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ぐうたら三男は古代魔語で悠々自適生活を目指す  作者: シロネル
5章

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第百十二話 ぐうたら三男、故郷がなくなる

 王城謁見室は静かだった。


 高い天井。


 巨大柱。


 赤絨毯。


 磨き上げられた白石床。


 王都中枢に相応しい威厳ある空間だ。


 だが今日は妙に空気が重い。


 いつもなら控えている文官や騎士の数も少なかった。


 必要最低限。


 その異様な静けさに、レイは少しだけ違和感を覚える。


 玉座にはアルデバラン国王が座っていた。


 壮年の王。


 鋭い眼光。


 重厚な威圧感。


 だが今日は、その表情に僅かな疲労が滲んでいる。


 レイは適当に頭を下げた。


「どうも」


「軽いな」


「形式苦手なんで」


「知っている」


 国王は呆れたように息を吐いた。


 だが怒っている様子はない。


 むしろ疲れている。


 レイはその空気に少しだけ眉をひそめた。


 エミリーは後方で静かに控えている。


 セシリアも同席していたが、妙に口数が少ない。


 何かがおかしい。


 だが。


 レイはまだ深く考えない。


 面倒だからだ。


「で?」


 レイはそのまま聞く。


「呼び出し理由は?」


「招集命令十四通無視した男の態度ではないな」


「忙しかった」


「昼寝していただけだろう」


「……なんで知ってるんだ」


「報告が来ている」


 怖かった。


 王城情報網が怖い。


 国王は小さく苦笑する。


「まぁよい。今回の未到達地帯遠征、よくやった」


「どうも」


「お前たちが持ち帰った情報は、世界そのものを変える可能性がある」


 玉座の間へ静かな声が響く。


 管理機構。


 白銀都市。


 侵食濃度変化。


 古代施設再起動。


 どれも国家規模を超えた問題だ。


 王国も現在、対応へ追われているらしい。


 レイはそれを聞きながら、ぼんやり思う。


 ――やっぱ逃げて正解だったな。


 絶対面倒だった。


 国王はそんなレイを見て、半ば諦めたように続けた。


「褒賞についても準備している」


「お」


 そこだけ反応した。


 国王が少し笑う。


「現金だと使わんだろう」


「飯代くらいにはなる」


「お前の場合、研究素材へ消える未来しか見えん」


「否定できない」


 最近は白銀都市関連で妙な部品を拾ってきている。


 地味に危険だった。


 国王は少しだけ空気を和らげるように話を続けた。


「ゴールド地方はどうだ?」


 その名前を聞いた瞬間。


 レイの表情が少し柔らかくなった。


「平和だと思う」


「思う?」


「帰ってないし」


「お前な……」


 国王は呆れた。


 だがレイにとってゴールド地方は、そういう場所だった。


 放っておいても大丈夫。


 田舎。


 辺境。


 面倒事はある。


 だが王都ほど騒がしくない。


 気を張らなくていい。


 帰れば飯がある。


 寝られる。


 家族もいる。


 安心できる場所。


 だからこそ。


 レイは帰りたかった。


「そろそろ帰ろうと思ってたんだけどな」


 ぽつりと漏らす。


「実家の飯食いたいし」


 その言葉に。


 国王の表情が変わった。


 ほんの僅か。


 だが確かに。


 空気が沈む。


 レイはそこで初めて違和感を覚えた。


 静かすぎる。


 誰も喋らない。


 セシリアが視線を伏せている。


 エミリーも微かに表情を硬くしていた。


 玉座の間へ重苦しい沈黙が落ちる。


 国王はゆっくり口を開いた。


「……レイ」


「ん?」


「まず落ち着いて聞け」


 妙な前置きだった。


 レイは少し眉をひそめる。


 嫌な予感がした。


 だが。


 まだ現実感はない。


 国王は静かな声で続ける。


「ゴールド地方だが」


 その瞬間。


 何故か胸がざわついた。


「現在、居住不能区域に指定されている」


 レイの思考が止まる。


 言葉の意味が、一瞬理解できなかった。


「……は?」


 静かな声だった。


 国王は視線を逸らさない。


「未到達地帯変動の影響で侵食濃度が異常上昇した」


 淡々と告げられる。


「同時にダンジョン多発化が発生」


「魔物暴走」


「領域崩壊」


「現在、旧ゴールド地方一帯は」


 そこで国王は一度言葉を切った。


 重い沈黙。


 そして。


「“暗黒地域”と呼称されている」


 レイは何も言えなかった。


 意味が分からない。


 理解が追いつかない。


 ゴールド地方。


 実家。


 田舎。


 帰る場所。


 昼寝できる場所。


 飯が美味い場所。


 それが。


 暗黒地域?


