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ぐうたら三男は古代魔語で悠々自適生活を目指す  作者: シロネル
4章

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第百五話 ぐうたら三男、最終決戦へおもむく

 黒い道は、空へ続いていた。


     ◇


 いや。


 空ではない。


     ◇


 空間そのものが捻じ曲がっている。


 白銀都市の上空へ開いた裂け目。


 黒い月の中心へ伸びる異形の通路。


     ◇


 見ているだけで頭が痛くなる景色だった。


 だが。


 レイは、それを見たあと。


 ふと後ろを振り返った。


     ◇


 エミリー。


 セシリア。


 教授。


 騎士たち。


 アリア。


     ◇


 皆、戦うつもりでいる。


     ◇


 その姿を見て。


 レイは小さく息を吐いた。


     ◇


「……なぁ」


     ◇


 全員がレイを見る。


     ◇


「ここから先、俺ひとりで行く」


     ◇


 一瞬。


 空気が止まった。


     ◇


「は?」


 セシリアが目を見開く。


     ◇


 エミリーもすぐに表情を強張らせた。


「レイ様、それは――」


     ◇


「無理だろ、これ」


 レイは黒い通路の奥を見る。


     ◇


 高次領域。


 侵食中枢本体。


 世界法則干渉領域。


     ◇


 普通の魔法使いでは耐えられない。


 管理権限適合者だから、辛うじて踏み込めている。


     ◇


「この先、多分もっとヤバい」


     ◇


 教授が静かに目を細めた。


「……戻れない可能性もある、か」


     ◇


 レイは答えない。


 だが。


 その沈黙だけで十分だった。


     ◇


 セシリアが強く言う。


「だからって一人で行かせるわけ――」


「セシリア」


     ◇


 レイは珍しく真面目な声だった。


     ◇


「これ以上巻き込みたくない」


     ◇


 静寂。


     ◇


 その声は、軽口ではなかった。


     ◇


 レイは面倒臭がりだ。


 ぐうたらだ。


 昼寝したいだの飯食いたいだの言う。


     ◇


 だが。


 自分のせいで誰かが危険に巻き込まれることは嫌う。


     ◇


 エミリーは小さく目を伏せた。


     ◇


「……帰ってきますか?」


     ◇


 レイは少し困ったように笑う。


     ◇


「帰りたいとは思ってる」


     ◇


 曖昧な返答。


 だが。


 それがレイらしかった。


     ◇


 エミリーは少しだけ震える息を吐き。


 そして、いつものように微笑んだ。


     ◇


「では、夕食を用意して待っています」


     ◇


 レイが少し笑う。


     ◇


「肉な」


「はい」


     ◇


 セシリアはまだ何か言いたそうだった。


 だが。


 教授が静かに肩へ手を置く。


     ◇


「止めても行くよ、彼は」


     ◇


 セシリアは悔しそうに唇を噛み。


 そして。


 小さく頷いた。


     ◇


 アリアだけが静かにレイを見ていた。


     ◇


「レイ」


「ん?」


     ◇


「……帰還推奨」


     ◇


 珍しく曖昧な言葉だった。


     ◇


 レイは苦笑する。


     ◇


「努力はする」 教授も黒い通路を見上げながら眉を寄せていた。


「高次領域への強制接続通路か……」


     ◇


 セシリアが顔をしかめる。


「入って大丈夫なんですか、これ」


     ◇


 アリアが淡々と答えた。


「大丈夫ではない」


     ◇


 全員が黙った。


     ◇


「正直でよろしい」


 レイは遠い目をした。


     ◇


 だが。


 行かなければ終わらない。


     ◇


 侵食中枢を止めなければ、未到達地帯だけでは済まない。


 いずれ世界そのものへ侵食が広がる。


     ◇


 白銀都市が今なお持ち堪えているのは、管理権限で強引に押さえ込んでいるからだ。


 永続的には保てない。


     ◇


「……まぁやるか」


 レイは諦めたように呟いた。


     ◇


     ◇


 そして。


 ひとり、黒い通路の奥へ歩き出した。


     ◇


     ◇


     ◇


 高次領域内部は、静かだった。


     ◇


 あまりにも静かだった。


     ◇


 侵食中枢。


 世界を滅ぼしかけている存在。


 その本体へ向かう道。


     ◇


 もっと大量の侵食個体がいると思っていた。


 終わりのない戦闘があると思っていた。


     ◇


 だが。


 何もいない。


     ◇


 ただ。


 黒い空間が続いている。


     ◇


 音もない。


 風もない。


 重力感覚すら曖昧。


     ◇


「……逆に怖いんだけど」


 レイは本音を漏らした。


     ◇


 やがて。


 通路の先に、人影が見えた。


     ◇


 黒衣。


 仮面。


     ◇


 仮面の男。


     ◇


 男は静かにそこへ立っていた。


     ◇


「待っていたよ、継承者」


     ◇


 その声だけは、妙に穏やかだった。


     ◇


 レイはゆっくり近づく。


     ◇


「……お前か」


     ◇


 仮面の男は小さく笑った。


     ◇


「君ならここへ来ると思っていた」


     ◇


 静かな空間。


 ふたりだけ。


     ◇


 やがて。


 仮面の男が自ら仮面へ手をかける。


     ◇


 ゆっくり。


 外した。


     ◇


 その下にあった顔を見て。


 レイは僅かに目を細めた。


     ◇


 侵食されていた。


     ◇


 顔半分が黒く崩れている。


 皮膚ではない。


 虚無。


 空洞。


     ◇


 人間の顔なのに、人間ではない。


     ◇


 それでも。


 男の目だけは、不思議なほど穏やかだった。


     ◇


「……もう長くないな」


 レイが言う。


     ◇


 男は笑う。


     ◇


「ああ」


     ◇


「だからこそ、終わらせなければならない」


     ◇


 空間が軋む。


     ◇


 侵食が広がる。


 黒い霧が世界を覆う。


     ◇


「継承者」


 男は静かに告げた。


     ◇


「君は、世界を維持するか」


     ◇


「……」


     ◇


「あるいは、新たな世界を作るか」


     ◇


 レイは深くため息を吐いた。


     ◇


「どっちも面倒臭い」


     ◇


 一瞬。


 仮面の男が吹き出した。


     ◇


 本当に、少しだけ。


 人間らしく笑った。


     ◇


 そして。


 次の瞬間。


 黒い侵食が爆発した。


     ◇


 最終決戦が始まる。

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