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ぐうたら三男は古代魔語で悠々自適生活を目指す  作者: シロネル
5章

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第百十六話 ぐうたら三男、秘密に出会う

 地面が割れる。


 轟音。


 崩落。


 侵食結晶が周囲へ飛び散り、黒い靄が渦を巻く。


 その中心。


 地下深部から、“それ”は姿を現した。


「……でか」


 レイが呆然と呟く。


 巨大だった。


 人型に近い。


 だが全高は軽く二十メートルを超えている。


 黒金属装甲。


 侵食結晶が融合した外殻。


 各部に刻まれた古代文字。


 そして胸部中央には、赤黒く脈動する巨大核。


 まるで地下都市そのものが歩き出したような存在感だった。


 教授が顔を青くする。


「本当にいたのか……」


「知ってる系?」


 レイが嫌そうに聞く。


「古代防衛管理兵器」


「都市級施設最終防衛存在」


「文献上だけの存在だったはずなんだが……!」


「現実になってほしくなかったなぁ!」


 巨兵がゆっくり頭部を持ち上げる。


 赤い光眼が点灯。


 周囲を走査する。


 そして。


 機械音声のようなものが響いた。


『――侵入者確認』


『防衛機構再起動』


『領域浄化開始』


「浄化って絶対物理だろ!」


 次の瞬間。


 巨兵周囲へ無数の魔法陣が展開した。


 空気が震える。


 侵食粒子が巻き上がる。


「来る!」


 エミリーの声。


 直後。


 赤黒い光束が広範囲へ放たれた。


 地面が消し飛ぶ。


 岩盤が蒸発する。


 旧街道跡が一瞬でクレーター化した。


 レイ達は即座に回避。


 衝撃波だけで周囲の侵食樹木が粉砕される。


「火力おかしくない!?」


「都市防衛用だからね!」


 教授が叫ぶ。


「嬉しそうに言うな!」


 巨兵はさらに腕部を展開する。


 内部構造が変形。


 次の砲撃準備に入っていた。


 しかも。


 周囲の小型兵器群まで同時展開を始める。


 完全な戦争状態だった。


「……ほんと面倒」


 レイは深くため息を吐いた。


 だが。


 目だけは静かに細まる。


 周囲状況を高速で観察していた。


 地下施設。


 兵器群。


 侵食流動。


 核位置。


 連動構造。


 そして。


 巨兵胸部の異常魔力偏流。


「教授」


「なんだい!?」


「核、暴走しかけてる」


 教授の顔色が変わる。


「……まずいな」


「破壊されたら?」


「周辺侵食流が一気に噴き出す可能性がある」


「つまり?」


「この辺全部吹き飛ぶ」


「最悪!」


 セシリアが叫ぶ。


「じゃあどうするんですか!?」


 レイは巨兵を見る。


 面倒そうに。


 本当に嫌そうに。


 だが。


 静かに答えた。


「止めるしかない」


 その瞬間。


 巨兵が再び砲撃姿勢へ入る。


 レイは前へ出た。


 侵食風が黒髪を揺らす。


 巨大な敵。


 崩壊寸前の古代施設。


 普通なら絶望的状況。


 だが。


 レイの顔に焦りは薄かった。


 ただ面倒そうだった。


「……あーもう」


 片手を上げる。


 古代魔力が空間を軋ませる。


 そして。


『閉鎖』


 古代魔語が響いた瞬間。


 世界が止まった。


 巨兵周囲へ巨大魔法陣が展開する。


 空間固定。


 魔力循環遮断。


 地下施設全体へ封鎖術式が走る。


 巨兵が初めて反応を乱した。


『――異常』


『制御権限干渉確認』


『上位権限照合――』


 レイは静かに目を細める。


「うるさい」


『停止』


 瞬間。


 巨兵全身が強制停止した。


 砲撃魔法陣が霧散する。


 関節駆動が凍る。


 周囲兵器群まで連鎖停止。


