第二話 ぐうたら三男、裏の顔で夜仕事
本日はこのままストックしていた話を5話ほど投稿させていただきます。
興味を持たれた方は引き続きお待ちください。
…せかされたらストック放出もあるかも。。
夜。
ゴールド地方最大の都市、ラグナベルクは昼とは違う顔を見せる。
酒場から響く笑い声。
石畳を照らす魔導灯。
そして路地裏を這うように動く、裏社会の気配。
「……で? 本当に今日やるんですか?」
黒いローブを羽織ったエミリー――いや、“ミリーエ”が呆れた声を漏らした。
その隣には、同じく黒衣に身を包んだ男。
仮面を付けたレイである。
世間では天才錬金術師として知られる謎の人物。
ドルーゴ・イレ。
「もちろん」
レイは軽い口調で答えた。
「最近、誘拐が増えてるからな」
「原因は?」
「貴族と盗賊の癒着」
「最低ですね」
「最低だな」
実際、調査は終わっている。
犯人は地方貴族ガウディ子爵。
孤児や貧民を攫い、違法鉱山で働かせていた。
しかも魔素汚染区域だ。
長く生きられる環境ではない。
「証拠も押さえたし、今日は施設ごと潰す」
「物騒な言い方しないでください」
「安心しろ。人道的にやる」
「あなたの“人道的”は信用できません」
二人は屋根の上を移動する。
夜風が黒衣を揺らした。
やがて郊外の廃倉庫へ到着する。
一見すると放棄された建物。
だがレイの視界には、濃密な魔素の流れが見えていた。
「地下か」
「見張りは六人。地下に十五人以上いますね」
「さすがエミリー」
「索敵は得意ですから」
エミリーは胸を張る。
なお小さい。
「その慎ましやかな胸のように優秀だ」
「褒めてませんよね?」
「褒めてる褒めてる」
「後で殴ります」
そんな軽口を叩きながら、レイは壁へ手を当てた。
指先に魔素を流し込む。
浮かび上がる古代魔語。
『開錠』
次の瞬間。
ガコン、と重い音を立てて地下扉が開いた。
エミリーが呆れた顔になる。
「だからそれ、反則なんですよ」
「便利だぞ、日本語」
「古代魔語です」
地下へ降りる。
すると、酒臭い声が聞こえてきた。
「ぎゃはは! 次の出荷は三日後だ!」
「ガキども逃がすなよ!」
薄暗い空間。
粗暴な男たち。
檻の中には、痩せ細った子供たちがいた。
レイの目から、ふっと笑みが消える。
「……エミリー」
「はい」
「子供たち頼む」
「了解です」
瞬間。
エミリーが消えた。
「なっ――」
盗賊が反応するより先に。
バゴッ!!
回し蹴りが顔面へ炸裂する。
一人、二人、三人。
エミリーは流れるような動きで盗賊たちを沈めていく。
「ば、化け物!?」
「失礼ですね」
細腕から繰り出されるとは思えない威力だった。
一方。
レイはゆっくり前へ出る。
「てめぇ、誰だ!」
「通りすがりの錬金術師」
「ふざけ――」
盗賊が剣を振り上げた瞬間。
レイは床へ魔法陣を描いた。
『粘着拘束』
古代魔語が発動する。
ベチャァ!!
床が一瞬で粘性を持ち、盗賊たちの足を絡め取った。
「な、なんだこれ!?」
「動けねぇ!?」
「接着剤魔法」
「聞いたことねぇぞ!?」
「今作った」
レイは淡々と言う。
現代魔術師たちが魔法陣を何十工程も必要とする術式を、彼は数文字で構築する。
それが古代魔語。
失われた文明の力。
「ひ、ひぃっ!」
最後の一人が逃げ出そうとした瞬間。
レイは小さく指を鳴らした。
『睡眠』
盗賊が崩れ落ちる。
静寂。
数十秒後。
「制圧完了です」
エミリーが戻ってきた。
「子供たちは?」
「保護しました。怪我人はいますが生存してます」
「よし」
レイは檻を見渡す。
怯えた目。
だが、その奥に小さな希望が灯っていた。
「お兄ちゃんたち……誰?」
幼い少女が尋ねる。
レイは少し考えてから答えた。
「正義の味方」
すると。
エミリーが横で吹き出した。
「ぶふっ」
「なんだよ」
「いえ、年甲斐もなく何言ってるのかなと」
「男はいくつになっても言いたい時があるんだ」
「そうですか」
エミリーは笑う。
その笑顔を見て、子供たちも少し安心したようだった。
レイは肩をすくめる。
「さて、と」
「どうします?」
「悪党は衛兵へ匿名通報。子供たちは孤児院へ」
「また寄付金出します?」
「出す」
「ですよね」
エミリーは困ったように微笑した。
この人は本当に甘い。
誰より強く、誰より危険で、誰より優しい。
だからみんな、このぐうたら貴族が好きなのだ。
もっとも本人だけは。
いまだに正体が完璧に隠せていると思い込んでいるのだが。




