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ぐうたら三男は古代魔語で悠々自適生活を目指す  作者: シロネル
4章

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102/112

第百一話 ぐうたら三男、古代文明都市へ足を踏み入れる

 門の先に広がっていたのは――都市だった。


     ◇


 古代文明都市。


 千七百年以上前に滅びたはずの超高度文明。


 その中枢。


 未到達地帯中央管理領域。


     ◇


 誰も言葉を発せなかった。


 ただ圧倒されていた。


     ◇


 空がある。


 だが自然の空ではない。


 半透明の光膜が都市全体を覆っている。


 淡い白光が空間を照らし、昼とも夜ともつかない静かな明るさを維持していた。


     ◇


 都市そのものも異質だった。


 建物は白銀色。


 塔。


 回廊。


 空中へ浮かぶ立体構造。


 現代建築とは根本から思想が違う。


     ◇


 しかも。


 壊れていない。


     ◇


「……残ってる」


 教授が呆然と呟いた。


「これほど完全な古代文明遺構が……」


     ◇


 研究者としての興奮は確かにある。


 だが、それ以上に。


 目の前の光景は現実感が薄かった。


     ◇


 滅んだ文明。


 失われたはずの世界。


 それが、今も稼働している。


     ◇


 レイは都市を見上げながら眉をひそめた。


「……なんか思ったより綺麗だな」


「レイ様、第一声がそれなんですか」


 セシリアが呆れる。


     ◇


「いや、もっとこう……滅びた感じ想像してた」


「まあ分からなくはないですが……」


     ◇


 だが確かに、不気味だった。


 静かすぎる。


 風もない。


 生活音もない。


 なのに都市機能だけが動いている。


     ◇


 その異様な静寂の中で。


 空に浮かぶ“黒い月”だけが圧倒的存在感を放っていた。


     ◇


 巨大。


 黒色。


 空間へ染み出すような侵食魔素。


 見ているだけで頭痛がする。


     ◇


 アリアが静かに呟く。


「侵食核」


     ◇


 空気が変わった。


     ◇


「……あれが?」


 レイが聞く。


「推定」


 アリアは頷いた。


「古代文明崩壊要因の中枢存在」


     ◇


 教授の顔色が変わる。


「待ってくれ」


「はい」


「つまりあれは、千七百年前から存在しているのか?」


「可能性高」


     ◇


 教授は絶句した。


 セシリアも言葉を失う。


     ◇


 それほどの存在が、今なお空へ浮かんでいる。


 しかも、完全には封じ切れていない。


     ◇


「……ほんと迷惑だなぁ」


 レイは嫌そうに呟いた。


「千年以上経っても問題起こすなよ」


     ◇


 その時だった。


 都市内部の光が揺らぐ。


 直後。


 無数の白い光球が現れた。


     ◇


「警戒!」


 騎士団長が叫ぶ。


 騎士たちが武器を構える。


     ◇


 だが。


 光球は攻撃してこなかった。


 ゆっくりとレイたちの周囲へ浮かび、淡い光を放っている。


     ◇


 アリアが静かに言う。


「管理端末」


「また増えた」


「都市機能維持用」


     ◇


 光球の一つがレイの前へ来る。


 そして。


 日本語が浮かんだ。


     ◇


『中央管理領域へようこそ』


『管理者候補を確認』


『居住区安全確保済』


     ◇


「……普通に喋るなぁ」


 レイは引き気味だった。


     ◇


 教授は完全に観察モードへ入っている。


「術式自律思考型……」


「教授、少し落ち着いてください」


「無理だよセシリア君」


「でしょうね!」


     ◇


 エミリーは周囲を警戒しながら小さくため息を吐いた。


「レイ様」


「ん?」


「多分、ここからさらに面倒になります」


「知ってる」


     ◇


 本当に知っていた。