 暗黒地域全体が静まり返った。


 黒装備集団が呆然とそれを見ている。


「なんだ……あれ……」


「古代制御術……?」


 教授すら若干引いていた。


「毎回思うけど、本当に規格外だね君」


「俺もそう思う」


 本音だった。


 レイ自身、自分の古代魔導適性が時々怖い。


 白銀都市でもそうだった。


 古代施設側が“認識”してしまう。


 まるで管理者権限でも持っているかのように。


 だが。


 安心したのも束の間だった。


 停止した巨兵胸部核が、不規則に脈動する。


 赤黒い光が増大。


 教授の顔色が変わる。


「まずい!」


「まだ何かあるの!?」


「強制停止で逆に核暴走しかけてる!」


「ほんと面倒だなこれ!?」


 空気が震える。


 地下施設全域へ警報音のようなものが響いた。


『――非常停止異常』


『侵食炉心不安定化』


『崩壊まで残時間――』


 レイは無言になった。


 嫌な予感しかしない。


 そして。


 機械音声は、静かに告げた。


『残時間、三百秒』


 五分だった。


 レイは空を仰ぐ。


「……帰って寝たい」


 本気の声だった。


 地下施設全域へ警報音が鳴り響く。


 赤黒い光。


 振動。


 侵食粒子暴走。


 停止したはずの巨兵胸部核が、不規則に脈動を続けていた。


『残時間、二百九十秒』


「減ってる減ってる!」


 セシリアが叫ぶ。


 教授は既に施設構造を必死に観察していた。


「侵食炉心が暴走状態へ移行している!」


「停止制御だけでは駄目だ!」


「じゃあどうする!」


「正常終了手順が必要!」


「そんなの分かるの!?」


「分からない!」


「役に立たねぇ!」


 教授は少し傷付いた顔をした。


 だが事実だった。


 古代都市級施設など、現代人類に解析できる存在ではない。


 白銀都市の件が異常だったのだ。


 レイは舌打ちする。


 周囲では黒装備集団が完全に混乱していた。


「撤退しろ!」


「間に合わない!」


「転移具は!?」


「侵食干渉で起動不能!」


 阿鼻叫喚だった。


 自業自得とはいえ、かなり悲惨である。


 だが。


 今はそれどころではない。


 地下施設ごと暴走すれば、この一帯が吹き飛ぶ。


 避難区への影響すらあり得た。


「……あーもう」


 レイは頭を掻きながら巨兵を見上げる。


 核。


 制御流。


 古代魔力循環。


 侵食反応。


 目に見えるように分かった。


 普通なら理解不能な古代術式構造が、何故か読めてしまう。


 それがレイ自身、一番気味が悪い部分だった。


「レイ様?」


 エミリーが不安そうに見る。


 レイは数秒黙る。


 そして。


「多分いける」


「本当ですか!?」


「でも失敗したら爆発」


「安心できる要素がない!」


 セシリアが叫ぶ。


 レイもそう思う。


 だが。


 他に方法がなかった。


 教授が真顔になる。


「何をするつもりだい?」


「炉心制御権限の上書き」


 教授が絶句した。


「そんなこと可能なのか!?」


「分かんない」


「分かんないでやるの!?」


「いつものことだろ」


 それはそうだった。


 白銀都市でも似たようなことをしている。


 理屈より先に、何故か出来てしまうのだ。


 レイはゆっくり巨兵へ近付く。


 侵食風が吹き荒れる。


 警報音が響く。


『残時間、二百四十秒』


「急いでください!」


「急いでる」


 レイは巨兵胸部前まで到達する。


 巨大核が脈動していた。


 近くで見ると異様だった。


 赤黒い光の中に、侵食粒子が渦を巻いている。


 まるで暴走する心臓だ。


 レイは静かに片手を伸ばした。


 触れた瞬間。


 大量の情報が脳へ流れ込む。


 古代言語。


 管理権限。


 都市制御。


 防衛機構。


 侵食封印。