 頭の中で言葉が繋がらない。


「……え?」


 ようやく出た声は、それだけだった。


 国王は静かに続ける。


「侵食濃度上昇速度が異常だった」


「王国騎士団も撤退を余儀なくされた」


「現在は高危険区域指定」


「一般人侵入は禁止されている」


 レイは黙ったままだった。


 理解できない。


 いや。


 理解したくない。


 ゴールド地方が壊滅?


 あの田舎が?


 実感がなかった。


 レイの中で、故郷はずっと変わらない場所だった。


 帰ればそこにあるもの。


 何も変わらないもの。


 だから。


 今聞いている言葉が現実として入ってこない。


「……冗談?」


 ぽつりと漏れる。


 だが。


 誰も笑わない。


 セシリアが痛ましそうに視線を伏せていた。


 その瞬間。


 ようやく。


 少しずつ。


 現実感が滲み始める。


 レイの中で。


 何かが静かに軋み始めていた。


 王城謁見室の空気は重かった。


 誰も軽口を叩かない。


 衛兵も。


 文官も。


 エミリーも。


 セシリアも。



 静かだった。


 その静けさが逆に現実味を帯びさせる。


 冗談ではないのだと。


 本当に起きたことなのだと。


 レイは玉座の前で立ったまま、しばらく動かなかった。


 頭の中が妙に白い。


 思考がうまくまとまらない。


 暗黒地域。


 居住不能区域。


 侵食濃度異常上昇。


 そんな単語ばかりが頭の中を漂う。


 だが、どうしても結び付かない。


 ゴールド地方と。


 あの田舎と。


 自分の実家と。


 脳が現実を拒否しているようだった。


「……なんで」


 ぽつりと漏れる。


「原因は現在も調査中だ」


 国王が静かに答える。


「だが未到達地帯全域で変動が発生している以上、関連性は高い」


「いや、そうじゃなくて」


 レイは小さく首を振った。


「なんで……あそこなんだよ」


 王都でもない。


 中央でもない。


 軍事拠点でもない。


 よりにもよって。


 なんであの辺境なのか。


 国王は答えない。


 答えられないのだろう。


 理由など誰にも分からない。


 侵食災害は昔から理不尽だ。


 だからこそ恐れられている。


 だが。


 レイの中ではどうしても納得できなかった。


 ゴールド地方は、平和だった。


 もちろん魔物は出る。


 辺境だから危険もある。


 だが、それでも。


 あそこには生活があった。


 畑があった。


 飯屋があった。


 昼下がりに昼寝できる静けさがあった。


 季節ごとの匂いがあった。


 夕方になれば家々から飯の匂いが流れていた。


 くだらない噂話をする領民がいて。


 無駄に世話焼きな使用人がいて。


 面倒臭いほど元気な家族がいた。


 それが。




 消えた?


