ぐうたら三男と専属メイド
設定をこまかく設定して書き始めてみました。なんとなく書き始めたのでなんとなく更新していきます。いちお設定はノートに書きだしたので忘れることはないと思います。たぶん。
アルデバラン王国北東部――ゴールド地方。
豊かな鉱山資源とダンジョン群を抱えるこの土地は、国内でも有数の繁栄を誇っていた。
もっとも、その中心にあるゴールド領主館の一室では。
「……だるい」
ソファに寝転がった青年が、非常に締まらない声を上げていた。
レイ・ゴールド。
十八歳。
ゴールド地方領主の三男坊。
はたから見れば、遊んで食って寝ているだけの放蕩貴族である。
「レイ様。せめて座ってください」
呆れた声を上げたのは、銀髪の少女だった。
細身ながら整った容姿を持つ美少女――エミリー・パターソン。
レイの幼馴染にして専属メイドである。
現在は書類の束を抱えながら、半目で主人を見下ろしていた。
「今日は貴族会議の書類確認があると言いましたよね?」
「俺は三男だぞ? そんな大事な仕事、兄上たちがやればいい」
「そうやって全部押し付けるから、“ゴールド家の穀潰し”なんて言われるんですよ」
「実際穀潰しだから問題ない」
「開き直らないでください」
エミリーは深々とため息をついた。
だが、慣れている。
何せ十年以上の付き合いだ。
レイは昔からこうだった。
人前ではやる気がなく、怠惰で、適当。
だがその裏で、とんでもないことを平然とやってのける。
「それで、今日は何を作ってるんです?」
「んー?」
レイは机の上へ視線を向けた。
そこには銀色の板状魔道具が置かれている。
細かい魔方陣が幾重にも刻まれていた。
「冷却保存庫」
「またですか」
「またとは失礼な」
「先月も似たような物を作ってませんでした?」
「あれは氷室の代用品。これは鮮度維持特化版」
レイは起き上がると、魔道具へ指を向けた。
刻まれているのは古代魔語。
この世界の誰にも解読困難な失われた言語。
だが、それはレイが転生する前に日常的に使っていた言語。
レイはいわゆる異世界転生者。もとは地球の日本出身。
――つまり日本語だ。
『対象温度を一定維持。腐敗進行を低下』
そんな文章が、複雑な魔法陣の中心へ組み込まれている。
現代魔術では到底不可能な超高効率術式。
「これを使えば食材輸送が楽になる。遠方交易でも鮮度が保てるからな」
「……またとんでもない物を」
「これくらい普通だろ」
「普通じゃありません」
エミリーは即答した。
なにせ、レイが作る魔道具は国家級の価値を持つ。
現在、王都の貴族たちの間で爆発的に流行している“自動加熱浴槽”も。
遠距離会話を可能にした“伝話結晶”も。
すべてレイの作品だ。
もっとも、世間では。
“天才錬金術師ドルーゴ・イレ”
の発明ということになっているが。
「そういえばミリーエ宛てにギルドから手紙が来てましたよ」
ミリーエはエミリーがドルーゴの秘書として使っている偽名だ。
「あー……また値上がりした?」
「王都貴族同士で取り合いだそうです。冷却庫、五台で金貨八百枚」
「たっか」
「あなたのせいです」
金貨八百枚。
平民なら一生遊んで暮らせる額である。
だがレイにとっては、もはや感覚が麻痺していた。
なにせ裏資産は既に国家予算級。
本人ですら正確な総額を把握していない。
「働かなくても一生暮らせるなぁ……」
「だから駄目人間になるんです」
「違う。俺は省エネで生きてるだけ」
「怠惰とも言います」
そんなやり取りをしながら、エミリーは机の上を片付け始める。
すると、一枚の紙が目に入った。
「……またダンジョン行くんですか?」
「ん? ああ」
レイは軽い調子で答えた。
「第四層で変異種が出たらしい。素材が欲しい」
「危険ですよ?」
「平気平気」
「前回もそう言って、災害級魔物を倒して帰ってきましたよね?」
「あれは偶然」
「街では“黒衣の英雄ドルーゴ”って噂になってますけど」
「風評被害だな」
「みんな気づいてますよ?」
「そんなわけないだろ?オレの変装は完璧さ」
レイは信じている。
エミリーはじっと見つめる。
「ギルド長も、商会長も、孤児院の子供たちも、たぶん気づいてます」
「まさかまさかw」
「気づいた上で黙ってるんです」
「そんなわけないだろw」
「あなた、スラム街消しましたから」
「まぁ、それに言い方」
事実だった。
レイは高性能農業魔道具と浄水設備を大量配布し、貧民街へ仕事を生み出した。
結果、治安が劇的改善。
犯罪率も激減。
気づけばスラムそのものが縮小していた。
「あと孤児院建てました」
「趣味だ」
「無料診療所も」
「趣味」
「防壁魔道具も」
「趣味だって」
エミリーは微笑する。
「みんな知ってるんですよ」
「そんなまさかw」
「ぐうたらしてるフリして、本当は優しい人だって」
レイは少しだけ視線を逸らした。
気づかれてないはずだが、もしそう思われてるなら、なんだかむず痒い。
「……エミリー」
「はい?」
「胸、小さいな」
「殺しますよ?」
直後。
バチィン!! と魔導書が顔面に叩きつけられた。
ゴールド領の日常は、今日も平和だった。
およそ一日一話ずつまったり書いていけたらいいなと思います。休日はストックを消化していきます。ストック用に気が向いたときに裏で書き足します。たぶん。