 膨大な情報量に、頭痛が走る。


「っ……!」


 視界が揺れる。


 エミリーが思わず前へ出る。


「レイ様!」


「大丈夫……」


 全然大丈夫ではなかった。


 だが。


 ここで止まるわけにはいかない。


 レイは歯を食いしばる。


 頭の奥で、古代術式が勝手に組み上がっていく。


 そして。


 自然に言葉が出た。


『管理権限接続』


 空気が変わる。


 巨兵全体へ青白い光が走った。


 警報音が乱れる。


『――未知権限確認』


『照合中』


『上位命令系統――』


 レイはさらに続ける。


『侵食炉心停止』


『防衛機構閉鎖』


『全系統凍結』


 古代魔語が重なった瞬間。


 世界が震えた。


 轟音。


 暴風。


 地下施設全域へ青白い光が広がる。


 赤黒かった侵食流が、一気に押さえ込まれていく。


 そして。


 巨兵胸部核の脈動が、徐々に静まった。


『……承認』


『管理権限一時移譲』


『全機構停止開始』


 次の瞬間。


 地下施設全体の光が落ちた。


 兵器群停止。


 警報停止。


 侵食流停止。


 暗黒地域へ、静寂が戻る。


「…………」


 誰も喋れなかった。


 レイだけが、その場でふらつく。


「レイ様!」


 エミリーが即座に支える。


「だいじょぶ……」


「顔色が全然大丈夫じゃありません!」


 本当に悪かった。


 頭痛が酷い。


 視界も少し揺れる。


 無理矢理古代施設へ干渉した反動だろう。


 教授は呆然と地下施設を見ていた。


「止めた……」


「本当に止めた……」


「なんなの君……」


 レイは疲れ切った顔で答える。


「俺も知りたい……」


 本音だった。


 その時。


 停止した地下施設中央部から、小さな光が浮かび上がる。


 青白い球体。


 まるで意思を持つように、ゆっくりレイの前へ漂ってきた。


 全員が警戒する。


 だが。


 光球は敵意を見せなかった。


 そして。


 静かな機械音声が響く。


『――管理者認証完了』


『旧ゴールド地下都市管理補助機構、起動』


 レイの顔が死んだ。


「……増えた」


 問題が。


 また増えた。


 青白い光球が、ふわふわと宙へ浮かんでいた。


 静かだった。


 先ほどまでの大混乱が嘘みたいに。


 停止した巨兵。


 沈黙した地下施設。


 崩壊した旧街道。


 侵食の黒靄だけが、ゆっくり風に流れている。


 その中心で。


 レイは死んだ目をしていた。


「……帰りたい」


「今来たばかりです」


 セシリアが即座に返す。


 だが彼女も若干疲れた顔だった。


 情報量が多い。


 地下都市。


 古代防衛兵器。


 侵食炉心。


 そして今度は管理補助機構である。


 休ませる気がない。


 光球は静かにレイの周囲を一周した。


『認証対象確認』


『管理者権限保有個体』


『旧ゴールド地下都市管理補佐を開始します』


「いらない」


 レイは即答した。


 食い気味だった。


 光球は少し沈黙する。


『……命令を再確認します』


「いらない」


『拒否を確認』


『拒否権は存在しません』


「なんでだよ!」


 レイが叫ぶ。


 教授は横で大変興味深そうだった。


「ほう……」


「教授楽しそうだなぁ」


「当然だろう」


 当然らしい。


 研究者はこれだから困る。


 光球はさらに続ける。


『地下都市管理権限は現在、対象個体へ一時移譲済み』


『放棄には正式手続きが必要です』


「その正式手続き教えて」


『旧中央管理区画到達後、権限返還申請を行ってください』


 レイは数秒黙った。


 嫌な予感しかしない。


「……ちなみにその中央管理区画って?」


『地下都市最深部です』


「帰る」


「まだ何も終わってません」


 セシリアが即座に止めた。