 レイは視線を落とす。


 赤絨毯が見えた。


 やけに赤かった。


「……実感ねぇな」


 小さく呟く。


「すまんな」


 国王の声は低かった。


 謝罪ではない。


 だが、その一言には重さがあった。


 レイは返事をしない。


 頭の奥が鈍く痛む。


 思い出が勝手に浮かんでくる。


 夏の暑さ。


 庭先で寝転がった昼寝。


 厨房から漂う焼きたてパンの匂い。


 母親に無理矢理起こされた朝。


 鬱陶しいほど絡んでくる兄弟。


 田舎道。


 木漏れ日。


 何もない景色。


 退屈で。


 平和で。


 だからこそ。


 帰る場所だった。


 冒険から戻ればそこがある。


 疲れたら帰ればいい。


 面倒事から逃げたくなったら戻ればいい。


 そういう場所だった。


 レイはずっと。


 無意識に。


 それが永遠に続くと思っていた。


「……レイ様」


 後方からエミリーが静かに呼ぶ。


 だがレイは振り返らなかった。


 今、誰かの顔を見ると。


 妙に現実味が増しそうだった。


 だから見たくなかった。


「現在も調査隊は周辺観測を続けている」


 国王が続ける。


「侵食濃度はなお増加傾向」


「ダンジョン発生数も異常値だ」


「旧街道は大半が消滅」


「地形変動まで起きている」


 レイはぼんやり聞いていた。


 聞いているのに。


 内容が頭に入らない。


 故郷が壊れた。


 その事実だけが、ゆっくり胸の奥へ沈んでいく。


「……家は」


 気付けば口に出ていた。


「ゴールド家はどうなった」


 国王は一瞬だけ間を置く。


 その僅かな沈黙が怖かった。


 レイは無意識に拳を握る。


 自覚がないほど強く。


 爪が掌へ食い込んでいた。


「避難は完了している」


 その瞬間。


 レイの呼吸が止まりかけた。


「家族」


「無事だ」


「領民も、使用人も、可能な限り避難済みだ」


 レイは動かなかった。


 だが。


 その肩から、ゆっくり力が抜けていく。


「……そうか」


 掠れた声だった。


 ようやく。


 本当にようやく。


 レイは息を吐いた。


 深く。


 長く。


 知らないうちに止めていたらしい。


 胸の奥に張り付いていた重石が、少しだけ軽くなる。


 生きている。


 家族が。


 領民が。


 使用人達が。


 避難できた。


 それだけで。


 本当にそれだけで。


 レイは心底安堵していた。


「現在は王都周辺、および西部避難区へ分散保護している」


 国王の説明が続く。


「混乱はあったが、大規模被害は避けられた」


「……そっか」


 レイは小さく頷いた。


 それ以上の言葉が出なかった。


 もし。


 もしここで。


 全滅したと言われていたら。


 自分がどうなっていたのか。


 想像したくなかった。


 静かな沈黙が落ちる。


 先ほどまでとは違う沈黙だった。


 重苦しさは残っている。


 だが。


 ほんの少しだけ空気が緩んでいた。


 エミリーも僅かに安堵したように目を細めている。


 セシリアも静かに息を吐いていた。


 国王はそんなレイを見つめながら、ゆっくり口を開く。


「……その上で」


 嫌な前置きだった。


 レイが顔を上げる。


 国王は真っ直ぐ告げた。


「褒賞を与える」


「いや今それどころじゃ」


「旧ゴールド地方全域を下賜する」


「…………は?」


 一瞬。


 本当に意味が分からなかった。


 さっきまで暗黒地域の話をしていたはずだ。


 なのに。


 今。


 何を言った。


「旧ゴールド地方一帯」


「現在の暗黒地域」


「発生ダンジョン群含む全領域管理権を、お前へ委譲する」


 レイは固まった。


 数秒。


 完全に停止する。


 その後。


「いやいやいやいや」


 珍しく即座に否定した。


「待て待て待て」


「なんで」


「お前の功績を考えれば妥当だ」


「妥当じゃない」


 レイは真顔だった。


「重い」


「受け取れ」


「嫌だ」


「受け取れ」


「なんでだよ」


 思わず素が出る。


「暗黒地域だぞ!?」


「そうだ」


「ダンジョン大量発生地帯だぞ!?」


「そうだ」


「侵食危険区域だぞ!?」


「知っている」


「いらない」


 即答だった。


 国王が少しだけ眉を押さえる。


 エミリーが小さく視線を逸らした。


 セシリアは半分諦めた顔をしている。


「普通そこは喜ぶ場面だ」


「喜べるか!」


 レイは本気だった。


「もっとこう……金とかあるだろ……」


