第二十三話 ぐうたら三男、国王に目を付けられる
「……帰りたい」
王城大広間前。
レイは本日何度目かわからない台詞を吐いていた。
「まだ始まってませんよ」
エミリーが呆れたように言う。
「もう疲れた」
「主に精神的なやつですね」
「貴族社会こわい」
先ほどから周囲の視線が痛い。
封鎖遺跡アストラ。
変異事件。
古代魔語。
地方貴族三男。
噂だけが一人歩きしている。
「なんで俺こんな有名なんだ……」
「レイ様、自覚ないですよね」
「ない」
「でしょうね」
セシリア・レインが小さく咳払いした。
「そろそろ入場です。最低限だけは礼儀を守ってください」
「最低限とは」
「陛下へ向かって“働きたくない”と言わない」
「難易度高いな?」
「言わないでください」
その時。
重厚な扉がゆっくり開いた。
ギィィ――。
「レイ・ゴールド卿、入場」
衛兵の声が響く。
レイは露骨に嫌そうな顔をした。
「うわぁ……」
「行きますよ」
エミリーに背を押される。
そして。
王国中枢――謁見の間へ足を踏み入れた。
◇
「……広」
第一声がそれだった。
高い天井。
赤い絨毯。
巨大な柱。
左右へ並ぶ貴族たち。
まさに王道ファンタジー空間。
「完全にイベント会場だこれ」
「レイ様、声」
「あっ」
周囲の視線が刺さる。
セシリアが頭痛を堪える顔になっていた。
そして。
玉座。
そこに座る男を見て、レイは少しだけ目を細めた。
アルデバラン国王。
グランツ・アルデバラン。
五十代半ばほど。
鋭い眼光。
だが同時に、どこか豪胆な雰囲気もある。
(……あ、この人強い)
レイは直感した。
ただの王ではない。
実戦経験がある。
魔力もかなり高い。
「面を上げよ、レイ・ゴールド」
低く響く声。
レイは顔を上げる。
「はっ」
一応ちゃんと返事した。
エミリーが少し安心した顔になる。
「アストラ遺跡の件、報告は受けている」
「盛られてません?」
レイは反射で言った。
場が静まり返る。
エミリーが顔を覆った。
セシリアが遠い目をする。
「……お主」
国王が呆れた顔になる。
「謁見で第一声がそれか」
「いやなんか毎回話が大きくなるので……」
すると。
国王は突然、豪快に笑った。
「はっはっは!!」
大広間へ笑い声が響く。
周囲の貴族たちがざわついた。
「面白い小僧だ」
「褒められてる?」
「半分くらいは」
セシリアが小声で言う。
国王は肘をつきながらレイを見る。
「セシリアから聞いていた通りだな」
「何をです?」
「面倒臭がり」
「事実ですね」
セシリアが頷いた。
「味方いないな?」
だが国王の目は鋭かった。
「しかし、その実力は本物だ」
空気が少し変わる。
「古代魔語を扱い、変異種を討伐し、封鎖遺跡を踏破した」
「偶然です」
「偶然で済むか」
即座に否定された。
国王は少し真面目な顔になる。
「王都でも変異事件が起きている」
「聞いてます」
「中央研究院も絡んでおる」
レイの目が細くなる。
やはりそこか。
「お主には、その調査へ協力してもらう」
「嫌です」
即答だった。
大広間が静まる。
エミリーが頭を抱えた。
セシリアは「やっぱり」と言いたげである。
だが国王はむしろ楽しそうだった。
「理由を聞こう」
「面倒だから」
「正直だな!?」
「あと働きたくない」
「お主、本当に貴族か?」
「自分でも時々思います」
国王は再び笑った。
豪胆な笑い。
だが次の瞬間。
その目が鋭くなる。
「だが放置すれば国が荒れる」
空気が変わった。
「既に研究員の失踪、魔物化事件、違法研究の痕跡が出ている」
レイも真面目になる。
「……黒幕はまだ王都にいる可能性高いですね」
「余もそう見ておる」
国王は静かに言った。
「だからこそ、お主の力が必要だ」
レイはしばらく黙り込んだ。
本当に面倒だ。
だが。
放置できる状況でもない。
「……はぁ」
深いため息。
「協力はします」
「うむ」
「でも働きすぎません」
「そこは譲らんのだな」
「大事なんで」
国王は愉快そうに笑った。
「気に入ったぞ、レイ・ゴールド」
「嫌な予感しかしない」
その予感は。
たぶん正しかった。




