第十五話 ぐうたら三男、全力疾走する
停止した零式を後にし、レイたちは遺跡最奥へ進んでいた。
通路はさらに異様さを増している。
白銀の壁面。
青白く脈動する導力線。
どこからともなく響く低い駆動音。
「……ほんと何なんだここ」
レイがぼやく。
「古代文明の研究施設、ですかね」
「だろうな」
だが、それだけではない。
レイにはわかっていた。
ここには“新しい痕跡”がある。
つまり。
最近まで誰かが使っていた。
◇
やがて二人は巨大な円形扉へ辿り着く。
中央には古代魔語。
『中央制御棟』
「いかにも最終区画」
「嫌な予感しかしません」
レイが扉へ触れる。
すると。
ピコン。
『照合開始』
「うわまた喋った」
『……暫定権限確認』
「ん?」
レイが眉をひそめる。
そして。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大扉がゆっくり開いた。
◇
中央制御棟。
そこは巨大な円形空間だった。
中央には青白い巨大結晶柱。
天井まで届くほどのサイズ。
内部を膨大な魔素が循環している。
「……デカ」
レイが素直に呟く。
国家級。
いや、それ以上。
この結晶だけで都市ひとつ動かせそうな出力だった。
だが。
「誰もいませんね」
エミリーが周囲を見回す。
人の気配はない。
静寂だけが広がっていた。
「……いや」
レイは床を見た。
靴跡。
しかも新しい。
「つい最近までいたな」
さらに周囲には大量の資料。
分解された古代装置。
現代式の魔術器具。
持ち込まれた寝具。
食料跡。
完全に研究拠点だった。
「古代設備と現代設備が混ざってます」
「研究してたんだろうな」
レイは机上の紙束を手に取る。
そこには日本語。
そして現代文字。
両方が混在していた。
「……やっぱ“読める奴”がいる」
「転生者ですか?」
「たぶんな」
レイは資料を流し読みする。
『魔素定着率』
『適合実験』
『対魔術防壁改修』
途中から文字が荒れていた。
焦り。
執着。
狂気。
そんなものが滲んでいる。
「うわぁ……」
レイが露骨に嫌そうな顔をした。
「研究者タイプの暴走だこれ」
「何かわかったんです?」
「かなり危ない思想してる」
文明発展。
魔素進化。
人類強化。
そんな言葉が並んでいた。
そして。
その中に。
『読解成功者の増産』
という文字を見つけた瞬間。
レイの顔から笑みが消える。
「……最悪」
「レイ様?」
「こいつ、自分以外にも“読める者”を作ろうとしてる」
エミリーの表情が険しくなる。
「そんなこと可能なんですか?」
「普通は無理」
だが。
人体実験レベルなら話は別だ。
実際、変異種事件も起きている。
「……ろくでもねぇ」
レイは深くため息を吐いた。
その時。
奥の装置が微かに明滅する。
ピッ……。
レイが近づく。
古代文字。
『転送ゲート起動準備』
「……逃げた後か」
「転送?」
「たぶん長距離移動装置」
つまり黒幕は。
レイたちが零式と戦っている間に撤退した。
「追います?」
「無理」
レイは首を振る。
「座標情報消されてる」
完全に逃げ切る前提で動いていた。
「……用意周到ですね」
「頭いいタイプの敵は面倒なんだよなぁ」
レイは本気で嫌そうだった。
脳筋魔物の方がよほど楽である。
エミリーは少し周囲を見回す。
「でも収穫はありましたね」
「まあな」
資料。
術式。
古代文明情報。
そして黒幕の目的。
かなり重要な情報が手に入った。
その時だった。
ゴゴゴゴゴ……。
遺跡全体が揺れる。
「……ん?」
レイの顔が引きつる。
直後。
『中央制御権限喪失』
『防衛機構停止』
『施設崩壊シークエンス開始』
「うわぁ」
「レイ様?」
「帰るぞ」
「はい?」
「ここ崩れる」
「はい!?」
天井から瓦礫が落ち始める。
警報音。
赤い警告灯。
完全に脱出イベントだった。
「なんで毎回こうなるんですか!?」
「知らん!」
レイは資料を抱えながら走り出した。
エミリーも続く。
背後で巨大結晶柱が不安定に明滅する。
ゴォォォォン!!
「急げ急げ!」
「レイ様、荷物多いです!」
「貴重資料だから置いてけない!」
「その根性は尊敬します!」
二人は崩れゆく古代遺跡を全力疾走した。
そしてレイは思っていた。
(帰ったら絶対寝る)
と。