「国家予算級被害だ」


「じゃあ尚更押し付けるなよ!」


 玉座の間に珍しくレイの声が響く。


 だが。


 誰も笑わない。


 笑える話ではないからだ。


 国王は静かに言う。


「現在、旧ゴールド地方へまともに近付ける者が少ない」


「だからって俺に投げるな」


「お前なら生存率が高い」


「嫌な評価されてるな……」


 レイは頭を抱えた。


 本気で帰りたかっただけなのだ。


 実家で寝たかった。


 美味い飯を食いたかった。


 少し休みたかった。


 それだけだった。


 なのに。


 気付けば故郷が暗黒地域になっていて。


 さらに。


 その管理まで押し付けられようとしている。


 意味が分からない。


「俺、休みたいんだけど」


「知っている」


「昼寝したい」


「知っている」


「面倒事嫌いなんだけど」


「それも知っている」


「じゃあなんで!?」


 国王は少し黙る。


 そして。


 静かな声で言った。


「……お前以外に、あそこを故郷と呼べる者がいないからだ」


 レイの言葉が止まった。


 王城が静まる。


 その一言だけが、やけに重く残った。


 故郷。


 その言葉が胸に刺さる。


 帰る場所。


 なくなった場所。


 それでも。


 自分の場所だった。


 レイはしばらく黙り込む。


 視線を落としたまま動かない。


 断れば楽だ。


 面倒事から逃げられる。


 今まで通り。


 適当に旅して。


 昼寝して。


 飯食って。


 そうやって生きることもできる。


 だが。


 脳裏に浮かぶ。


 荒れた故郷。


 侵食された土地。


 逃げ惑う領民。


 崩れた街道。


 帰れなくなった家。


 そして。


 もう存在しない“いつもの景色”。


 レイはゆっくり目を閉じた。


 長い沈黙。


 やがて。


 本当に嫌そうに。


 心底面倒そうに。


 それでも。


「……俺の故郷だしな」


 小さく呟いた。


 その瞬間。


 王城の空気が静かに変わった。


 誰もすぐには口を開かなかった。


 玉座の間に落ちた沈黙は、先ほどまでの重苦しいものとは少し違っていた。


 静かな覚悟。


 あるいは。


 諦め。


 そんな空気だった。


 レイ本人だけが、ひどく嫌そうな顔をしている。


「……帰って昼寝したかっただけなんだけどなぁ……」


 ぼそりと漏れる。


 本音だった。


 未到達地帯遠征を終えたばかりなのだ。


 本来なら数日は宿に籠もって寝ていたい。


 白銀都市で拾った部品を適当に眺めながら、エミリーに呆れられ、セシリアに説教され、適当な飯を食って過ごす予定だった。


 なのに。


 気付けば故郷が暗黒地域化している。


 さらに領地丸ごと押し付けられた。


 意味が分からない。


「休暇がどんどん遠ざかってる気がする……」


「気のせいではありません」


 後方からセシリアが即答した。


 真顔だった。


 レイは小さく呻く。


 エミリーはそんな彼を見ながら、ほんの少しだけ表情を和らげる。


 だが、その目には安堵もあった。


 レイが引き受けたからだ。


 きっと。


 彼女は断らないと思っていた。


 どれだけ面倒臭がっても。


 どれだけ嫌がっても。


 レイは“自分の場所”を見捨てられない。


 そういう人間だと知っている。


 国王はゆっくり頷いた。


「正式な領主任命書は後日発行する」


「いらない」


「必要だ」


「紙増える」


「仕事だ」


「嫌だ……」


 本気で嫌そうだった。


 国王が少しだけ苦笑する。


 だが、その表情もすぐに消える。


「現状、旧ゴールド地方は国家単位でも対応困難な危険区域だ」


 重い声だった。


「侵食速度が異常だ」


「通常の浄化結界では追いつかん」


「発生ダンジョン数も増加を続けている」


「魔物群の行動も変質している」


 レイは黙って聞いていた。


 現実感はまだ薄い。


 だが。


 少しずつ理解は進んでいる。


 自分の故郷は、本当に壊れたのだと。


「……被害範囲は?」


「旧ゴールド地方ほぼ全域」


 国王は淡々と答える。


「中心部ほど侵食濃度が高い」


「特に旧山岳地帯周辺は深刻だ」


 レイは眉をひそめた。


 山岳地帯。


 実家からも比較的近い。


 昔から妙な遺跡が点在していた場所だ。


 古い坑道跡も多い。


 ダンジョン化との相性は最悪だった。


「現在は周辺封鎖を進めているが、完全封鎖は不可能」


 国王は続ける。


「既に流出魔物被害も各地で発生している」


 国王はゆっくり立ち上がる。


