第十六話 ぐうたら三男、王都へ連行される
ゴゴゴゴゴゴ――ッ!!
旧アストラ研究遺跡が崩壊していく。
天井が砕け。
壁面が裂け。
白銀の通路が次々と崩落していく。
「急げ急げ急げ!」
「レイ様もっと荷物減らしてください!」
「資料は命より大事!」
「そこまでですか!?」
二人は全力で通路を駆け抜けていた。
レイの腕には大量の資料束。
古代魔語で書かれた研究記録。
術式図面。
解析データ。
危険極まりない代物ばかりである。
だが放置も危険だった。
「これ外に流れたら絶対面倒!」
「既に十分面倒です!」
その時。
背後で大爆発。
ドガァァァァン!!
衝撃波が吹き抜ける。
「うおっ!?」
レイは咄嗟にエミリーを抱き寄せ、防壁を展開した。
瓦礫が弾け飛ぶ。
「大丈夫か?」
「……はい」
エミリーが少しだけ赤くなる。
だがレイは気づいていない。
いつものことである。
「よし走るぞ!」
「もう少し雰囲気を……!」
「死ぬぞ?」
「現実的!」
そして。
二人が外へ飛び出した直後。
山全体が揺れた。
ゴォォォォォォン……!!
巨大な轟音。
地面が沈み込み、封鎖遺跡アストラは完全崩壊した。
砂煙が舞い上がる。
周囲で待機していた探索者や兵士たちが騒然となった。
「崩れたぞ!?」
「レイ様たちは!?」
「いた!!」
ガレスが駆け寄ってくる。
「坊ちゃん無事か!?」
「ギリギリ」
「ギリギリで済む規模じゃねぇだろ!!」
レイは地面へ座り込んだ。
「疲れた……」
「その割に資料抱えてますね」
エミリーが呆れる。
「貴重品だから」
ガレスは真顔になった。
「で、中はどうだった」
レイも少し表情を引き締める。
「黒幕は逃げた」
「……そうか」
「ただし変異事件の原因は確定」
レイは持ち帰った資料を軽く叩く。
「全部、人体実験と魔物実験」
周囲の空気が重くなる。
「やっぱり誰かがやってやがったか……」
「しかも古代遺跡利用型」
レイは続ける。
「目的は不明。所属も不明。ただ、かなり大規模」
王国内だけでは済まない。
そんな予感があった。
「厄介ですね」
セシリアが静かに呟く。
いつの間にか彼女も到着していた。
「見てたのか?」
「崩壊寸前から」
「助けろよ」
「レイ様なら生き残ると思いまして」
「信頼が重い」
セシリアは小さく笑う。
だがすぐ真面目な顔になった。
「……ですが、これで確定ですね」
「何が?」
「国家案件です」
レイの顔が死んだ。
「あー……」
「しかも最上級」
「帰りたい」
「もう遅いです」
セシリアはさらりと言った。
「既に国王陛下への報告が上がっています」
「は?」
「レイ・ゴールド様。王都へ召喚です」
沈黙。
数秒後。
「嫌だ」
即答だった。
ガレスが苦笑する。
「まあそう言うと思った」
「絶対面倒じゃん……」
「間違いなく面倒ですね」
セシリアが頷く。
「今回の件、古代遺跡、違法研究、変異事件、古代魔語。全部絡んでますから」
「俺関係なくない?」
「関係者筆頭です」
「なんでぇ……」
レイは本気で項垂れた。
エミリーが優しく肩を叩く。
「諦めましょう」
「嫌だぁ……」
「レイ様」
セシリアがにこやかに微笑む。
「逃亡した場合」
「うん」
「宮廷魔術師団が総出で捕獲します」
「権力の暴力!」
「ちなみに私は転移魔法使えます」
「今すぐ帰りたい!」
ガレスたちは笑いを堪えていた。
ラグナベルクの英雄。
規格外の古代魔語使い。
だが中身は、ぐうたらしたいだけの青年である。
「……はぁ」
レイは空を見上げた。
崩壊したアストラ遺跡から、まだ煙が上がっている。
黒幕は逃げた。
所属不明。
目的も不明。
だが確実に、この世界の裏で動いている。
しかも。
自分と同じ“読める者”。
「ほんと面倒なのに目ぇ付けられたなぁ……」
「レイ様」
「ん?」
「王都でも頑張ってください」
「行きたくない」
「知ってます」
エミリーがくすりと笑った。
こうして。
ゴールド領のぐうたら三男坊レイ・ゴールドは。
望まぬまま。
王国の中心――王都へ向かうことになる。
平穏で怠惰な生活は、今日もまた遠ざかっていくのだった。
これでいったん一章くらいの完結かなぁといった感じです。
ここから何パターンか書いていますが分岐に悩み中です




