第二十四話 ぐうたら三男、王都での拠点を得る
「気に入ったぞ、レイ・ゴールド」
「嫌な予感しかしない」
謁見終了後。
レイは死んだ目で廊下を歩いていた。
「疲れた……」
「お疲れ様です」
エミリーが苦笑する。
「レイ様、途中から完全に素でしたね」
「取り繕う余裕なかった」
王との謁見。
普通の貴族なら名誉だ。
だがレイからすれば巨大な精神攻撃である。
「胃が痛い」
「繊細ですね」
「意外そうな顔やめろ」
セシリア・レインが肩を竦めた。
「ですが陛下はかなり好意的でしたよ」
「それが怖い」
レイは本気だった。
権力者に気に入られる。
つまり仕事が増える。
「絶対あとで何か押し付けられる……」
「鋭いですね」
「やっぱあるの!?」
セシリアが視線を逸らした。
嫌な予感しかしない。
その時。
「おお、いたいた」
前方から豪快な声が響く。
近づいてきたのは大柄な壮年男性だった。
赤茶色の髪。
筋骨隆々。
いかにも武人。
「宰相閣下」
セシリアが一礼する。
「うげっ」
レイは露骨に嫌そうな顔をした。
「なんで嫌そうなんだ坊主」
「宰相って絶対仕事持ってくる人じゃん」
「察しが良いな!」
「帰りたい」
男――王国宰相バルド・グランディアは豪快に笑った。
「お前さん面白いなぁ!」
「最近そればっか言われる」
バルドはレイの肩をばんばん叩く。
痛い。
「陛下からの命だ。お前さんの王都滞在先を用意した」
「宿あるからいらなくない?」
「国家案件協力者だぞ?」
「その肩書き重い」
「あと護衛も兼ねてる」
レイの顔が少し変わる。
「……危険度高い?」
バルドも少し真面目になる。
「中央研究院絡みで何人か消えてる」
「やっぱりか」
「だから半端な場所には置けん」
つまり。
王都側も既にかなり警戒している。
「というわけでここだ」
案内された先。
レイは建物を見上げた。
「……でか」
王都貴族区。
一等地。
三階建ての豪華屋敷。
「なんで?」
「王家管理の客員邸宅だ」
「広すぎない?」
「以前、他国の王族も泊まった」
「余計落ち着かない」
レイは真顔だった。
エミリーは少し感動している。
「すごいですね……」
「いや落ち着かないだろこれ」
「レイ様は庶民感覚強すぎます」
セシリアが説明を続ける。
「結界完備。警備常駐。転移妨害術式あり」
「要塞じゃん」
「それだけ今回の件は危険視されています」
レイは少しだけ真面目な顔になる。
アストラ遺跡。
黒幕。
変異事件。
そして中央研究院。
王都側も、かなり深刻に見ていた。
「……はぁ」
レイは屋敷へ入る。
内装も豪華だった。
広い。
高い。
落ち着かない。
「なんか逆に疲れる」
「慣れてください」
「無理」
その時。
レイの視線が棚へ向いた。
そこにあったのは。
「……魔導冷蔵庫?」
「はい?」
レイは近づく。
術式構成を見る。
「……あっ」
「どうしました?」
「これ俺の初期型だ」
エミリーが吹き出した。
「流れてましたか」
「しかも改良されてる」
「王都職人は優秀ですね」
「なんか感動した」
レイは少し嬉しそうだった。
自分が作った技術。
それが他人に改良され、広まっている。
それは技術者として素直に嬉しい。
「……やっぱ王都面白いな」
「でも?」
「貴族関係は嫌」
「知ってます」
その時。
コンコン、と扉が叩かれた。
使用人が入ってくる。
「レイ・ゴールド様」
「ん?」
「中央研究院より招待状が届いております」
空気が変わる。
差し出された封筒。
中央研究院紋章入り。
そして差出人。
『アルベルト・クロイツ』
「……早くない?」
レイが嫌そうな顔になる。
エミリーが苦笑した。
「完全に目を付けられてますね」
「帰りたい」
だが。
もう逃げられないところまで来ていた。




