりますので」


 一瞬。


 男爵の顔が引きつる。


「……何のことでしょう?」


「さあ?」


 にこり、と笑うエミリー。


 その笑顔が怖い。


 レイはなんとなく察した。


(あ、こいつ黒だな)


 そして同時に。


(あとでドルーゴとして調べるか)


 とのんびり考える。


 今日もまた、ぐうたら貴族の平和な一日が始まろうとしていた。

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