第十三話 ぐうたら三男のロマンは止められない
ゴォォォォン……。
重低音が通路を震わせる。
現れたのは巨大な金属人形だった。
全高およそ四メートル。
黒銀色の装甲。
複数の赤い複眼。
そして胸部中央に刻まれた古代魔語。
『対魔導戦闘兵器・零式』
エミリーが顔を引きつらせる。
「どう見ても危険物なんですが」
「ロボだなぁ……」
一方レイは少し感動していた。
男の子だから仕方ない。
「レイ様?」
「いやテンション上がる」
「なんでですか」
「ロマン」
「理解したくありません」
対魔導戦闘兵器はゆっくりこちらへ視線を向けた。
ギギギ、と金属音が鳴る。
直後。
『侵入者確認』
『高位術式反応確認』
『殲滅対象認定』
「やっぱそうなるよな」
レイはため息を吐いた。
すると。
兵器の胸部が展開する。
内部から青白い光。
魔素収束。
「レイ様!」
「うおっ」
次の瞬間。
ドガァァァァンッ!!
極太の光線が通路を貫いた。
爆風。
衝撃。
遺跡そのものが揺れる。
エミリーが息を呑む。
「威力おかしくないです!?」
「古代文明怖っ!」
レイは瓦礫を払いながら叫ぶ。
今の一撃、下手な上級魔法より強い。
しかも無詠唱連射型。
「これ量産されてたら国滅ぶぞ」
「笑い事じゃありません!」
兵器が再び駆動する。
『第二射準備』
「速っ」
レイは右手を掲げた。
『偏向』
光線が逸れる。
轟音と共に天井が吹き飛んだ。
大量の瓦礫が降り注ぐ。
エミリーが回避しながら叫ぶ。
「レイ様! 楽しんでません!?」
「ちょっと!」
「ちょっとなんですね!?」
レイは兵器を観察する。
魔素炉心。
制御術式。
装甲構造。
解析。
そして。
「……なるほど」
「何かわかったんですか?」
「これ、完全自律型じゃない」
「え?」
「誰かが遠隔操作してる」
エミリーの目が細くなる。
「つまり“読める者”」
「だろうな」
レイは舌打ちした。
しかもかなり技術理解度が高い。
単に日本語が読めるだけではない。
この遺跡システムそのものを利用している。
「ほんと厄介だな……」
その時だった。
通路全体へ男の声が響く。
『驚いたぞ』
低い声。
どこか愉快そうな響き。
『まさか零式を正面から捌くとは』
レイの表情が変わる。
「……お前か」
『ああ。“読める者”同士、仲良くしようじゃないか』
「断る」
『即答だな』
「面倒そうだから」
エミリーが呆れる。
だが男は楽しそうに笑った。
『なるほど。確かに君らしい』
「会ったことあったか?」
『ないさ』
声が少し低くなる。
『だが理解できる。“こちら側”だからな』
レイは無言だった。
こちら側。
つまり。
転生者。
あるいは日本知識保持者。
『この世界は遅れている』
男が語り始める。
『非効率で、非合理で、無駄が多い』
「……」
『ならば導くべきだろう?』
その声には確信があった。
『知識ある者が上に立ち、文明を進める』
レイは静かに答える。
「その結果が人体実験か?」
沈黙。
そして。
『必要な犠牲だ』
空気が冷えた。
エミリーが殺気を感じて身構える。
だが。
一番変わったのはレイだった。
いつもの気怠げな空気が消えている。
「……あー」
レイは頭を掻いた。
「やっぱお前無理」
『何?』
「思想がブラック企業社長すぎる」
「ぶふっ」
エミリーが吹き出した。
男が黙る。
「効率効率言う奴に限って他人酷使するんだよ」
『……』
「あと人体実験は論外」
レイは真顔だった。
「快適生活の敵」
「基準そこなんですね」
「大事だろ」
対魔導兵器が再び構える。
重い駆動音。
『残念だ』
男の声が冷たくなる。
『ならば力尽くで従ってもらう』
「うわ面倒」
レイは肩を回した。
そして。
少しだけ笑う。
「でもまあ」
青白い魔法陣が展開される。
「ロボ戦は嫌いじゃない」
対魔導戦闘兵器・零式が咆哮するように駆動音を響かせた。