 都市へ入った瞬間から理解している。


 ここは世界の中枢だ。


 今までの事件全部に繋がっている。


     ◇


 管理権限。


 侵食。


 仮面の男。


 古代文明。


 全部だ。


     ◇


「……帰りたい」


 レイがぼやく。


「まだ言ってるんですか」


 セシリアが呆れる。


「だって面倒臭いし」


     ◇


 その時だった。


 都市の奥。


 巨大な塔が光る。


     ◇


 同時に。


 空の黒い月が脈動した。


     ◇


 空間が震える。


 侵食魔素が一気に濃くなる。


     ◇


 アリアの瞳が僅かに揺れた。


「……警告」


「ん?」


「侵食核、反応増大」


     ◇


 次の瞬間。


 都市の遠方で、爆発音が響いた。


     ◇


 黒い霧。


 崩壊音。


 白い建造物が吹き飛ぶ。


     ◇


「なに!?」


 セシリアが振り向く。


     ◇


 そこにいた。


     ◇


 巨大な人影。


 白銀の装甲。


 人型。


 だが、人ではない。


 十メートルを超える巨体。


 古代魔法陣を全身へ展開しながら、都市内部を破壊している。


     ◇


「……なんだあれ」


 レイが嫌そうな顔をした。


     ◇


 アリアが静かに告げる。


「古代文明防衛機構」


     ◇


 さらに。


 その白銀装甲の胸部には――。


 黒い侵食紋様が広がっていた。


     ◇


「侵食されてるのかよ……」


「現状、敵性判定濃厚」


     ◇


 防衛機構がこちらを向く。


 瞬間。


 赤黒い光が灯った。


     ◇


『管理権限未確認』


『侵入者認定』


『排除開始』


     ◇


 レイは深々とため息を吐いた。


「……ほら始まった」


     ◇


 直後。


 白銀の巨体が、都市を砕きながら突撃してきた。


 轟音。


 白銀の巨体が地面を砕きながら迫ってくる。


     ◇


 古代文明都市の白い街路が吹き飛んだ。


 石ではない。


 未知の素材で構成された街路そのものが、紙のように裂ける。


     ◇


「うわ速っ」


 レイは思わず声を上げた。


 巨体のくせに速度がおかしい。


 十メートル級。


 しかも全身重装甲。


 それが騎士の突撃並みの速度で突っ込んできている。


     ◇


「全員散開!」


 セシリアが即座に叫ぶ。


 騎士たちが飛び退く。


     ◇


 次の瞬間。


 白銀の腕が振り下ろされた。


     ◇


 衝撃。


 地面が爆発する。


 古代都市の街路が数十メートル単位で吹き飛んだ。


     ◇


「いや威力高っ!」


 レイは全力で後退した。


 余波だけで空気が裂ける。


 まともに食らえば普通に危ない。


     ◇


 教授が低く呟く。


「……古代文明製戦闘機構」


「教授、解説してる場合ですか!?」


 セシリアが雷撃を放ちながら叫ぶ。


     ◇


 紫電が白銀装甲へ直撃する。


 轟音。


 雷光が弾ける。


 だが。


     ◇


「硬っ……!」


 セシリアの顔が険しくなる。


 装甲表面に焦げ跡はついた。


 しかし浅い。


     ◇


 防衛機構の全身へ、侵食紋様が脈動する。


 黒い魔素が傷を修復していく。


     ◇


「再生まであるのかよ……」


 レイは露骨に嫌そうな顔をした。


     ◇


 その時。


 防衛機構の頭部が変形する。


 赤黒い光が収束。


     ◇


 アリアが即座に告げた。


「高出力術式反応」


「嫌な予感しかしない!」


     ◇


 直後。


 赤黒い光線が放たれた。


     ◇


 空間そのものを焼き裂く一撃。


 都市の建造物が一直線に蒸発する。


     ◇


「うおっ!?」


 レイは咄嗟に術式を展開した。


 空中へ日本語が走る。


     ◇


『偏向』


     ◇


 光線が曲がる。


 軌道を捻じ曲げられた赤黒い奔流が、空へ逸れた。


     ◇


 轟音。


