第十一話 ぐうたら三男、封鎖遺跡アストラに入る
旧アストラ研究遺跡。
それはゴールド領北部、山岳地帯の地下深くに存在する古代遺跡だった。
現在は王国指定危険区域。
数十年前、調査隊が壊滅して以降、完全封鎖されている。
……はずだった。
「開いてるなぁ……」
レイは巨大な地下門を見上げながら呟いた。
黒い金属で構成された門。
表面には複雑な古代魔語。
だが。
「これ完全に自動ドアじゃん」
「じどうどあ?」
エミリーが首を傾げる。
「あー……古代文明の扉」
「妙に納得できました」
周囲には探索者ギルド員や兵士たちが集まっていた。
だが誰も近づこうとしない。
門から漏れ出す魔素が異常なのだ。
「レイ坊ちゃん、面倒ごとを押し付けてすまねぇ」
ギルド長ガレスが申し訳なさそうな顔でつぶやく。
「危険極まりないだろうが…」
「まあ危険だろうな」
「本当にすまない…」
レイは既に門を観察していた。
古代魔語。
いや、日本語。
『第七研究区画・中央制御棟』
そう書かれている。
完全に研究施設だった。
(嫌な予感しかしねぇ……)
しかも。
文字が新しい。
最近誰かが起動した痕跡がある。
「レイ様」
エミリーが小声で聞く。
「どうします?」
「入る」
「ですよね」
「ただし」
レイは真顔になる。
「今回は本気で危険かもしれん」
いつもの軽い空気がない。
エミリーも察した。
レイがここまで警戒するのは珍しい。
「ガレス」
「ああ?」
「探索者と兵士はここで待機」
「お前らだけで行く気か!?」
「下手に人数増やす方が危ない」
レイは門へ触れる。
そして眉をひそめた。
「内部、防衛術式まだ生きてる」
「なんだそりゃ……」
「たぶん古代文明のセキュリティ」
ガレスには意味がわからなかった。
だがレイだけは理解している。
これ。
ほぼ研究所だ。
しかも現代技術ではなく、魔術文明版。
「……これ、誰が日本語を持ち込んだ?」
「ニホン?」
「あ、いや古代魔語」
危ない危ない。
エミリーはもう流すことにした。
◇
門が開く。
ゴゴゴゴ……と重い音が響いた。
内部は暗い。
だが壁面に埋め込まれた結晶が自動的に発光する。
パァッ――。
「うわ」
エミリーが目を見開いた。
通路が白い。
石造りではない。
滑らかな金属質の壁。
天井には光源。
床には意味不明な線。
「なんですかここ……」
「研究施設っぽい」
「っぽいで済ませていいんですか?」
「ダメかも」
レイは壁へ刻まれた文字を読む。
『魔素循環実験区画』
『適合率測定室』
『第三区画閉鎖中』
完全にアウトだった。
「古代文明、絶対ロクでもない研究してる」
「今さらです?」
「確かに」
その時。
ピコン。
突然、天井が光った。
『侵入者ヲ確認』
「うわ」
『識別開始』
エミリーが武器を抜く。
「レイ様!」
「待て」
レイは前へ出た。
機械音声。
日本語。
つまり通じる。
「レイ・ゴールド。敵対意思なし」
一瞬、沈黙。
次の瞬間。
『認証エラー』
「だよなぁ」
『警戒対象認定』
直後。
壁面が開いた。
中から浮遊する球体が現れる。
赤い光。
明らかに攻撃態勢。
「……レイ様」
「わかってる」
レイはため息を吐いた。
「やっぱこうなるか」
球体が一斉に光る。
『排除開始』
ビィィィン!!
赤い光線が放たれた。
エミリーが回避する。
「なんですかこれ!?」
「古代兵器!」
「楽しそうに言わないでください!」
レイは光線を避けながら指を鳴らす。
『停止』
ドンッ!!
浮遊球体が空中で静止した。
だが。
次の瞬間。
バチバチバチッ!!
術式が弾かれる。
「……は?」
レイが固まる。
「無効化された?」
初めてだった。
古代魔語を抵抗されたのは。
球体が再び動き出す。
『高位権限干渉確認』
『危険対象更新』
『対魔法戦闘モード移行』
「うわぁ」
レイが本気で嫌そうな顔をした。
「めちゃくちゃ面倒なやつだこれ」
そして。
遺跡最奥。
どこかで誰かが笑っていた。
「――やっと来たか」
低い男の声。
「待っていたぞ、“読める者”よ」