 玉座の間へ重厚な衣擦れの音が響いた。


「レイ・ゴールド」


「ん」


「これは褒賞であると同時に、王国からの正式依頼でもある」


 王の声だった。


 静かで。


 重い。


「旧ゴールド地方奪還」


「侵食拡大阻止」


「避難民保護」


「ダンジョン災害対応」


「お前へ一任する」


「重い……」


 本日何度目か分からない呟きだった。


 だが今度は誰も否定しない。


 本当に重いからだ。


 国家規模案件だった。


 レイ一人に背負わせるには大きすぎる。


 それでも。


 王国側も他に動けない。


 未到達地帯全域が変動している以上、各地で異常事態が起きている。


 戦力が足りないのだ。


「支援は出す」


 国王が言う。


「だが十分とは言えん」


「だろうな」


「王都防衛も限界に近い」


「知ってる」


 レイは静かに頷く。


 白銀都市から持ち帰った情報は大きすぎた。


 世界全体が揺れ始めている。


 古代文明も解明され始めた。


 これまでの常識が崩れ始めていた。


 だから。


 誰かが動かなければならない。


 そして。


 その“誰か”になってしまった。


「現在、複数勢力が旧ゴールド地方への接触を試みている」


 国王が低く続ける。


「各国研究機関」


「無許可探索者」


「違法遺物収集組織」


「侵食地帯専門の武装集団まで入り込み始めている」


「……うわぁ」


 レイは本気で嫌そうな顔をした。


 予想はしていた。


 暗黒地域化した土地には危険と同時に“価値”が生まれる。


 古代遺物。


 未確認素材。


 変異魔物。


 異常ダンジョン。


 そういったものへ群がる連中は必ず現れる。


「特に最近確認されているのが、“黒杭の旅団”だ」


 国王の声が僅かに鋭くなる。


「侵食地帯専門の武装探索集団」


「各地で違法発掘や遺物強奪を繰り返している」


「既に数度、騎士団とも衝突した」


 セシリアの表情も険しくなる。


「……聞いたことがあります」


「侵食地帯へ平然と入り込む危険集団ですね」


「構成員練度も高いらしい」


 国王が頷く。


「旧ゴールド地方へも既に斥候が確認されている」


「最悪だなぁ……」


 レイは深くため息を吐いた。


 ただでさえ故郷が崩壊している。


 その上、胡散臭い連中まで入り込んでいる。


 休暇どころではなかった。


「つまり俺、故郷復興しながら侵食止めてダンジョン潰して変な連中追い出すの?」


「概ねそうなる」


「帰りたい……」


「ここ王城です」


 セシリアが即座に返した。


 レイは遠い目をする。


 帰る場所の話をしていたはずなのに、気付けば仕事が増え続けていた。


 意味が分からない。


 エミリーはそんなレイを見ながら、小さく息を吐く。


「ですが、放置すれば更に被害が広がります」


「分かってる」


「避難民支援も急務です」


「分かってるって……」


「旧領地調査も必要ですね」


「……分かってる」


 声に覇気がない。


 だが拒絶もしない。


 それがレイだった。


 本気で嫌がる。


 面倒臭がる。


 逃げたがる。


 だが。


 最後には見捨てない。


 国王は静かに告げる。


「王国としても可能な限り支援は行う」


「だが、現地指揮権はお前へ委ねる」


「責任重すぎるんだけど」


「元よりゴールド地方はお前の故郷だ」


 その言葉に。


 レイは少し黙り込む。


 故郷。


 その響きだけで胸の奥が鈍く痛んだ。


 帰ればそこにあると思っていた場所。


 何も変わらないと思っていた場所。


 もう。


 そのままでは存在しない。


 レイはゆっくり息を吐いた。


 頭の中に浮かぶ。


 昼下がりの庭。


 面倒臭そうに働く使用人。


 騒がしい食卓。


 田舎道。


 夕焼け。


 静かな夜。


 あの場所は。


 失くしたままで終わらせたくなかった。


「……とりあえず」


 レイはぼそりと言う。


「一回、現地見る」


 その声は静かだった。


 だが。


 確かな意志があった。


 エミリーが微かに目を細める。


 セシリアも小さく頷いた。


 教授なら恐らく大喜びで同行するだろう。


 アリアも当然のようについて来るはずだ。


 また始まる。


 面倒事が。


 危険が。


 非日常が。


 ぐうたら生活は、終わった。


 レイは心底嫌そうな顔のまま天井を見上げる。


「……マジで休み消えたなぁ」


 誰も否定しなかった。


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