 レイは本気で帰りたそうだった。


 だが。


 教授が冷静な顔で口を開く。


「いや、これは重要だ」


「嫌な予感しかしない」


「旧ゴールド地方地下に都市級古代施設が存在していた」


「しかも管理機構がまだ生きている」


「つまり今後の復興へ大きく関わる可能性がある」


 レイは顔をしかめる。


 分かっていた。


 分かっているから嫌なのだ。


 問題が増える。


 責任が増える。


 休みが減る。


「……なんで俺の故郷だけこんな厄ネタ多いんだ」


『回答不能』


 光球が律儀に返した。


 セシリアが小さくため息を吐く。


「とにかく、今は現状確認が先です」


「地下施設完全停止確認」


「侵食反応観測」


「侵入者確保」


 そこで全員の視線が黒装備集団側へ向いた。


 連中は完全に固まっていた。


 先ほどまで敵対というより、呆然としている。


 当然だろう。


 古代都市暴走。


 巨大兵器。


 そしてレイの古代魔導。


 情報量が限界突破している。


 集団リーダーらしき男が、慎重に口を開いた。


「……お前、何者だ」


 レイは少し考える。


 面倒だった。


 本当に。


 だから適当に答える。


「領主」


「絶対それだけじゃないだろ!?」


「俺もそう思う」


 本音だった。


 教授が横で笑いを堪えている。


 セシリアは頭を抱えていた。


 エミリーだけが苦笑している。


 その時。


 光球が再び音声を発した。


『警告』


『地下都市外縁部に未確認侵入反応複数』


 空気が変わる。


 レイの顔が引きつる。


「まだ増えるの?」


『肯定』


「帰りたい」


『現在、地下都市各区画は半覚醒状態です』


『未認証侵入者増加時、再防衛機構起動の可能性があります』


 教授の顔が真顔になった。


「……つまり」


「今後この地下都市を巡って、色んな連中が集まってくる可能性が高いね」


 レイは静かに天を仰ぐ。


 侵食根幹は止まった。


 世界崩壊は避けられた。


 だが。


 残された古代施設。


 侵食残滓。


 危険地帯。


 それらを狙う人間達。


 問題は終わっていない。


 むしろ。


 新しい時代の面倒事が始まっていた。


「……ほんと休めねぇ」


 レイは深くため息を吐いた。


 その時だった。


 遠く。


 暗黒地域のさらに奥。


 黒い空の向こうで、何か巨大な光が一瞬だけ瞬いた。


 全員がそちらを見る。


 光球が静かに告げた。


『地下都市第二層反応確認』


『封鎖区画、部分起動』


 レイは無言になった。


 数秒後。


「……帰っていい?」


「駄目です」


 セシリアの即答が響いた。


 暗黒地域の風が吹く。


 黒い靄が流れる。


 その奥で。


 旧ゴールド地方に眠っていた秘密が、静かに目を覚まし始めていた。


 結局。


 その日は地下都市周辺の簡易封鎖だけで終わった。


 いや、“終わらせた”と言った方が正しい。


 これ以上進むには情報が足りない。


 準備も足りない。


 全員疲弊している。


 特にレイが酷かった。


 古代施設への強制干渉。


 都市級管理権限接続。


 普通なら死んでいてもおかしくない負荷だったらしい。


 教授が珍しく真面目な顔で言ったほどだ。


「今日は絶対休め」


「嫌だ」


「何故?」


「寝たら起きた時また仕事増えてそう」


「あり得るのが困るね」


 本当に困る。


 現在、一行は地下都市外縁部に簡易拠点を作っていた。


 崩壊した監視塔跡地。


 比較的侵食濃度が安定している場所だ。


 騎士団側とも連絡を取り、周辺警戒だけ増やしている。


 大規模部隊投入はまだ無理。


 地下都市が何なのか、誰も理解できていないからだ。


 夕暮れ。


 暗黒地域の空は赤黒い。


 普通の夕焼けとは違う。


 侵食粒子が光を歪めているせいだ。


