第十二話 ぐうたら三男、現実逃避する
ビィィィィン!!
赤い閃光が通路を走った。
エミリーが壁際へ飛び、レイは片手で光線を弾く。
直後。
背後の壁が音もなく溶け落ちた。
「威力高っ」
「軽く言ってる場合ですか!?」
エミリーが叫ぶ。
浮遊球体――古代防衛機構は、複数の赤い単眼を点滅させながら通路を旋回していた。
『侵入者排除ヲ継続』
『高位危険対象確認』
『対魔術戦闘モード維持』
「完全に敵認定されてるなぁ」
レイは頭を掻く。
しかも厄介なことに。
こいつらは古代魔語に対する防壁を展開している。
つまり通常の魔法では突破しづらい。
「レイ様、どうします?」
「うーん……」
レイは球体の動きを観察する。
魔素循環。
術式構造。
制御中枢。
数秒で解析完了。
「なるほど」
「わかったんです?」
「これ魔法じゃなくて半分機械だ」
「きかい?」
「あー……魔道具の超すごい版」
「雑ですね」
「便利だからヨシ」
その瞬間。
球体が一斉に発光した。
『殲滅処理開始』
「おっと」
無数の光線が放たれる。
通路が爆ぜた。
普通の探索者なら即死である。
だが。
『反射』
レイの古代魔語が発動する。
直後。
光線が跳ね返った。
ビガガガガッ!!
防衛球体へ直撃。
『損傷確認』
『再演算開始』
「うわ、学習した」
レイが嫌そうな顔をする。
今の一撃で対処法を変更してきた。
完全に自律思考型。
「古代文明怖っ」
「レイ様が言うと説得力ありますね……」
球体が高速移動を始める。
さっきより明らかに速い。
「最適化してるなこれ」
「つまり?」
「戦うほど強くなる」
「最悪では?」
「最悪だな」
レイはため息を吐いた。
本当に帰りたい。
しかし。
放置すると絶対に危険。
しかも、この遺跡には“読める者”がいる。
つまり日本語知識持ち。
そんな存在がこの施設を使えば、何が起きるかわからない。
「……仕方ない」
レイは右手を前へ出す。
普段とは違う。
少しだけ真面目な顔。
「エミリー」
「はい」
「ちょっと派手にやる」
「いつも派手では?」
「今日はもっと」
エミリーが察した顔になる。
「あー……」
次の瞬間。
レイの周囲へ巨大な魔法陣が展開された。
青白い光。
幾何学模様。
そして中央に刻まれる古代魔語。
防衛球体が警告音を鳴らす。
『高危険術式反応』
『緊急防衛――』
「遅い」
レイが呟いた。
『分解』
瞬間。
空間が震えた。
バキンッ!!
浮遊球体が一斉に停止する。
そして。
さらさらと砂のように崩れ落ちた。
完全分解。
エミリーが遠い目になる。
「だから時々レイ様の魔法怖いんですよ……」
「効率重視しただけ」
「存在そのもの分解してましたよね?」
「うん」
「うん、じゃないんです」
レイは床へ散らばった残骸を拾い上げる。
「……やっぱ知らない技術多いな」
構造そのものが特殊だった。
魔法と機械の中間。
現代文明では再現不可能。
「これ作った古代文明、相当ヤバいぞ」
「今さら感ありますけど」
「まあな」
その時。
奥の通路から風が吹いた。
同時に。
低い駆動音が響く。
ゴォォォン……。
「……まだいるな」
レイが目を細める。
エミリーも警戒を強めた。
「さっきより大きいです」
「たぶん本命」
通路奥。
暗闇の向こう。
巨大な影がゆっくり動いた。
赤い光が灯る。
複眼。
金属巨躯。
そして胸部には巨大な古代魔語。
『対魔導戦闘兵器』
レイは数秒沈黙し。
「……ロボじゃん」
「ろぼ?」
「男のロマン」
「現実逃避やめてください」
だが。
レイの目は少しだけ輝いていた。
危険なはずなのに。
妙に楽しそうだった。