 遥か上空で光が炸裂する。


     ◇


「……レイ様」


 エミリーが若干引いた顔をしていた。


「今さらっと空間曲げませんでした?」


「曲げた」


「簡単に言わないでください」


     ◇


 レイは疲れた顔で頭を掻いた。


「だって直撃嫌だし」


「そういう問題じゃありません」


     ◇


 だが、防衛機構は止まらない。


 再び術式光が収束する。


     ◇


「連射型かよ!」


 レイは顔をしかめた。


     ◇


 教授が冷静に観測している。


「術式構造は管理機構系列だね」


「つまり?」


「レイ君と同系統」


「嫌だなぁそれ」


     ◇


 その瞬間。


 防衛機構の周囲へ、無数の古代魔法陣が展開された。


     ◇


 都市全体が震える。


 空間が軋む。


 白銀の巨体が、都市そのものを制御し始めていた。


     ◇


「……あれ、この街の機能使ってないか?」


 レイが嫌そうに言う。


「可能性高」


 アリアが頷く。


「中央管理領域接続中」


     ◇


 嫌な予感しかしなかった。


     ◇


 直後。


 都市内部の塔が一斉に光る。


 白い街路へ術式が走った。


     ◇


「うわ、絶対面倒なやつ」


     ◇


 地面が変形する。


 都市そのものが動いた。


 白銀の壁がせり上がり、空間が区切られていく。


     ◇


「街が術式化してる……!?」


 セシリアが目を見開く。


     ◇


 教授が険しい顔になる。


「都市型管理術式だ」


「教授、そういうの先に言ってください!」


「私も初めて見たんだよ!」


     ◇


 防衛機構が再び突撃してくる。


 しかも今度は都市術式による補助付きだ。


 速度がさらに増している。


     ◇


「レイ様!」


 エミリーが声を上げる。


     ◇


 レイは大きくため息を吐いた。


「はぁ……」


 本当に気が進まない顔だった。


     ◇


「ちょっと壊すか」


「絶対ちょっとじゃ済みませんよね?」


「努力はする」


     ◇


 レイの周囲へ、巨大な古代術式が展開される。


 空間が震える。


 都市の光すら押し返す密度。


     ◇


 教授が静かに息を呑んだ。


「……また新規術式か」


「教授、観察モード入らないでください!」


 セシリアが叫ぶ。


     ◇


 だが教授は真顔だった。


「いや、これは見逃せない」


「今戦闘中です!」


「研究者だからね」


「開き直りましたね!?」


     ◇


 レイはそんなやり取りを聞き流しながら、前へ出た。


 防衛機構が迫る。


 赤黒い侵食光。


 白銀装甲。


 都市術式。


     ◇


 全部まとめて面倒だった。


     ◇


「……ほんとさぁ」


 レイはぼやく。


「俺、昼寝しに帰りたいんだけど」


     ◇


 そして。


 静かに古代魔語を紡いだ。


     ◇


『構造停止』


     ◇


 瞬間。


 世界が止まった。


     ◇


 防衛機構の動きが止まる。


 都市術式も止まる。


 光線収束も停止。


 空間そのものが凍りついたようだった。


     ◇


「なっ……!?」


 セシリアが絶句する。


     ◇


 教授の顔から笑みが消えた。


「……都市機能ごと止めたのか」


     ◇


 レイは疲れ切った顔で答える。


「術式の接続元まとめて切っただけ」


「だけ、で済む話じゃないんだよそれは……」


     ◇


 だが。


 その時だった。


     ◇


 空の黒い月が、大きく脈動した。


     ◇


 都市全域へ警報のような光が走る。


 白い建造物が次々赤く染まっていく。


     ◇


 アリアの瞳が揺れた。


「……中央管理領域、異常反応」


「今度は何」


「侵食核、起動率上昇」


     ◇


 直後。


 都市中央の巨大塔が、ゆっくりと開き始めた。

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