 焚き火の火が小さく揺れていた。


 レイはその前でぼんやり座っている。


 疲れていた。


 身体より頭が。


 情報が多すぎる。


 故郷崩壊。


 領地問題。


 地下都市。


 古代管理権限。


 もうぐうたら生活は完全に遠い。


「飲みます?」


 エミリーが温かいスープを差し出す。


 レイは受け取った。


「ありがと」


 湯気が立つ。


 簡素な野菜スープだ。


 だが妙に落ち着く味だった。


 一口飲む。


 少しだけ身体の力が抜けた。


「美味い」


「避難区の炊き出し班から分けてもらいました」


「やっぱ飯って大事だなぁ……」


 本気の声だった。


 疲れている時ほど沁みる。


 エミリーは隣へ座った。


 少し静かな時間が流れる。


 遠くではセシリアが騎士団と打ち合わせをしていた。


 教授は光球と会話している。


 アリアは周辺警戒。


 皆動いている。


 レイだけ少し休憩だった。


 だが。


 休んでいても、視線は自然と遠くへ向いてしまう。


 暗黒地域の奥。


 故郷方向。


「……屋敷、残ってるかな」


 ぽつりと漏れる。


 エミリーは少し考えた。


「分かりません」


「でも」


「きっと残っています」


 根拠はない。


 それでも。


 優しい言い方だった。


 レイは小さく笑う。


「希望的観測」


「大事ですよ」


「まぁな」


 実際、大事だった。


 今の暗黒地域には希望が少ない。


 だからこそ必要になる。


 帰る場所を取り戻せるという希望が。


 その時。


 後方から足音が近付いてきた。


 セシリアだった。


 書類束を抱えている。


 嫌な予感しかしない。


「レイさん」


「聞きたくない」


「聞いてください」


 即否定された。


 セシリアは疲れた顔で資料を差し出す。


「地下都市周辺で未確認探索者集団の目撃情報増加」


「早いなぁ……」


「噂が広がっています」


 当然だった。


 あれだけの大規模現象だ。


 隠せるわけがない。


 地下から巨大施設が出現した。


 古代遺物の可能性。


 危険地帯。


 探索者達が放っておくはずがない。


「加えて」


 セシリアはさらに続ける。


「王都側の貴族達も動き始めています」


「うわ」


 レイの顔が露骨に嫌そうになる。


「面倒」


「非常に」


「地下都市調査権利」


「遺物利権」


「復興事業介入」


「色々始まっています」


 レイは焚き火へ視線を落とした。


 炎が揺れる。


 嫌な現実だった。


 故郷が壊れた。


 その傷跡へ、今度は人が群がり始める。


 もちろん全員が悪人ではない。


 復興支援を考える者もいるだろう。


 だが。


 利権狙いも絶対いる。


「……面倒だなぁ」


 二回目だった。


 本当に心底そう思っている声。


 だが。


 セシリアは静かに言う。


「だからこそ、レイさんが必要なんです」


「俺?」


「地下都市管理権限を持っているのは現状レイさんだけです」


「つまり?」


「放置するともっと大変になります」


「最悪じゃん」


 セシリアは否定しなかった。


 レイは天を仰ぐ。


 星が見えない。


 侵食粒子で空が濁っている。


 故郷の夜空は、もっと綺麗だった。


 静かで。


 のんびりしていて。


 何も考えず昼寝できる場所だった。


 それを思い出すと。


 少しだけ胸が痛んだ。


「……取り戻さないとな」


 小さな声だった。


 だが。


 確かな本音だった。


 エミリーとセシリアは静かに頷く。


 焚き火が揺れる。


 暗黒地域の夜は静かだった。


 そしてその闇の奥では、まだ誰も知らない古代の秘密が、ゆっくりと動き始めていた。

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